収録番組での韓国をめぐる発言に関するBPO意見について
オンブズ・カンテレ委員会の見解

2020年4月10日

オンブズ・カンテレ委員会では、BPO放送倫理検証委員会の意見を受け、以下の通り見解をまとめた。見解は、今回のBPO意見の受け止めと、BPO意見を踏まえた提言からなる。

BPO意見の受け止め

BPO意見書を読んでまず感じたのは、放送倫理検証委員会の委員はヒアリングで制作現場の人がどう考えて番組を作ったのかなど、非常によく調べて検討し、この意見書を作成しているということである。まず、その労力と識見に敬意を表する。
意見書の中で、「『ギリギリのラインを攻める』ことの危うさが露呈した」ということを指摘されている。ギリギリのラインを攻めるというのが番組の一つの方針だとしたら、それ自体は悪いことではない。しかし、そのような番組にはライン(許容範囲)を越えてしまう危険が必ずあることから、見極めについてより慎重に考えておく必要があったのに、今回はそれがなかったと指摘されるのはやむを得ないと考える。
当委員会は昨年秋に公表した見解の中で、当該のコメントは放送するべきではなかったと結論付けた。BPO放送倫理検証委員会も当委員会と同じ方向の結論になったことは、当委員会を含む関西テレビの自律を尊重した結果であると受け止める。

関西テレビへの提言

【(1)ジャッジのシステム】

今回の事案は難しい判断であったと認められ、担当者の判断ミスと責めることはできない。また、今回のようなバラエティ番組の場合は、冒険も必要という考えは理解する。
しかし、一人の判断には限界があるため、担当者だけではなく組織としてチェックできる別のシステムを検討すべきと考える。とはいえ、人数を増やしたところで、その人たちが共有している基準が同じであれば、同じミスが起こることは否定できない。どこまでが許容範囲なのか、関西テレビとしての基準をよく話し合って作って欲しい。その基準は、他の局とは異なってもよいが、会社の中で共有をしなければならない。

【(2)人権感覚と想像力】

背景としては、送り手側に想像力の欠如があったのではないか。「手首を切るブス」と言う発言を聞いてそれを喜ぶ人たちのことを見ていたのかもしれないが、例えば韓国人留学生や、在日韓国人にとっては、いくら客観的な外交姿勢に関する例えであったとしても、とくに「手首を切るブス」のように貶める言い方をされた時には、本当につらい思いをする人がいるのではないかという想像力が欠けていたと考えられる。
人権問題は、自分自身や家族が体験していないと、差別されることの苦しみや痛みは実感として分かりにくいかもしれない。だからこそ、人権団体や差別される側の人と定期的に交流の機会を持つことが必要だと思う。上長(局長・部長クラス)が率先して、人権団体などと交流の機会を持ち、その体験を現場で若い社員に実践的に伝えていくことが必要だと考える。
また、社会の人権感覚は日々アップデートされている。社内の既存の倫理規範や過去の経験に頼りすぎることなく、常に研修に努めることが必要である。

【(3)意見の分断の解消】

当委員会と関西テレビ社員との意見交換会では、制作現場とそれ以外の社員との間の溝のようなものを感じ、ベクトルがまだ合っていないという印象を受けた。また、批評家的な意見が散見され、そうした放送をした社の一人と言う当事者としての感覚に欠けていることも感じた。BPOの意見書でも「少なからぬ制作者たちが、視聴者にお詫びをした局の判断やオンブズ・カンテレ委員会が示した見解に対し、十分に納得していないのではないかと感じた」と指摘されていた。公共性のある放送局の一員として自分はどういうことができるのか、どうすれば今後よくなるのか、建設的なスタンスで意見交換する必要があるのではないか。
現場の制作者は、「手首を切るブス」と言うコメントに対して、視聴者から肯定的な意見も多くあったので、今回のBPOの判断や当委員会の見解に対して釈然としない感覚が残ったのではないか。そうした様々な意見があること自体は自然である。しかし放送の公共性、社会性を考えると、そういう声があることをもってあのコメントを放送してもよかったということにはならない。また、肯定的な意見が返ってきた時は、それはごく一部の意見かもしれないのであまり重きをおかずに、問題であるという否定的な意見の方に重きをおくべきではないかと考える。
社内で闊達に議論をされ、方向性を探っていただきたい。

【(4)記憶の継承】

BPOの意見書は、「発掘!あるある大事典II」に触れ、「『面白い』『わかりやすい』を過度に追求した結果、放送事業者がBPOに放送倫理検証委員会を設けることになったのは、13年前のことである。私たちは、今回の件を、番組作りに臨むみずからの姿勢を今一度見つめ直す好機にして欲しいと願っている」と、関西テレビに対するメッセージで終わっている。
BPOの放送倫理検証委員会からすると、委員会ができるきっかけを作ったのは関西テレビであるということを強く意識をしていることがうかがえる。逆に関西テレビからすると、特に制作現場の若い人たちは、そういうふうにBPOや世の中から見られていることを、どれだけ意識しているのかやや疑問を感じる。
あるある問題のあとこの13年間に、制作に携わる人も相当入れ替わっている。臆する必要は全くないが、少なくとも、BPO放送倫理検証委員会ができるきっかけを作ったのは関西テレビであるということを理解したうえで一人ひとりが仕事をするように、会社として工夫をしておくことが重要である。
また、関西テレビは在日コリアンの人々の存在に対して、想像力が働かないテレビ局ではないと思う。過去にこのテーマに正面から向き合ったドラマを始め、数々の番組を制作している。こうした知見経験も先輩から後輩へ、ドラマ班やドキュメンタリー班からバラエティ班に継承されるべきであろうと考える。

以上