持続可能な社会のために世界中で2030年までに達成しようと取り決められている17の目標=SDGs。
今回取り上げるのは14番の「海の豊かさを守ろう」です。
海に漂う、大きくてやっかいなゴミになってしまうあるものを高品質なカバンに作り替える取り組みが関西で進んでいます。
■海岸に漂う人口ゴミ 約4割は網などの漁具
レジ袋…、約20年
プラスチックゴミが海に流れ、分解され細かくなるまでにかかかるとされる時間です。
そのなかでも海に放置され、海洋生物に絡まり命を奪う”網“は、約600年。
この網をはじめとする漁具は日本の海岸に流れ着く人工ゴミの約4割を占めています。
生態系を破壊する「捨てられた漁網」。
この網を回収し、新たな命を吹き込もうと挑戦する人たちがいます。
■捨てられる漁網が「生地」に
工場に積み上げられた北海道と福島県の漁師から回収されたナイロン製の網。
モリトの社員・森弘義さんは、この糸を開発した会社「リファインバース」と協力して、「捨てられる漁網」を使って生地を作り上げました。
【モリト 森弘義さん】
「我々の想いが詰まった生地に仕上がっているかと思います」
この生地を使って兵庫県豊岡市の職人が作り上げた高品質なかばん。
10月1日から販売が始まることになっているのです。
森さんがこの構想を提案したのは2年前。
その時は、網の回収や不純物の除去など通常以上のコストが必要になることから、社内では「ビジネスにならない」と批判する声が大多数でした。
【モリト・森弘義さん】
「やはり我々の責任、企業の責任として、このサスティナビリティというものに着手しないと、次の世代に向けて資源が限りありますんで、未来につなげることができないと」
「『私を信じてやらしてください』と言いました。社長にはそのように言いました」
長年、海外に出張し欧米のアパレルブランドと取引を続けてきた森さんにはある確信がありました。
【モリト・森弘義さん】
「今、特にやはり世界のアパレルブランドは、サスティナビリティっていうのを非常に重視してます」
「それについていけない企業っていうのはなかなか、今後のビジネス展開においても苦しくなるんじゃないかなと思います」
従来の計算ではじき出されるコストよりも重視しないといけない“価値基準”が生まれていたのです。
森さんは将来的に全国でナイロン製の漁網を回収し、様々な製品を生みだしたいと考えていて、海岸に辿り着く網の材質を調べています。
【モリト 森弘義さん】
「打ち上げられてるあれはナイロンでしたね あの緑色の」
「ゴミだらけ」
捨てられた大量の網に新たな価値を生み出す“アップサイクル”。
そこから目指すゴールは別のところにあると言います。
【モリト 森弘義さん】
「(人々の)意識が自分のことではないって、このファッションやトレンドにしてしまうと、やはり一過性なものになってしまうので、ほんとに身の回りの普通のことであるようにしないと、この社会っていうのは変わっていかないと思うんですよね」
「『サスティナブル』や『アップサイクル』っていうような言葉はもうないというのがゴール、我々が目指す社会なんじゃないかなと私は思いますね」
■伝統の技で高品質かばんを!豊岡の若き職人
その目標に向かう拠点となる兵庫県・豊岡市。
江戸時代に柳の皮を格子状に編んだ作った入れ物「柳行李(やなぎごうり)」の生産が盛んとなり、その技術を今に受け継ぐ職人たちが集う、日本有数のカバンの産地です。
森さんから生地を託された職人の1人、
27歳の広山和基さんは、祖母から父へと受け継がれた工房の3代目です。
【父 博さん】
「本当に彼がこの業界に入らなかったら、たぶん今はないと」
6年前、仕事中に大ケガをし、一度はこの工房を畳むことを決めた父、博さん。
当時、和基さんは大学3年生。作業療法士の道を志し、大阪で下宿していました。
【広山和基さん】
「祖母からはじまったこのカバンに携わる仕事が、父が起業してできたこの会社がなくなってしまうのがはっきりと明確になったときに、なかなかこたえるものがあって」
幼い日から父の背中を見てきた和基さん。
技術を受け継ぎたいと故郷に戻り修行を積んできました。
今回のプロジェクトで初めて、デザインから縫製まで手掛けます。
【広山和基さん】
「多少手に針が当たってもなんとかあってくれという感じで縫ってます」
【父 博さん】
「あれはやばいですね、(任せられるのは)息子だけ。他の人にはさせられないですね」
糸が交差する1074箇所のポイントがずれないように縫い上げる緻密な作業。
描き出されるのは美しい「格子模様」です。
【広山和基さん】
「地場産業の伝統的なところ文化の象徴の『柳行李』をモチーフにしているのと、網も格子柄の網なんでどちらのメッセージにもなったなと思っています」
豊岡鞄のルーツと網からインスピレーションを得たデザインに「伝統」と「豊かな海」を後世に残していくという2つの想いを込めます。
そこに縫い合わせるのは、高級イタリアンレザー。
環境に配慮した厳格な基準のもと、植物由来の原料で染め上げられたレザーを選び抜きました。
【広山和基さん】
「何かこう(人々の)意識を変える。大量消費みたいな生産がこれまでは多かったんですけど、考え方を変える(きっかけの)一つになってくれればと思っているので、良いモノは長く…という思いを込めて作ったカバンです」
若き職人が持てる技術と想いを詰め込んだトートバック。
色は豊かな海を連想させる鮮やかな「オーシャンブルー」と深海を思わせる、「ディープブルー」の2種類です。
■苦境…乗り越える日々 “挑戦”で伝えたいこと
初めて作品を作り上げた和基さん。
コロナの影響でカバンの需要は激減し、工房の売り上げは半減。
長年勤めていた従業員も工房を去りました。
そんな中でも、カバンの代わりに医療用ガウンを縫って経営を維持してきました。
苦しい状況でも、このカバンを作るために必要となる裁断機を購入し、完成までこぎつけました。
【広山和基さん】
「景気も悪いし、不安なところは多いけど」
【父 博さん】
「景気が悪いからこういうのに取り組めたっていうのもあるしな」
【広山和基さん】
「まぁでもやっぱり結局なかなかうーん、やっぱり一番の目標は家族だったり、みんながこう・・・」
【広山和基さん】
「一番の目標は皆が幸せになっていくこと…」
和基さんは父に今後の目標を伝えようとしますが、涙が出そうになり、声が出なくなりました。
【父 博さん】
「もう十分伝わったな、これで伝わりました」
広山さんの目には涙が・・・。
「批判」されても