番組審議会 議事録概要

No.639 2022.11.10

『エルピス —希望、あるいは災い—』第1話について審議

放送日時
2022年10月24日(月)22:00~23:09(初回のみ拡大) 全国ネット
視聴率
個人全体
関西5.5% 占拠率(21.6%)
関東4.4% 占拠率(19.8%)
オブザーバー
クリエイティブ本部 制作局 東京制作部
プロデューサー
佐野 亜裕美

参加者

委員

委員長

上村洋行(司馬遼太郎記念館 館長 司馬遼太郎記念財団 理事長)

委員長代行

難波功士(関西学院大学 社会学部 教授)

井上章一※(国際日本文化研究センター 所長)
上野信子(ジャトー株式会社 顧問 関西国際交流団体協議会 理事)
黒川博行(作家)
高江洲ひとみ※(弁護士)
通崎睦美※(木琴奏者)
早嶋 茂※(株式会社旭屋書店 取締役会長)
堀 洋(産経新聞社大阪本社 大阪代表補佐兼編集局長兼写真報道局長)

(敬称略50音順)

関西テレビ

羽牟正一 代表取締役社長
宮川慶一 専務取締役
岡 宏幸 コンテンツデザイン局長
小杉太二 報道局長
小寺健太 制作局長
高島久美 コーポレート局長
西澤宏隆 スポーツ局長
横山和明 制作技術統括局長

※印…オンライン(zoom)出席

議題

  • 局に寄せられた視聴者からの意見苦情等の概要(10月分)報告
  • 審議番組 「エルピス —希望、あるいは災い—」第1話
    (10/24月 22:00~23:09放送)
  • その他 番組全般、放送に対するご意見、質問等

第639回番組審議会は、新型コロナウイルス感染防止のため、オンラインと一部対面による開催とした。10月の視聴者対応状況報告のほか、番組審議は「エルピス —希望、あるいは災い—」の第1話について。

 「エルピス ―希望、あるいは災い―」
番組概要

『エルピス —希望、あるいは災い—』第1話
スキャンダルで失墜したアナウンサーと、バラエティ番組の新人ディレクターとが、ふとしたきっかけで、とある連続殺人事件が冤罪なのではないかということを知り、その真相を追及していく。

委員からのご意見

「第一話で疑問を感じたこと」

  • 1回目を見て、不自然な点が多かった。冤罪について、最高裁の死刑判決まで出ているものを覆そうという強い動機として、メディアの責任が重かったという使命感だけで動き出すものか、気になる発言が多々あった。
  • チェリーというヘアメイクの人は何で岸本に頼んだのか。頼りにならん軽薄な男だとわかっているはずなのに、ボンボンガールを口説いたのをおどしの材料として使うというのはあるのか。冤罪を晴らすというのと、ボンボンガールを口説いていたというのをおどすというのとは、バランスが取れていないのでは。
  • 冤罪を扱うという触れ込みなのに、事件の概要が全くわからない。何人の被害者がいて、被疑者が何を決め手に逮捕されたのかもわからない。控訴審があったのか、上告されたのか。最高裁で死刑判決があったのか、上告棄却なのか。初回で、データが足りないなかで話が進んでいく。
  • この冤罪には警察側にも決め手があるはず。冤罪事件というのは、双方に言い分がある。冤罪か冤罪でないかは、その時点ではわからない。再審請求とかがなされて、最終的に裁判で有罪判決、無罪判決が出るまではわからない。あと、真犯人が野放しになっているのなら、なぜもっとマスコミが冤罪として触れないのか。そこも不思議に思った。

    上記のご意見への返答

    このドラマをつくる上での制作者としてのテーマとしては、昨今、ドラマに限らずですが、とにかくわかりやすいものが好まれるという風潮に少しでも抵抗を試みてみたかった。おごりかもしれませんが、もうちょっとわからないことを楽しむことの耐性をつけなければいけないのではないか、そのほうが少しでも社会がよくなるのではないかという思いもあり、あえて挑戦しているところもあります。一つの挑戦としてある種の不自然さだったり、ある種のわからなさだったりというものを散りばめたところはあります。
    また、主人公たちが記者ではなく、報道部の局員でもなく、バラエティの新人ディレクターと女性アナウンサーというところで、門外漢の人たちがこの事件を知っていくという過程を視聴者と共に味わっていくというものがつくりたいなと思ってやっています。なので、最初にあまり全てを提示せず、彼らと一緒に事件のことを知っていくというふうに楽しんで見ていただけたらいいなという願いを込めてつくりました。

    プロデューサー・佐野 亜裕美

  • わからないことだらけのドラマだったが、面白いと思った。わからないからこそ、これからの展開で、冤罪の内容とか、各人がここまでのめり込んでいく動機がわかっていくのだと思う。

「番組全体について」

  • 伏線かなと思ういろいろ気になったポイントがあり、3話まで興味深く見た。全てを最初にさらけ出さない、わかりにくさを目指しているということで、見る人を選ぶ番組で、途中で離脱する人も多いとは思うが、コアなファンがついて繰り返し見られていくようなコンテンツに育っていく可能性は随分感じた。
  • パンドラの箱がモチーフになっていて、普通触ってはいけないし、触らないほうが安全なものなんだけれども、開けなきゃいけないときは開けるというのがテーマとしてあるというのがよくわかった。ただ、なぜこの登場人物はそのパンドラの箱をわざわざ開けようとしているのかの動機がわかりづらいというのは思った。
  • 全体的に真面目で重いテーマだと思うが、ずっと重々しいという感じでもなくテンポもよかった。
    第3話まで全体を通して言うと、各話、岸本拓朗と浅川さんの視点が交代で語られていて、その仕掛けもすごくいい。当然、岸本拓朗の視点で語られるときは、浅川恵那が何を思っているかというのはわからないが、第2話になってこういったことを考えていたんだというのはわかるし、第3話はまた岸本卓朗の視点に戻って、こういう各話視点が変わりながらドラマを見るのも、あまり今までなかったことで、その仕掛けというか試みがすごく面白い。

    上記のご意見への返答

    ナレーションを交互にやっていくということに関しては、見る人によって一つの事実でも見え方が全然違うというような、このドラマの大きなテーマの一つでもあるんですけれども、そういったことを表現していきたいというのもあります。
    前半戦は二人が交互にナレーションを、モノローグを読んでいく。後半は少し混ざっていくというような、その二人の関係性の表現としてもその装置が使えるようにと思ってそのようなやり方にしております。

    プロデューサー・佐野 亜裕美

  • このドラマは第1回にしては風呂敷が小さい。たった一つの冤罪だけで最終回まで興味を持たせられるのか。あと、風呂敷をどういうふうに畳むのかなという余計な心配をした。
    けれども、冤罪というテーマはとても奥が深い。間口が狭くて奥が深いので、これから少しずつ解明していくのだろう。そういう意味で、次回以降に興味を持たされた、よいドラマであった。
  • 露悪的に作っているのだと思うが、プロデューサー村井の発言がひどい。全体のストーリー展開のなかで、仕事や生活で、いろんなところに壁があって、理不尽なこともあって、追い詰められて…というのを示す必要な要素だという判断だと思うが、現実的じゃない。
  • 長澤まさみ演じるアナウンサーがテレビの報道局の人の姿勢について、「報道は誰もが自分の言ったことに責任を持ちたがらない」と。「冤罪事件なんて誰もやりたくない」と言う。そういう側面もあるのだろうが、それが全てのように語られると、新聞やテレビの報道が、責任なんかまったく考えないでニュースをただ流しているように聞こえる。事実は決してそんなに単純ではない。
  • 最後のほうは、次どういう展開になるのかなと思わされたが、そう思うまでの時間が若干長かったような気がした。勝海舟役の人や、フライデーボンボンのプロデューサーのわざとらしさが昔のテレビっぽくて、何か白けたところが残念。
  • 浅川アナがオフィスでしめす表情は、基本的に明るくないが、ラストの料理番組らしいセットでは、急に明るくなり、人工的な白を強調していた。テレビの笑顔は、しらじらしいつくりものだと言っているように、見える。テレビの内幕物には、おのずと限界もあるだろう。しかし、けっこうせめているドラマだとは感じた。
  • バラエティ情報番組の内容を見せる、副総理のシーンで官邸キャップ以下のスタッフが、大名行列のようについていく、あるいは報道局のデスクに持っていったら、忙しいからと言って逃げられてしまう。そういうさんざんな表現が出てくるが、もちろんこれはオーバーにカリカチュアライズされたものだというふうには思ったが、そのことによって主人公らの背景が鮮明になって、主人公の行動がよく浮かび上がった。
  • ドラマというのは大変難しくて、あまりリアリティを重んじていくと、違和感が出てきたりするし、わからないことを強調するつくり方はいいと思うが、あまりにも茫漠としたようなイメージを視聴者に与えてしまわない方がいい。その芯の部分をもう少し丁寧に描いてもらえたら。
  • 映像もきれいで、キャラクター設定は各人問題を抱えていて、正しいことをしたいという言葉がよく出てくるが、何が「正しい」かは、人の主観も関係してくるし相当難しい問題。彼らがこの冤罪事件を通してどのように人として成長していくのか、何を感じていくのかという点を楽しみにして見ていきたい。

「Tverのスピンオフドラマについて」

  • TVerの「8人はテレビを見ない」というスピンオフの番組も、すごく面白い。本編もそうだが、結構マスコミ批判とかも出ていて、テレビ局がつくっているのにテレビを見ないというタイトルで、すごく挑戦的なコンテンツをつくろうとしているんだろう、面白いと思った。
  • (TVerの)「8人はテレビを見ない」は、めちゃくちゃ面白い。これは本編とはものすごく距離感があるが、ちょっとだけ本編と絡んでいて、この「8人はテレビを見ない」を見ることによって、本編に関していろんな解釈をし始めるみたいな、その辺が面白い。

委員のご意見を受けて

クリエイティブ本部 制作局東京制作部 プロデューサー
佐野 亜裕美
前作(「大豆田とわ子と三人の元夫」)の審議の際にも感じましたが、「リアリティ」のラインをどこに設定するのか、その設定の仕方でどんな効果がもたらされるのか、改めて考えさせられました。
また「連ドラの第1話の作り方」に関しても、正解がない中で日々模索を続けておりますが、参考になる意見を多数いただきました。今後の制作の糧にしていきます。ありがとうございました。