不安を感じると動けなくなる「不安障害」の少女 得意のケーキ作りで似た境遇の子どもたちの憧れに お菓子作り教室を開催「一番楽しみなのはみいちゃんに会えること!」 2024年07月13日
不安を感じると動けなくなる。そんな障害があっても、得意のケーキ作りで輝く16歳の少女・みいちゃん。
洋菓子店を開いて4年。自分らしい生き方とは。
■不安障害がありながら見つけた夢と居場所
滋賀県近江八幡市にあるケーキ店「みいちゃんのお菓子工房」。月に数日ある営業日には、多くのお客さんでにぎわいます。
店長はみいちゃんこと、杉之原みずきさん(16歳)です。
みいちゃんは不安障害の一つ、場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)と診断されています。
安心できない場所では、緊張などから体が動かなくなったり、話せなくなったりします。
しかし、大好きなスイーツ作りでは自由に動き回ることができるのです。
【母・千里さん】「昔からかわいかったけど、かわいさが増してるのか、繊細なケーキ作れるようになった。素朴さがあって、思いがあって」
みいちゃんが話せるのは家族だけ。学校では体が固まってしまいます。
1人で歩くこともできず、給食も食べられなくなり、みいちゃんは小学4年生で不登校になりました。
家でひきこもるみいちゃんに、母・千里さんは「社会とのつながりを持ってほしい」と、スマートフォンをプレゼント。
家で作っていたスイーツの写真をSNSにアップするようになり、称賛のコメントが次々と集まりました。
【母・千里さん】「今まで家族以外としゃべったことない子が的確に返しているんですよ。どこで覚えているのかなっていう気がするんですけど。普段半分の人生のみずきは全く人から評価されないし、逆に『何してんの』『何もしない、この人』って、子ども同士の中で悪気あって言ってるわけじゃないけど、目の前で言われる人生やったので、誰かに『ありがとう』って言われることも絶対にないので、その人生が一転して、『みいちゃんケーキありがとう』『すごいね』って言われるような環境になったので。自分もがんばりたいって思うんでしょうね」
見つけた夢に向かって、スイーツを作り続ける毎日。
そんな姿を見て、千里さんは“みいちゃんの居場所”として、借金覚悟でケーキ店を作りました。当時、みいちゃんは小学6年生でした。
【母・千里さん】「みずきはハンデがあるとはいえ、夢をかなえてあげるお手伝いを親が完全に振り切ってするのはあながち間違ってないかな。早い時にできた夢は崩さんと育ててあげたいな」
■注文殺到…いつしかケーキ作りが重荷に
しかし、お店は評判になったものの、2年ほど経つと、みいちゃんに異変が…。
【母・千里さん】「こだわる力がなくなってしまって、見た目がかわいくて手間暇かけているケーキが秋くらいからなくなったんです。スタンダードなケーキに。発想も出てきてへんやろうなって思ったんですけど、脳が疲れているんやろうね。考えたくない時期やったのかもしれない」
想定以上に注文が殺到したことで、楽しかったケーキ作りが重荷に。
そして同年代の子たちが工房にくると、体が固まってしまうこともありました。
さらに、昼夜逆転の生活になり、うつ病と診断。支援学校も徐々に休むようになってしまいました。
2023年3月に行われた支援学校の卒業式。
そこには、みいちゃんの姿がありました。どうしても出席したいという思いが、久しぶりの登校を後押ししたのです。
寄り添ってくれたのは担任の先生でした。
【母・千里さん】「親やったらどうしても学校行ってないとマイナスに見えちゃう。なかなかプラスに見られないところもあるんですけど。ケーキ屋さんと養護学校のバランスとか、自分がどうしたらいいんやろうっていうのは、この子なりに考えた結果が今年なんやろうなと。3年間がんばりましたっていう姿勢が見えたかなと思います。この子の心の声は聞こえたかなって」
学校にはあまり通えませんでしたが、いつも連絡をくれ、支えてくれた先生たちに伝えたい思いがありました。
【母・千里さん】「本当はあかんのかもしれないけど、みずきはこういう形でしかお礼ができなくて、『自分で持っていきたい』って言ったんですよ。ここにみずきの気持ちが入ってます」
そして渡されたプレゼント。
【担任の先生】「わぁ。ありがとう、みいちゃん」
【母・千里さん】「この子が言ったんです。『先生に作ってもいい?』って」
スイーツは、みいちゃんの思いを伝える原点。
同じような生きづらさを抱えた子どもたちに、スイーツを通して何か伝えられるのではないか…。
千里さんは「みいちゃんのお菓子教室」を開くことを決めました。
■近い境遇の子どもにとって憧れの存在
滋賀県に住む、小学6年生の杏香(ももか)ちゃんは、SNSで見つけたみいちゃんに憧れ、お菓子教室に参加することを決めました。
杏香ちゃんには発達障害の一つ、注意欠如・多動症、ADHDがあります。
音や光などに過敏で、刺激が強いとめまいや頭痛を起こすため、学校には長くいることができません。
【杏香ちゃんの母・梓さん】「今日学校どうするん?」
【杏香ちゃん】「行かないつもり」
【杏香ちゃんの母・梓さん】「家にいる?」
【杏香ちゃん】「うん」
【杏香ちゃんの母・梓さん】「きのうがんばったし」
今は週に1日から2日、数時間だけ支援学級に通っていて、学校に行かない日は母・梓さんが勉強を見ています。
【杏香ちゃんの母・梓さん】「どうしても学校行ってほしいなって、友達関係もあるし、心配もあったので。でも、がんばって、がんばって(学校に行ってほしい)ってしていたけど、しんどくなると気持ちの逃げ場もなくなってくるので、もう家は甘えるところ」
梓さんは杏香ちゃんが学校に行けないことを受け入れられない時期もありました。でも、みいちゃんの存在を知り、考え方が変わったのです。
【杏香ちゃんの母・梓さん】「みいちゃんの姿を見るだけできっと何か感じることはあるだろうから、ちょっとでもそのままの自分でいいよっていうのは思ってほしいし、何かできるといいなっていうのも感じてほしい」
お菓子教室に参加することで、何かを感じてほしいという母の思い。
【杏香ちゃんの母・梓さん】「(お菓子教室で)何作るか覚えてる?」
【杏香ちゃん】「プリン!」
【杏香ちゃんの母・梓さん】「杏香は何を一番楽しみにしてんの?」
【杏香ちゃん】「みいちゃんに会えること」
■「このままでいいんだ」と母・千里さん
お菓子教室当日。参加者の3人にとって、みいちゃんは憧れの存在です。
【母・千里さん】「まずごあいさつしよっか。みいちゃんです。みいちゃん聞いてるから、お話できないけど、分からないことあったら聞いてみて」
【参加した子どもたち】「はい!」
みいちゃんにとって、3人のうち2人はこの日が初対面。
子どもたちにとっては、みいちゃんは頼りになる存在です。
【杏香ちゃん】「できひん」
【母・千里さん】「それは難しいってこと?どうする?自分で挑戦してみるか、みいちゃんにやってもらうか」
【杏香ちゃん】「みいちゃん、やって」
千里さんはこのお菓子教室について、こう話しました。
【母・千里さん】「あんなに近い距離で(子どもと)一緒にできたことってなくて。子どもたちがいたら隠れるわけにはいかへんっていう、店長らしきところ出てたんじゃないかな」
お菓子は無事、完成しました。そこへ来店したお客さんは、参加した子どもたちの家族です。
【参加した子どもたち】「いらっしゃいませ~!」
【杏香ちゃんの母・梓さん】「猫のイチゴのムースと、イチゴのショートと…」
【参加した子どもたち】「ありがとうございました!」
【杏香ちゃん】「疲れた…」
【参加した子ども】「がんばれ、杏香ちゃん!」
集中力は限界…。でも、最後まで接客できました。
【杏香ちゃんの父】「よくがんばってたよね。家やったら途中であきらめそうなことも、周りの環境でここまでがんばれるんやなっていうのが分かって。がんばったね」
Q.みいちゃんの姿を見てどうだった?
【杏香ちゃん】「すごかった。かっこよかった」
最後まで手が止まることはなかったみいちゃん。母・千里さんは改めて気づいたことがありました。
【母・千里さん】「子どもたち、すっごい笑顔やし、私たちがやれることはこういう形なんだろうなって気づきをもらえるというか。(子どもたちは)ハンデがあるとかないとかいう概念がそもそもないし、声があって、普通の教室であるべきという概念もないので、私が見ていても新鮮やし、このままでいいんやって。この子ががんばって声を出そうとする必要はないんだなって」
お菓子教室を終え、みいちゃんが書いたメッセージは「作りたいと思うケーキを作る」。
自分にしか作れないケーキでお客さんを笑顔に…。今のみいちゃんの夢です。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年7月10日放送)