番組審議会 議事録概要
「ザ・ドキュメント 引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群」(7/7放送分)について審議
- 放送日時
- 2023年7月7日(金)25:25~26:40
- 視聴率
- 個人全体
関西地区 0.9%(占拠率21.2%) - オブザーバー
- 報道局 報道センター ディレクター
上田大輔
参加者
委員 |
委員長上村洋行(司馬遼太郎記念館 館長 司馬遼太郎記念財団 理事長) 委員長代行難波功士(関西学院大学 社会学部 教授) ※レポート出席(敬称略50音順) |
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関西テレビ |
羽牟正一 代表取締役社長 |
議題
- 関西テレビ放送基準の改正について説明・諮問
番組審議会からの答申 - 局に寄せられた視聴者からの意見苦情等の概要(7、8月分)報告
- 審議番組「ザ・ドキュメント 引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群」(7/7金 25:25~26:40放送分)
- その他番組全般、放送に対するご意見、質問等
第647回番組審議会にて、関西テレビの放送基準改正(来年4月施行)について諮問し、番組審議会からは、了承するとの答申をいただいた。
今改正では「放送内容によっては、SNS等において出演者に対する想定外の誹謗中傷を誘引することがあり得ることに留意する。また、出演者の精神的な健康状態にも配慮する」という内容を、第8章56条として新設する。これにともない、解説文や留意事項、第1章の第2条の解説文に追記を行う。改正は2024年4月施行予定。
他に審議会への報告として、ジャニーズ性加害問題に対する当社の見解として、『ジャニーズ事務所が、創業者の性加害の事実を認め、再発防止策と被害者補償やケアに取り組んでいく姿勢を示されました。取り組み内容については、今後、具体策を取りまとめられるものと認識しております。ジャニーズ事務所の「外部専門家による再発防止特別チーム」からメディアの「人権デュー・ディリジェンス」が必要であるとのご指摘を真摯に受け止め、ジャニーズ事務所の今後の取り組み状況について注視し、必要に応じて、情報開示を求めていきたいと考えております。当社としては、今後も人権を尊重した企業を目指してまいります。』との見解を報告した。これに対し委員からは、「海外の目は厳しいと考えるべき」や「ネット社会と違いマスメディアは責任をもつメディア。そこが揺らがないようにしなければならない。人権問題との関わりも含めてお願いしたい」という意見が出された。
続いて、7月・8月の視聴者対応報告、番組「ザ・ドキュメント 引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群」について、審議いただいた。
番組概要
「ふたつの正義」「裁かれる正義」に続く、“検証・揺さぶられっ子症候群”シリーズ第三弾
家族を引き裂く「虐待冤罪」被害の全貌を描くドキュメンタリー
写真家の赤阪友昭さん。2017年に家族4人の平穏な暮らしが一変する。
赤阪さんが大阪市内の自宅で当時生後2ヶ月の長男をあやしていた時、長男が急変し喉に何かが詰まった様子に。助けようと長男の背中を叩いたが、容態は改善せず、119番通報。病院で、長男には硬膜下血腫や眼底出血が見つかった。
長男の退院予定だった日、長男は児童相談所に一時保護され、赤阪さん夫妻には居場所すら教えられなかった。赤阪さんが疑われたのは、揺さぶられっ子症候群、通称SBS(Shaken Baby Syndrome)。病院の通報により、赤阪さんが長男を暴力的に激しく揺さぶったと疑われていた。
赤阪さん夫妻は、「祖父母との同居」などを提案して長男を一日でも早く家庭に戻してほしいと訴え続けたが、児童相談所は「虐待前提」の対応を変えようとしなかった。
そして、長男不在の赤阪さん家族にさらなる試練が襲いかかる。長男への傷害容疑で赤阪さんが逮捕され、その後起訴される。刑事裁判は長期化し、その間、児童相談所は父親と長男の同居を制限し続け、赤阪さんは、4年以上も家族離ればなれの生活を余儀なくされた。
赤阪さんと同じく、2017年にSBSを疑われ、愛する子供と長期にわたって引き離された家族がいる。菅家(かんけ)さん夫妻。当時生後7ヶ月の長男が自宅でつかまり立ちから転倒して、急変。救急搬送されたが、硬膜下血腫や眼底出血が見つかる。
病院は「家庭内での転倒では起こらない症状」だとして、児童相談所に通報。その後、長男は一時保護され、自宅に戻ってきたのは1年4ヶ月後のことだった。
2010年代に大阪を中心に急増したSBS事件での逮捕・起訴。
しかし、2017年「SBS検証プロジェクト」の登場により、SBS裁判で「揺さぶり」を否定する無罪判決が続出し、有罪率99.8%の日本の刑事裁判で前代未聞の事態に。
その過程で明らかになったのは、「虐待ありき」のSBS診断、「福祉警察」と化した児童相談所、そして「人質司法」に象徴される日本の刑事司法の問題…。
「虐待冤罪」を経験したふたつの家族を通して、育児環境を取り巻く深刻な現状がはっきりと浮かび上がる。
委員からのご意見
- 課題は、社会全体にあると思っている。例えばマニュアル主義、マニュアルに沿ってやらないといけないという組織の在り方、人手、能力の不足。特に医療の分野の組織のヒエラルキーはいろいろな面で実感している。こういう社会の現実があってこの番組があるという中で、現実を広く知ってもらうというのが大きな役割の一つだと思う。
- 丁寧に作られたよい番組。事故であるか犯罪であるかは、いずれにしても密室内での出来事なので、これをどちらでしょうというふうに検証するのは取材が難しい。そこを取材でしっかり分け入っていたと思う。
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気になったのは、SBS検証プロジェクトで10人目の無罪という話だが、これは有罪になったケースはあるのか、また今回の事案は先天性の異常が原因で、揺さぶりが原因ではないと証明するというのが弁護士からすれば当然の戦術だと思うが、万一、先天性の異常がなかったら一体どうなっていたんだろうと同時に気になった。
上記のご意見への返答
有罪になっているケースもありますが、ほとんど被告人が最初に認めているケースです。SBS検証プロジェクトが関与して、揺さぶりとは言えないのではないかということで争っているケースはほぼ無罪になっているのが現状です。ただ、今も「揺さぶりなどの暴行」と一審で認められたケースが、二審で争われているものもあります。ですので、SBS事件はまだまだ裁判で激しく争われていると言える状況かなというふうに思っています。
また、先天性異常がなければどうなったのかというご質問ですが、今回の判決は大きく2つ判断していまして、一つは検察が3徴候をもとに揺さぶりだと主張したのは、根拠が不十分だということ。もう一つは、弁護側が主張した先天性の疾患でも十分出血原因になるという二本立てです。先天性の主張がもしなければ、つまり先天性の異常がわからなければ、この1点目だけが争われたわけですが、1点目についても立証が不十分ですと言われているので、無罪になったんだろうというふうに思います。ディレクター・上田大輔
- 結局、引き裂かれる家族がいるその理由というのは、児相が悪いとかじゃなくて、「子ども虐待対応の手引き」というものが、小児科学会中心につくられたために、脳神経外科医の意見ではなく、虐待を専門とする小児科医が、古いアメリカの仮説にのっとってそのまま書いているということ。それがマニュアル化され、児相とか病院の先生が従ってしまう。そこのところをもっと強く言って、それを軸に、小児科学会と脳神経外科学会の対立とか、もっと深掘りしてもらったほうがわかりやすい。
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一方的な内容だと受け止めた。SBSらしさは虐待と考える立場のお医者さんがいる。その代表例として、小児科医が言っていたのが「脳にある兆候があれば、まず虐待を疑いなさい。プライマリーに疑いなさいと。」多分、ある程度妥当性があるのだと思う。疑わしいだけでは罰せない。法律的にはそうだ。でも、疑わしいだけでは児童保護をしないとなったときに、虐待が見逃される可能性もある。小児科医は、その失敗で死んでしまった子どもを何人も見ていると言っていた。あの言葉にうそがあると思いたくないし、それはそのとおりなんだと思う。
上記のご意見への返答
まず、「SBSイコール虐待」「ある程度妥当性がある」というお話でしたが、私が調べても医学的根拠がどうも見当たらないんです。ここでこの問題のすれ違いが起こるんです。今まで何十年も「SBSの一定の症状があれば虐待を疑う、その可能性は高い」ということで進められてきています。だから医師の方も、児童福祉関係者の方も、それなりには根拠があるはずだと。
しかし、そもそも「SBSの可能性高い」との診断に根拠があるのかということが問題だと思うんですね。
番組に対する厳しい意見をたくさんいただきますが、ほとんどは、「何かこの症状があったらほとんど虐待なんですよね」「ごくたまに冤罪が入っているんですよね」という理解が前提での意見です。
今回の判決でも認められていますが、「3つの症状があってもSBSの診断根拠としては不十分です」と。アメリカでは裁判所がジャンクサイエンスだとまで言った例もあります。まずここから考えないと、本当は議論がかみ合わないと思っています。この前提をしっかり伝えられていないのではないかという反省を覚えました。ディレクター・上田大輔
- 疑わしいケースで即座に子どもを隔離してしまえば、少なからぬ家庭に不幸が起こる。これはもう今回のドキュメンタリーのみならず、関西テレビが今までにも教えてくれたことだ。でも、疑わしいだけだからといって見逃してしまうと、死んでしまう子も残念ながらいる。じゃ、どうすればいいのかという答えが、まだ見つかっていないと思う。このどうすればいいのかということを考えさせてくれるような番組を、作っていってほしい。
- 児相側が個別のケースについての取材を拒否するということは普通にあることなので、おそらくかなり取材は難しいだろう。だから、児相を所管する府や市、そういったところの福祉部門の取材、こういったことにチャレンジする道がなかったか、なぜそれがあまり伝わらなかったのかをもう一回見つめなおしてほしい。
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SBSを第一に疑うべきとのマニュアル作りに携わった小児科医へのインタビューは、もっと丁寧に行ってほしかった。特に、小児科医が質問に答えながら去っていくシーンは、印象がよくない。マニュアル作りに携わった小児科医はどのような思いでこのマニュアルを作り、なぜこの表現にしたのか、マニュアルの表現の具体的問題点は何なのか、問題があるとしたらどう表現するべきなのか、このマニュアルの表現を医師たち、児童相談所はどうとらえているのか、文言だけが独り歩きしていないかなど、もう少し丁寧にマニュアルの検証や、SBSを疑うべきと主張する側の意見を盛り込んでほしかった。
上記のご意見への返答
小児科医へのインタビューについて、反省点はあります。別に直撃取材をしたわけではないのですが、あの場だけの機会、短い時間の中でちょっと焦っていたところがあったかもしれません。ただ、自分が質問しているところをカットしたりするのもよくないので、編集は最小限にしています。小児科医の先生もある種思いを私にぶつけてくださった。そこにこの議論の本質があるんじゃないかという思いで見ていただけたらと思っています。
ディレクター・上田大輔
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マニュアルの基になるものをつくられた虐待防止学会理事長(当時)の小児科医にディレクターが直撃する場面、あれは、ディレクターがむきになっているとか熱くなっているとかあるだろうが、(小児科医の)「まず第一に考えろと書いてあるだけで、決めつけろと書いていないじゃないですか」と、この言葉を引き出せたのはよかった。つまり、小児科医も決めつけろと言っていないですよというようなことを自らおっしゃっていると。
医師も児相も結局、硬膜下血腫や眼底出血などの所見が見られれば、虐待ありきで事案を扱うということが浮き彫りになったということが言えるのではないか。つまり、マニュアルの改訂だとか修正だとか、そういった必要があるのではないかと疑問を投げかけているということだ。 - 「無職の母親、38歳、逮捕」と表示されたニュース映像は正直ぞっとした。おそらく専業主婦だったのだろう。専業主婦が逮捕されるニュースでは「無職の母親」と表示され、「逮捕」という文字とともに並べられることで、専業主婦にすぎないのに、悪い母親という印象を視聴者に与える。ニュースとして逮捕されたことが流れてしまうと、さも虐待していたこと事実であったかのように受け取られるうえに、無職とまで表現されて、子どもが無事過ごせているか不安な中、ここまで追いつめられるとなんともいえない気持ちになった。
- 全体としては意義がある番組で、いいドキュメンタリーだとは思うが、自分たちが伝えたいと思っていることをどう受け止められるかとか、ドキュメンタリー自体がどんなふうに社会の中で位置づけられて、特に若い人からどう見られているのかという意識がないと、昔なりの俺たちはジャーナリストで正しいことをやっているというだけではなかなか通用しなくなっているのではないか。
- SBS問題について丁寧に取材をされてきて、まだ今後も、SBS問題を追っていかれると思う。冤罪が生み出される一方で、虐待により救えなかった命についての痛ましいニュースが流れてくる。救うべき命を守るためにはどうするべきだったのか、児童相談所の組織や体制の問題点などを考えるためのドキュメンタリーも見たいと強く感じた。
委員のご意見を受けて
- 報道局報道センター
上田大輔ディレクター - 『二兎を追うものは一兎をも得ず』。番組審議会の途中で頭によぎった諺です。SBSを巡る医学論争、児相による親子分離、そして刑事司法の問題…この“三兎”を追ったがために、分かりにくい番組になってしまってはいないだろうか。少し不安を覚えました。構成はいつも手探りで、あれこれ悩みながら編集しています。委員から頂いた様々なご指摘を踏まえて、今後も取材を続けていかなければと気持ちを新たにさせて頂きました。ありがとうございました。