関西テレビ放送株式会社


番組審議会
No.584 2017.4.13
関西テレビ
「ザ・ドキュメント 夢の扉『課題研究』~先生を越えて進め~」について審議
出席の委員

上村洋行 司馬遼太郎記念館 館長 司馬遼太郎記念財団 理事長(委員長) / 井口文彦 産経新聞社 大阪本社 編集局長 / 井上章一 国際日本文化研究センター教授 / 金山順子 適格消費者団体ひょうご消費者ネット 理事 消費生活アドバイザー / 高江洲ひとみ 弁護士 / 瀧藤尊照 永寿福祉会 永寿特別養護老人ホーム 管理医師(敬称略50音順)

レポート参加

後藤正治 作家 / 通崎睦美 音楽家 文筆家 / 難波功士 関西学院大学社会学部教授

関西テレビ

福井澄郎 代表取締役社長 / 宮前周司 専務取締役 / 谷口泰規 常務取締役 / 喜多隆 取締役制作局長 / 伊東亮 取締役報道局長 / 大澤徹也 編成局長 / 西澤宏隆 スポーツ部長 / 奥村肇 制作技術局長

4月13日(木)に開催された第584回関西テレビ放送番組審議会では、4月期の番組改編報告に加え、2016年度下期6カ月間の番組種別ごとの放送時間の集計について報告があり、審議会の了承をいただきました。番組は、3月28日(火)放送の『ザ・ドキュメント 夢への扉「課題研究」~先生を越えて進め~』が審議されました。 大阪府立松原高校総合学科 3年生の、「課題研究」の取り組みに取材した番組で、各委員から高評価をいただきました。

包括的な総評として…

有意義なドキュメンタリーだった。人前で話せないことをテレビカメラで収録するには、時間をかけて取材対象と深い信頼関係を築く必要がある。さまざまな社会問題に取り組み、自らの生き方を考える高校生たちの姿は、見るものの心を動かす。
虐待、差別は人権にかかわる大変深刻な問題。18歳の高校生がみずからの体験を隠さずに、繕わずに、辛い自分の体験から自分なりの結論を出していく葛藤は、見る側の心を打つ。そこを伝えようとする番組には感動する。
「課題研究」の発表。涙ぐみ鼻すすりながらも、今風のパキパキっとしたスピードの関西弁で語られる彼女を映し撮った、映像の力も特筆モノだ。地味なジャンルだがトータルとしての番組感(観)はとてもいい。こういう番組を待望する。

主要な登場人物は、3人の女生徒となったが…

主人公の女子高校生の「課題研究」発表の、「伝える力」がすばらしい。聞きほれた。差別や偏見を怖がって自分を押し殺しがちな若者の「魂の成長の物語」だ。文学性の非常に高い、「嫌悪と和解」の深い物語と見た。大変よかった。
取り上げられた人は皆女子。初めから絵になるのは女子だという判断だろうか、男子にはあまり期待していなさそうなところが、すこし気になった。結果的に悪いというわけでは全然ないのだが…。
今どきの女子高生が主人公だが、まじめなキャラクターで好感が持てた。「はすに構える」年頃なのに、みんな真剣に「自分が今、しなきゃいけないこと」に向かって課題をクリアしていく。見ていてすがすがしい感じがした。

「DV」「障害者の兄」「いじめの贖罪」、それぞれのテーマは重い

障害を持った兄の存在を恥ずかしく思い、知られたら「自分がいじめの対象になりかねない」と…。とてもずるい、ひどいことを考えて、その存在を隠そうとした過去。障害者の兄が「怖い」の原点だったと明かす。
「逃げなかった兄」。障害者の兄はみじめな存在なんかではなかったこと、尊敬すべき存在だったことに彼女は気づく。非常に文学性の高いテーマに、深く向きあった物語で、同世代の高校生たちに見てほしいコンテンツ。大変よかった。
妹はそういう自分を嫌悪してきた。しかし、兄はみじめな存在なんかではなく、「尊敬すべき存在」だったとの「気づき」にたどり着いた過程を、彼女は課題研究発表会で全て吐き出し、話す。このスピーチの、説得力・プレゼン力がすごい。

いじめてきた側の自分、その贖罪は「カムアウト」のテーマたりうるのか、葛藤は続く

自分がいじめる側に立った悔恨から、被害者に謝罪を試みるが「偽善ではないか」「許されるだろうか」と思い悩む。逃げなかった兄に倣って、みずからも最も隠したいであろう内心部分を、逃げずに明かして前へと行こうとする「魂の成長の物語」だ。
「許しても、友達にはなれない」と言われて、いじめてきた罪の重さを思い知る。劣等感、罪悪感、自分のアイデンティティを壊してしまいかねない、周囲の目が変わってしまいかねないリスクを越えて前へと行こうとする葛藤がよく描かれている。
胸打たれた「課題研究」発表。小芝居を演じる芝居っ気もプレゼン能力のうち。「自分のやってることは結局偽善なんじゃないか」という苦悩を超克する力、つまり懺悔への意欲は、カメラがかき立てたのかもしれない。
「いじめのことを発表するのは嫌だ」ということを、何度もドキュメントの中で吐露する彼女。今回の放送に際して、どういうプロセスでこの放送に「どうやってこぎ着けたんだろう」というところは、正直興味深い。説得にも葛藤はあっただろう。

パワーポイントを使わない、「アナログの極み」のプレゼンテーションに…

キーワードの紙片をリュックに入れて、「私は一生これを背負って生きていきます」と教室を出ていく。プレゼンテーション上の演出や作為という抵抗感は全く受けない。18才にもかかわらずその決意の凄味すら感じさせられ、敬意を表したい。
いまでもパソコンを持たない自分は、絵や字を書き込んだ紙片、矢印型の紙片を黒板に貼っていく発表の光景に、いやされた。貼りつけたスライド黒板を上下して場を盛り上げるのもいい。パワーポイントに走らず、あのまま頑張ってほしい。
文部科学省がイメージする「課題研究」は、先端自然科学のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)、英語でプレゼンさせるSGH(スーパーグローバルハイスクール)などはエリート主義的で、それらの高校生は、当たり前のようにパワーポイントでプレゼンする。
そうした文科省的な課題研究の対極にあるような、「黒板に紙を貼る」松原高校の課題研究のありようが際立つ。無いものねだりになるが、教育行政全般の流れをふまえて今回の事例を考えると、またいろいろなことが見えてきたはず…。もったいない。

松原高校の「沿革」、あるいは「総合学科」「課題研究」の解説、補助線は必要と…

松原高校が地域で、どんな学校として住民から認知されてるのか、が全くわからない状態で視聴したが、最初は「あまり出来のよくない」「微妙な学校」と感じた。もう少し補助線としての、背景説明が欲しい。
このドキュメンタリーが「微妙な学校の微妙な高校生たちが悩んで考えて自分と向き合った末に何かを見つけて方向性を見出した」という物語として完成するとは、はじめ予想できなかった。松高のレベル、学力レベルがわからなかったからだ。
これほどの教育実践があるということを知ることができたのは有意義だったが、松原高校の「課題研究」が高校教育全般の中でどういった位置にあるのか、今回の事例から高校教育の現在の何が見えてくるのか、ということをもっと深く知りたかった。
「課題研究」で説明不足気味なのは、松原高校における取り組みの歴史。「いじめた過去」の発表を促す先生たちだが、「押しつけ」になりはしないか、との疑念も持った。取り組みの本旨と背景がもうすこし明示されていれば、この疑念はない。

「課題研究」はとくに「総合学科」との連関で背景説明を促がされた

「課題研究」「総合学科」などの背景説明が、もう少しあればよかった。視聴者は番組を見ながら、どこかで自分の認識が押さえられる箇所が欲しい。冒頭はわずかな説明でスルーするとしても、どこかで反芻し受容できる、説明が欲しかった。
高校教育のおかれている現状と課題について、視聴者により深くつっこんで考えてもらうきっかけにもなりえたのに、その点が弱い。20年以上経過した「総合学科」の成否、「アクティブラーニング」として、文部行政が最近推奨する「課題研究」との関係は如何?
「ゆとり教育」の文脈の中から生まれた「総合学科」も、その存在意義が、現在問い直されている。大阪では松原高校などが、人権教育に力を入れることで成功例となっているが、他では形骸化も目立つ。「総合学科」に関してもう少し詳述して欲しかった。

撮影と編集について、特記すべきご言及

画づくりで括目した場面。先生が皆の課題研究発表を講評する場面。生徒たちが、お互いの手をずっと握りしめる。その握りしめてる手を「クローズアップ」することなく、あおらずに映していた。あそこはいい、感銘を受けた。
プレゼン・スピーチはじめ「肉声」の人を引きつける力が高いので、編集点で音声が途切れると、もの足りなく感じた。「この続き何と言うんだろう、もっと聞きたい」と期待して見てると、ナレーションが入る。ちょっと残念だった。
高校生の会話を生のまま使う。これがメーンの表現、言語となるが、口跡はあまりよろしくない。語尾が消えたり、言葉足らずということもあり、これだけのテーマに取り組みながら、充分な認識に至らぬままま進行してしまった部分もある。
もとよりドキュメンタリーは、先生と生徒の生の声を中心に据えていくほうが迫力や臨場感があっていい。口跡の聞き取りにくさをカバーする、配慮したナレーションであって欲しい。老人になったので余計にそう感じる。
ドキュメンタリーは極力ナレーションは少なくして、登場人物たちの肉声で紡ぐほうがリアル感が増すと思う。心の葛藤など、どうしても本人の声として採れないところはナレーションが効果的だろうが、水川あさみのナレーター起用は意外だった。

記号としての「JK」への先入観を覆す、生き方の「濃さ」に感銘と…

彼女達のプレゼンの、技術だけじゃなく中身の濃さもすごい。「自分の発表は嫌な思いをさせるためじゃない」と、聞き手ととことん向かい合う。どういうふうにどこまで話すかという「葛藤」もよく描かれている。「今どきの高校生」に括目させる力作。
インターネットで合格発表をみる。スマホと化粧道具は必需品で、ユーチューバーを目指すという。一方で、人権問題を真剣に考えて、考えながら何か明るい。際立つプレゼンテーション力。今ドキの高校生のいい面がうかがえて大変おもしろかった。
「敬語レス」「厚化粧」など、「だらしない、本当に高3なのか」と当初訝しかったが、発表会では見違える。「虐待をなくす」「違いを豊かさに」…難しいテーマをきちんと発表。それまでのグダグダとは全然違う雰囲気で、このギャップがすごい。

若い指導教員の、教育実践の細部にも、注目された

若い指導教員の姿が印象的だ。安易に解答や正解を提示せず、生徒たち自身に考えさせることを促していることがよく伝わってくる。「教師になって虐待から子供たちを救い出したい」と教え子が言う。教育の原点—そんな言葉がよぎる番組でもあった。
苦悩する高校生たちの人生にかかわって、今後の人生を後押しする仕事。指導の仕方はじめ、学ぶところの多い先生で、同世代として「頑張らねば…」という私自身へのエールにもなった。
「教師になりたい」という。「違い」がもたらす差別や偏見を畏れ、自分を押し殺しがちな若者を、まさしくそういう経験をしてきたからこそ、自身が教師になって助けたいと。ここまで彼女は到達する「魂の成長の物語」というべきか。
「課題研究」を指導する先生の役割は大きい。生徒たちに対する助言、アドバイスのそれぞれに存在感がある。夜遅くまで「ああでもない、こうでもない」と、「課題研究」指導の、縁の下の力持ちとしての努力がよくわかった。

ドキュメンタリーの「タイトル」とはむずかしい

番組タイトルが、ドキュメントの内容と合っていないのでは…。高校生が今の自分と向き合うということが大きなテーマ。ドキュメントのエッセンス。「夢への扉」よりも、今の苦悩と向き合う、端的な題名のほうがしっくりしたのではないか。
小細工がなく、素直な気持ちでみられる良い番組。「課題研究」が一般的語彙ではないのでタイトルはあいまいな印象を受け、「総合学科」についての補助的な説明も欲しかった。メイクの有無で主人公は別人に見えて紛らわしかった。
共感を持ったが、タイトルには惹かれなかった。「課題研究」は一般的ではなく「夢への扉」「先生を越えて進め」も、あいまいな印象。「高校生の授業」であることがわかる、具体的なワードが入っていたほうがよかったのでは。

「余談ですが…」のお尋ねとご指摘

ドキュメンタリーのカメラというのは冷やかな傍観者では多分あり得ないと思う。カメラがあるから発言をひかえるのではなく、嵩じて語る人もいる。カメラが現場を攪乱し得る可能性を、取材者としてどう覚悟しているか伺いたい。
「課題研究」を聞いた後輩たちの感想が聞きたかった、取り上げてほしかった。これから発表していく後輩たち、同年代の彼女、彼らが先輩の発表を聞いてどう思ったのかというところも知りたかった。
精神的な達成を仏教では「羯諦(ぎゃあてい)」というが、内容的にすごく濃い成長過程を映し出すドラマのように感じた。課題研究の発表シーンは圧巻。青年期、葛藤しながらアイデンティティを確立していく物語で、仏教哲学にいう「縁生(えんしょう)」に彼女たちは気がついている。

番組での感銘を受け、であればこその、その「背景」その「先」へ質問が相次いだ

高校生のうちに自分の内面を見つめ直す機会を得た、「この子たちはすごい体験をしているな」とうらやましく思った。「松原高校の課題研究」という検索だけで、この内実にたどり着けたわけではないとすれば、番組制作に至るプロセスも知りたい。

番組審議会に出席して

報道局 報道センターディレクター・宮田輝美
委員各位からそれぞれのお立場ならではのご感想をいただき、とても新鮮でした。私自身、取材の過程で「自分はこんな風に向き合ったことあったかな?」と何度となく思いました。ですから、(視聴者の方々にも)「しんどい子が頑張って発表した」ではなく、見た人が自分を振り返ってもらえる時間になったらという思いがありました。また、随所で、そのカットを使った奥の意味を問われました。ほとんどは確信犯的に使ったカットですが、切り刻む編集はしたくないという思いから、流れで入ってしまった部分もありました。でも使った以上は、すべてが制作者の意図とみなされます。制作者は一音に至るまで責任を持つべきと改めて実感しました。今後、より深く多様な視点で番組制作を行うために、いただいた気付きを糧にしてまいります。ありがとうございました。

〒530-8408 大阪市北区扇町2丁目1-7 関西テレビ放送 番組審議会事務局

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