番組「胸いっぱいサミット!」において
岩井志麻子氏発言を放送したことについての
「関西テレビ オンブズ・カンテレ委員会」見解(概要)
2019年9月2日
2019年4月6日および5月18日に放送した「胸いっぱいサミット!」においてなされた岩井志麻子氏の「手首を切るブス」発言(以下「当該発言」という)について、当委員会の見解を以下に述べます。
放送に至る経緯について
当初「当該発言は、国の外交姿勢を擬人化した表現」であり、番組全体の論旨からも「民族やその他に対する差別意識を根底にしたものではない」との結論に至ったことは、視聴者に対する配慮に欠けた判断でした。
放送後の対応について
5月18日の放送後、視聴者などからの意見に対して、社内で議論を重ねられるも、当該発言を、「国の外交姿勢を擬人化した表現であり、差別的な意図はない」として放送した判断が、一定数の視聴者の意識とずれていたことに気がつかなかったことについて、時代とともに変化する視聴者の意識に敏感に対応できるような社内体制の整備が望まれます。
なお、「カンテレ通信」収録で、視聴者から寄せられた意見、制作部の回答を紹介し、これに対してコメンテイターの見解を求めたことに加え、厳しい指摘を受けて、放送日を順延して関西テレビの考え方を見直し、「視聴者への配慮が足りず、当該発言をそのまま放送するという判断は誤りだった」という結論に至った旨のお詫びコメントを追加して6月23日に放送したこと、番組審議会にて委員各位の見解を求めたことは一定の自浄作用が働いていたと認められます。
オンブズ・カンテレ委員会からの見解
当該発言を放送したことについては、発言者本人のプロフィールを知らない視聴者が多数存在している認識に欠けていると考えます。氏の発言が韓国に対する愛着を背景とした反語的な表現であることは、多数の視聴者には伝わらないと思われます。
当該発言は自傷癖のある方に対して配慮を欠いた表現でもあり、またブスが通常女性を指す言葉である以上、女性に対する偏見の上に成り立つものであると言わざるをえません。ブスという社会通念からみて他人を侮辱する表現に加え、「手首を切る」という自傷行為を意味する言葉が組み合わされていることからみて、当該発言は「外交姿勢の擬人化」にとどまらず、広く韓国籍を有する人々などを侮辱する表現であって、公共性の高いテレビ番組では放送されるべきではありませんでした。
これらを勘案すると当初の認識は誤りであり、「差別的な意図はない」との認識堅持は視聴者への配慮に欠けた判断でした。
いろいろな背景をもった視聴者がいることを番組制作者は想定することが必要であり、「多様性の尊重」について、原点にたって理解されることを求めます。
地上波放送番組は視聴可能な全ての人々の視聴を前提に制作されるものであり、ワンタイム視聴者などへの配慮もあるべきでした。
現在では、放送対象地域外の人々にもSNSなどで番組の切り取られた一部分のテキスト情報が瞬時に拡散され、批判されることも十分想定されます。表現方法については、番組全体の構成だけでなく、番組内の発言を前後の流れから切り離して受け止められる可能性も想定をすることが重要であり、かつ明確に演出意図を説明できるようにしておくことが求められます。
体制について
収録番組へのチェック体制の強化として、素早く放送倫理担当の管理職を増員したことは評価できますが、視聴者意見を速やかに検討する社内システムの再構築など、視聴者意識の変化に敏感に対応できるような社内体制の整備が望まれます。
また、番組制作現場がさらに当事者意識をもって適切性を判断するためには、倫理的な判断について制作者各々が自律的に考えて一次的に判断し、放送倫理担当は、他の部局の倫理担当等と情報共有・意見交換しつつこれを確認するかたちを徹底すべきだと考えます。
時代とともに視聴者の意識は刻々と変化しています。人権問題など時代が要求している水準を社内で共有し、新たな社会通念に対応できる社内研修制度の整備が急務だと思われます。番組制作担当者は、法規範、社会規範など様々な規範が時代とともに変化していることを認識すべきでしょう。
最後に
視聴者を取り巻く背景には、様々な事情を持った人が存在します。このような事情をよく考慮し、番組制作担当者はより一層の研鑽に励み、番組内容の充実に努め、関西テレビのさらなる価値向上に向け尽力を願います。当委員会の意見を参考に、体制の整備、研修の実施など必要な対策をとられることを望みます。
以上