カーネルサンダースもヘドロに沈んだ「道頓堀川」キレイになった! 水質が“劇的”改善で魚が泳ぐ川に…あの“清流の女王”アユもいる可能性? 徹底調査で道頓堀川の「アユを探せ!」 1年“密着”潜水取材【後編】 2022年09月27日
危険、汚い、臭いといったイメージの大阪の“道頓堀川”。実は今、大きな変化が起きています。1年以上にわたって、川の中を撮影すると…想像を超える数々の生き物に出会えました。
(あの道頓堀川がキレイに? 視界“ゼロ”。カーネルサンダースも沈んだ“飛び込み”名所は長年「くさい・汚い・危険」イメージ しかし今、水中が“激変” 魚が泳げる川に! 清流の女王“アユの噂”も…1年“密着”潜水取材【前編】)
■前回調査から18年…道頓堀川はどうなった? カメラマン「あっ、魚の群れ!」
大阪・ミナミのシンボル、“歓喜の飛び込み”でも知られる「道頓堀川」ですが、長い間「危険で汚い」川の代名詞に…しかし、 道頓堀川がきれいになっている?
18年前(前回2003年)に潜ったカメラマンが、意を決して、再び挑むことに。
【カメラマン リポート】
「ただいま、道頓堀川の水深3メートル、着底しました」
「ライトをつけてみます・・・思ったよりもきれいな水底ですね。まさかあのヘドロの道頓堀の底が、このようなきれいな砂地になっているとは想像もしませんでした」
「これは何でしょうか。何か棒のようなものも落ちてますね、刀かな?よく分からない形してますね」
得体の知れないゴミはあるものの、ヘドロに足がとられる恐怖を味わうことはありませんでした。
別の日、水中ドローンを使って、撮影してみたところ…明かに透明度が増しています。しかも、あちこちで小さな魚の群れを発見しました。
一体、何が起きているのか、 取材班は道頓堀川の水を採取し、大阪市立環境科学研究センターに検査を依頼しました。
結果は…
【大阪市立環境科学研究センター 藤原康博さん】
「汚れを表す指標として一番用いられるのは、『生物化学的酸素要求量』なんですけれど、1.5mg/Lだった。コイやフナが住むには5以下、アユが住めるには3以下が目安とされているが、(道頓堀川は)これを下回っている」
■一体なぜ? 道頓堀川の水中が“激的”改善 実は…アユも住めるレベル
道頓堀川は、きれいな水を好むあのアユが住める水質にまで改善しているという
驚きの結果が…。
その理由は、道頓堀川とつながる東横堀川にありました。東横堀川の水門を操作して、道頓堀川にきれいな水を取り込んでいるのです。
【大阪市建設局 河川・渡船管理事務所 山中隆行さん】
「ここらで一番きれいな水を探したところ、淀川が淡水で一番きれい。それなら、その水を取り込もうということで、過去、何十年も前から試行錯誤して今になる」
東横堀川は、淀川とつながる水質のいい大川と、水質がやや劣る寝屋川が合流した先にあり、何十年もの水質調査の結果、潮の満ち引きによって大川の水が東横堀川の近くを流れるタイミングを突き止め、それに合わせて、毎月、水の入れ替えを行っています。
ただ、体に有害な大腸菌の量はまだ多く、人が泳げるレベルまでは至っていません。
■道頓堀川に住んでいる生き物を調査 アユがいる可能性も!
道頓堀川には、どんな生き物がいるのか調査をしてみることに。協力をお願いしたのは、大阪府立環境農林水産総合研究所の山本さんです。
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「あそこに、魚がたくさん泳いでます!…たぶんボラの子供。カメがいます。コイが2匹います!あまりきれいな場所のイメージの魚ではないですけど…上からのぞいて魚が見える状況になっているというのは大きな改善」
何と、山本さん、あの清流の女王アユもいると自信満々です。
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「アユは、ふわふわ泳いでいない、だーっと高速道路のようにこの川を使っている。いる可能性は非常に高い」
秋に川で生まれ、大阪湾に下ったアユは、成長し、春になると大阪市内の川を遡上して、上流の京都や奈良を目指します。そのため、水質が良くなった道頓堀川も通っているはずだと言うのです。
アユの姿を撮影すれば、川の見え方も大きく変わるはず。しかし、この遊歩道での釣りは禁止で、水中での撮影に挑みます。
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「水中撮影するんだったら、ああいう中に入っていくようなへこみとか、魚は隠れやすいので、そういうところを探すのがいい」
山本さんのアドバイスを受け、再び潜ってみることに。橋の下に気になる空洞を発見。入ってみると…
【カメラマン リポート】
「遊歩道の下に魚がいました!何の魚かは分かりませんが…つがいでしょうか、2匹寄り添うように泳いでいます」
固定のカメラを仕掛け、山本さんにも確認してもらうと…
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「あ、映っています。ブルーギルばっかりですね」
さきほどの魚は、外来種のブルーギル。さらに…
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「あ、ブラックバスこっち向いてます。これはオオクチバス、悠々と泳いでますね。外来種ばっかりなのが辛いですね」
■道頓堀川が「外来種」の巣窟に? 潜水班が“いろいろな生き物“発見”!
ブルーギルとオオクチバスは、日本にもともと住んでいる在来種の卵や稚魚を食べてしまい、生態系を破壊する恐れがあることから、“特定外来生物”に指定されています。
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「あ!…ブルーギルでした。残念ですね…」
アユが見つからないばかりか、たくさんの外来種の生息が明らかに。
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「オオクチバスもいるし、もっと水草とか隠れる場所が無いと、小さな子供たちは安心して暮らすことができませんので。大人向けの川だと思います」
2021年の夏、暑い日の夜。取材班は、意外な光景を目にすることになりました。
阪神高速の真下に、魚の隠れ家となる水草が。中を覗いてみると…マハゼがいました!
在来種のマハゼは、河口付近を好んで暮らす魚。釣りの対象として人気で、天ぷらにして食べるのが定番です。
さらに、無数のテナガエビの姿が!こちらは、モクズガニも。
さっそく、山本さんに報告です。
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「安心しました!思ったよりたくさんいるなという感じがしたのでうれしく思ってます」
「昔は道頓堀とか、下流の木津川あたりに、屋形船を浮かべて、みんなで釣って、食べてたと思うんですけど、江戸時代の話ですけどね。でも、道頓堀川だと、酸欠やヘドロの時期があって、脈々と続いてきた毎年の光景が途切れていた時代があった。でも、人間が何とか頑張ってきれいな状態に戻したら生き物はちゃんと帰ってきてくれる」
やはり、アユはいるかもしれない。取材班は、次のチャンスを待つことに。
2022年春、水中の生き物に詳しい山本さんが、ある場所を見てほしいと、案内してくれました。ここは、梅田から2キロほどの場所にある、“淀川大堰”。
■梅田から近い川…“淀川大堰”では1日7万匹のアユが遡上
魚が遡上しやすいように、右岸と左岸それぞれに通り道が設置されています。
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「この固まり、これアユです、うわ!すごいすごい」
–Q:これ全部ですか?
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「全部アユです」
水中カメラでも…いました!梅田からほど近い川の中に、清流の女王が大量に!
水の流れに引き寄せられ、多い時で、1日7万匹のアユがこの道を遡上しているといいます。
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「(上流からの)真水の流れてくるのを感知して、流れの方向に進んでいって、この魚道(上流側と下流側の落差を小さくした道)とかを見つけて、上がっていく。つまり、道頓堀川も流れてない時間帯は、アユは上りようがありませんので (水門が開いて)流れている時間帯を狙って撮影するのがいいのかなと」
■取材班は、ついにアユと出会えるか? 水門開いたら、いっきに遡上の可能性にかける!
山本さんからの助言を聞いて、取材班が向かったのは、道頓堀川の西の端にある水門、大阪湾に向かって水が流れ出る場所です。
通常は閉まっているこの水門が開いた時に、アユがいっきに遡上するのではないかと、カメラを5か所、セッティングして、その時を待ちます。
せき止められていた水が流れでると…遡上をはじめる魚たちが!しかし…ボラばかりで、アユの姿は確認できません。
そこに…
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「あ!この下、この下、分かります?、群れてんの。あ。いるいる。アユ?分からないですけど、こんなことするのは、アユだと思います。ボラにしては長いので」
–Q:アユっぽいですか?
【記者 リポート】
「アユっぽいです。あ、シーバス、シーバスが狙ってます、スズキが。みんな上がってったから、シーバスが暴れ始めた」
道頓堀川のアユ、ついに撮影成功か?唯一カメラが捉えた映像を、山本さんに、分析してもらいました。
【おおさか環農水研 生物多様性センター 山本義彦さん】
「かなりアユの可能性が高い、アユに間違いないんじゃないかと思います。むしろアユじゃない魚を示すことができない。結構しなやかに、むち打つように泳いでいる。オイカワやボラもむち打つように泳ぐけど、アユの方がしなやか。ここに目があって、ここに背びれがある。ここにも何かがあるように見えるんです。ここが脂びれの位置なので、ここに脂びれがありそうだということが、アユだという結論」
■キレイになった道頓堀川 ところで”あの時”金魚放流した商店街の人々は?
2カ月後、5年に1度の、大阪市の捕獲調査に同行すると…取材班は、新たな光景を目にすることに。
「あ、コウライモロコ取れた、やった~!コウライモロコ取れました!OKですわ、良かった~!これが一番大きな成果ですわ」
コウライモロコは、砂底を好む淡水魚で、光の具合によって緑色に見える縦筋が特徴。大阪市は、きれいな水質でなければ生息できない指標種に指定しています。
さらに、スズキやワカサギも。そして…
「うわ、きたな、絶対にきたな。うわー嫌な感じ、タイヤがついてる。うわ~取れてしまった!えらいもんが取れてしまったなあ」
何と、自転車、まだありました。
取材の最後に、“ある人”のもとへと向かいました。40年ほど前、道頓堀川をきれいな姿にしようと、金魚の放流を始めた地元の人たちです。
戎橋筋商店街の当時のメンバーに、この1年間撮影してきた映像を見てもらいました。
【戎橋筋商店街のみなさん】
「ここまできれいになってるとはね、思わなかったですね。夏祭りのときに、一回(道頓堀川の水で)水割り作ろうかといったけど、『そこまではな』と言われた」
–Q:今だったら水割り作れそうですか?
【戎橋筋商店街のみなさん】
「ここまできたら(水割り)いけるんじゃ」
–Q:金魚の放流は効果があった?
【中村正美さん(70)】
「どうかな(笑) 金魚がね、水きれいにするという性質はないからね」
【東進明さん(70)】
「夏祭りの時に、屋台の金魚を買ってきて、流したんちゃうかな」
–Q:金魚探したんですけど、いなかったです
【中村正美さん(70)】
「まだまだパーフェクトではないですよね」
【野杁育郎さん(74)】
「やっぱり釣った魚を食べるってやつが必要ですかね」
【中村正美さん(70)】
「ちょっと誰か犠牲的精神を発揮して。釣り大会やろう、両岸から。本当に映像に映っている魚おりまっせと」
またひとつ、アイディアが湧いてきたようです。
アユを追いかけて1年、想像以上に、多種多様な魚に出会いました。
まだまだ「パーフェクト」とまでは言えませんが、ふと目を向けてみれば、大都会の真ん中で、意外な生き物に出会うかもしれません。
(2022年9月23日放送)