いま、働く女性の中で、「卵子凍結」という言葉が注目を集めています。
東京都が始めた補助制度には応募者が殺到し、予算の拡充が決まりました。
女性たちが「卵子凍結」を選ぶ、その理由とは一体。
■卵子凍結で「つらい気持ちはあるけど、気持ちを保つことができた」
卵子の数は生まれた時点で決まっていて、年齢とともにどんどん減っていきます。さらに、質も低下していくため、加齢とともに妊娠率は下がる一方になります。
そこで、妊娠の可能性を上げようと、若い状態の卵子を保管するのが「卵子凍結」です。
「卵子凍結」では、まず女性の体から取った卵子を凍結し、使いたいタイミングでとかし、受精させて子宮に戻します。
みゆきさんは、31歳のときに卵子を凍結しました。
【みゆきさん(仮名・35)】「子どもが欲しいなぁって思いが漠然とあって、独身の時に凍結した時は、あんまり、実際使う時のイメージはできないまま。『1歳でも若い卵子を残しておける』というのが、リスクとか考えた時にすごく大きなメリット」
そして、その1年後に結婚。自然妊娠も試みましたがスムーズにいかず、凍結していた卵子37個のうち10個を使って顕微授精を行い、1度目で妊娠。無事女の子を出産することができました。
【みゆきさん(仮名・35)】「またやっぱり(妊活中)生理が来てしまってリセット…ってなってくると、つらい気持ちはあるんですけど、そういう手段(凍結卵子)もあるしという気持ちを持っていられたので」
■保険適用外の「卵子凍結」 かかる費用を補助する自治体も
一方で、保険適用外の「卵子凍結」の課題は高額な費用です。
【なかむらレディースクリニック 中村容子医師】「一般的には卵巣刺激、診察、採卵、凍結までで、だいたい1回1周期あたり30~50万円程度が多いかな」
みゆきさんの場合は、トータルで100万円ほどかかりました。
【みゆきさん(仮名・35)】「体の負担とか、もちろん金銭的な負担とか、理解が広まっていけばいいかな」
そんな中、2023年、東京都が、卵子の凍結にかかる費用を年間20万円まで補助する制度を開始。すると、9000人をこえる人が説明会に応募するなど、当初の想定を大きく上回る申請があり、東京都はこれを受けて、予算の拡充を決定しました。
【東京都 小池百合子知事(2023年9月)】「卵子凍結というのは、将来の妊娠に備える選択肢の1つ」
山梨県でも、来年度から卵子の凍結にかかる費用を、補助する方針を打ち出しています。
従来の「不妊治療」とは異なり、パートナーを見つける前の段階で始めることができる「卵子凍結」が、少子化対策の新たなアプローチとして期待を集めているのです。
■「今すぐ出産を選ぶ決断はできない」女性を取り巻く環境の変化
背景には、働く女性たちがずっと抱えてきた深刻な問題があります。
最近結婚した20代後半の女性は「仕事のキャリアとかを考えた時に、やっとやりたいことが、会社に通るようになってきたんで、そのタイミングで1年ぐらい手放すことになるのがちょっと…」と話しました。
20代前半の女性は「私はまだまだ仕事頑張りたい。いつかは産みたいと思ってます」と言います。
「今すぐ出産を選ぶ決断はできない」と、3年前「卵子凍結」を選択した女性の1人である41歳のあやさん。
あやさんの仕事は医師で、30代の大半の時間を、週の半分は病院で寝泊まりし、手術を繰り返すという多忙な生活にささげました。
(Q.仕事を頑張りたかった?)
【あやさん(仮名・41)】「そうですね。自分のことよりも、下の教育もしないといけないという立場等を考えた場合に、仕事優先だった」
(Q.そんな中、卵子凍結に踏み切った理由は?)
【あやさん(仮名・41)】「出産ありきでパートナーを探したいっていうより、すてきなパートナーを見つけることが優先であって、その時に、その人との子どもができたらいいなって、いわば『保険』みたいな形で、卵子凍結っていうふうに考えていました」
■「卵子凍結」のプロセスは複雑 身体への負担も
「卵子凍結」は、複雑なプロセスを経て行われます。
女性は、卵子が入っている「卵胞(らんぽう)」と呼ばれる袋を育てるため、約2週間、毎日、自分のお腹に注射を打つなどして卵巣を刺激します。
そして、採卵の際には卵胞に針を刺し1個1個、卵子が含まれる中の液ごと吸い取って、採卵します。
すぐさま運び、顕微鏡で卵子を確認。
【培養室 小池浩嗣室長】「ここに小さい丸(極体)が見えてる時に、卵子が成熟しているといわれていて、凍結することができます」
成熟していることが確認されれば、卵子へのダメージを最小限にするため、すぐにマイナス196度の液体窒素につけ、採卵から20分ほどで、凍結が完了します。
あやさんの場合は、凍結する時期が比較的遅めであったことと、元々の卵子の数が少ない方だったため、10回にわたって採卵を行いました。
(Q.体のご負担は大丈夫でしたか?)
【あやさん(仮名・41)】「いや、痛いです。もう注射打ちたくないなって思いにはなりますね」
(Q.費用は?)
【あやさん(仮名・41)】「ざっくり高額です。200(万円)以内には収まってるかと思います。ちょっと怖くて、後半は計算してないんですけれども」
■高齢での妊娠や出産へのリスクは残るが「それ以上の安心感」
課題は、費用面だけではありません。
何度も病院に通う必要があり、手間もかかる「卵子凍結」ですが、凍結させた卵子を受精させても、妊娠にいたるとは限りません。取材をしたなかむらレディースクリニックでは妊娠率は37.8%です。
また、卵子の老化を止められたとしても、高齢になって体力が低下してから出産することへのリスクは残ります。
それでもあやさんは、「卵子凍結」という選択肢が「安心を与えてくれている」と話します。
【あやさん(仮名・41)】「金銭的に、時間的に、肉体的に、つらいところはあると思うんですけど、それ以上の安心感と、将来へのポジティブな感情っていうものは残るかな」
新しい出産のあり方。
今後、「今は産めない」と悩む女性にとっての救いの選択肢として、広がっていくのでしょうか。
■卵子凍結は希望になる一方、実際には高いハードルが…
ここからは、取材をした加藤デスクに話を聞きます。
働く女性の希望となる一方で、負担も大きいと感じます。
【関西テレビ 加藤報道デスク】「卵子凍結や保管などにかかる費用は、あやさんの場合、200万円以上、みゆきさんの場合は50万円以上かかっていて、全て自費です。費用が高額になってしまうことが1番のデメリットといわれています。私も10年前に、卵子がどんどん年を取るという話を聞いた時に考えましたが、この高額な費用と、まだそんなにそういう風潮もなく、なかなか自分ごととして考えられませんでした。やっぱりハードルがあって、なかなか普通の人がたくさんできるものではないと思います」
「newsランナー」の竹上キャスターは、同じ世代の人たちで、卵子凍結の話になることがあると話します。
【竹上キャスター】「私は今年32歳で未婚なのですが、友達とも本当によくこの話題になって、『卵子凍結いいよね』となりますが、最終的に全員が『ハードル高いよね』ってなるんです。そもそも日本でいま、子どもを産むというのが、まだキャリアの断絶や、夢を諦めなきゃいけない、孤独な子育てをしなくちゃいけないという、いろんな不安が重なって、そこにそれだけのお金を投資して、時間、肉体的にもつらい負担をかけて、こんなに自分で抱え込まなきゃいけないのかと思うと、やっぱり手が出ないかなと思ってしまいます」
■「卵子凍結」を助成する関西自治体はナシ
東京は「卵子凍結」への助成を始めていますが、関西ではどのようになっているのでしょうか。
「卵子凍結」を助成する関西自治体はありません。
・大阪府 吉村知事「今の段階ではないが、将来的には必要になる」
・兵庫県 斎藤知事「来年度、議論を進め、その中で実施の可能性はある」
・京都府 西脇知事「詳しいは知らないが、こども家庭庁で取り入れてやるべき」
将来的には支援するという方向も示されているようですが、奈良、和歌山、滋賀、徳島の担当部局に聞くと、前提として、がん患者を対象に「卵子凍結」の助成は行っているのですが、健康な女性への助成金はなく、議論もしていないということで、広がるには時間がかかりそうです。
【関西テレビ 加藤報道デスク】「各自治体のかかえる事情によって、温度差があり、東京は働く女性の声が、たくさん集まったというのもあると思います。大阪も同じような状況ではあると思いますが、今ある制度の中でやると、将来的に必要性があることはわかるけれども、今すぐではないというスタンスです。山梨県の県議会が助成を行うということで、条例を提案している所ですが、担当者は『卵子凍結が少子化対策に、どこまで有効か分からない。県民の理解が得られるかが課題』と言っています。凍結をしても、実際に使う人が、実はあまりいません。だから少子化対策にどこまで結びつくかというデータもない中で、税金を使い、それにかけるコストと効果を天秤にかけると、まだ踏み切れないという自治体の方が多いのは事実です」
限られた予算の中で、どこに助成を出すか、手探りの状態です。
■若いうちに出産・職場復帰できる社会作りを
その他、どういうサポートが必要だと思いますか?
【関西テレビ 加藤報道デスク】「ちょっと気になるデータがあります。ロート製薬が行った『未婚男女が子どもを持つことへの意識調査』なのですが、将来、子どもが欲しくないと答えたのは55.2%と、過去最多を更新しました。しかし、このうち『将来、考えが変わった時に、子どもを授かれる可能性を残しておきたい』という女性は、25.5%もいるということです。つまり、今は産みたくない、キャリア仕事を優先させたいからであって、もし条件が整えば子どもが欲しいという考えの人が一定数いるということです」
加藤報道デスクは「卵子凍結はあくまでも選択肢のひとつ。若いうちに出産・職場復帰できる社会を!」というメッセージを皆さんに伝えたいと言います。
【関西テレビ 加藤報道デスク】「卵子凍結はあくまでも選択肢の一つです。これが答えではないです。ただ、若いうちに結婚して出産もして、さらに職場に復帰して、キャリアをまた積んでいけるという社会があるという事がやっぱり一番健全です。もちろん、こういう選択肢を支援するということも必要ですが、やっぱり本当に少子化対策というのであれば、産める期間は限られているので。私も高齢出産でしたけれども、その分リスクはどんどん高くなり、不安な要素が増えていきます」
「卵子凍結」が出産の選択肢のひとつになる一方で、根本的な妊娠・出産とキャリア、どちらも諦めなくていい社会づくりを進めていくことが、少子化対策に求められるのではないでしょうか。
(関西テレビ「newsランナー」2024年3月5日放送)