「立派な玉ねぎが7個、届きました!」こんな商品の感想をアプリに書き込み、多くの人と感想を「シェア」することで、安く購入できるという、新しい買い物のカタチに注目が集まっている。
お買い物アプリを通じて購入するこの仕組み。この日、あるアプリ(カウシェ)をのぞいてみると…
■秋鮭切り身 約30切れ 3,188円(46パーセントオフ)
■黒毛和牛切り落とし1キロ 4,480円(43パーセントオフ)
■送料無料 ミニトマト1キロ 998円(64パーセントオフ)
■送料無料 さぬきうどん(生)9食 500円(66パーセントオフ)
このように、なんとも魅力的なお買い得品が並んでいる。このお買い得価格を可能にしているのが、「感想のシェア」という新しいシステム。複数の人が一緒に同じ商品を大量に買って、1人当たりの代金を安く抑える「シェア買い」アプリが進化して、ここにたどり着いた。
■昔ながらの「共同購入」をアプリにした「シェア買い」
みんなで一緒に大量の商品を買って分ける「共同購入」は昔からあった。今でも、ご近所さんや友人とのシェアをしている人は少なくないだろう。この発展形として、まず登場したのが、インターネット上で他人と共同購入する「シェア買い」だ。
シェア買いは、自分に合ったお買い物アプリを利用。欲しいものを見つけたら、自分から共同購入を呼び掛けたり、すでにある購入グループに参加したりして、目当ての品を安く購入する。サイトごとにシステムの違いはあるが、多くは匿名で買い物ができ、商品は個別発送されるのでプライバシーが侵害される心配は少ない。
■シェア買いの「がっかり体験」
「欲しいものを、安心に、安く買える」と、メリットが強調される「シェア買い」だが、デメリットもある。その一つが「1人では買い物できない」こと。共同購入の特性上、定められた人数の共同購入者を、制限時間内に集める必要がある。
「多くの人がお得な買い物を楽しむ一方、全体の20パーセント弱ぐらいの方は、購入が成立していませんでした」
こう話すのは、シェア買い市場をけん引してきたお買い物アプリ『カウシェ』の広報・原田七穂さん。
「共同購入者が現れなかったら、シェア買いは成立しません。せっかく欲しい商品をお得に買えると思ったのに、不成立で購入できなかったら、がっかりしますよね」
■「感想のシェア」で1人でもお得な買い物を可能に
そんな残念な体験をなくそうと、去年9月、カウシェは新たなシステムをスタートさせた。「商品の感想をシェアすることで、1人でもお得に購入できる」仕組みだ。すべての商品を1人でも買えるようにし、購入した商品の感想をアプリ内の専用ページやSNSに投稿することで、一般的な価格よりも割安になるというものだ。
サイトを見ると「大きさや形が様々な新玉ねぎが大量に届きました。見ためはいびつでも味は美味しかったです」「24本入りの炭酸飲料を購入。賞味期限は今年の12月。味はまったく問題ありません」などの率直な感想が、写真入りで並んでいる。
気になる割引率は、複数の人で行う従来の「シェア買い」の時と同じ。平均して10~30パーセントオフで、毎日3回行われるゲリラセールでは、60パーセントオフ、70パーセントオフも珍しくない。
■お得の理由は「広告費の節約」
しかし…なぜ安く買えるのか?
理由は、「感想のシェア」によって、売り手が広告費を節約できるからだ。カウシェには、メーカーや卸、小売業が、直接商品を出品している。通常のネット販売では、広告費をかけて商品を宣伝することがほとんどだが、カウシェの場合は、商品の宣伝を「感想のシェア」という形で利用者が行うことで広告費を減らせ、その分、安く売ることができる。中には、過剰在庫や賞味期限が近い食品などもあり、「お得な」価格で販売されている。
さらに、投稿を見た人が興味を持ち、新たな購入につながると、投稿者、購入者それぞれに次回以降使えるポイントが貯まるシステムもある。自分の書き込みによって次の購買客を引き寄せることができれば「ボーナス」が受け取れるという仕組みだ。
本来、クチコミの中にはネガティブな感想もあるはずで、必ずしも宣伝の代わりになるとは言えない。それでも、クチコミを広告代わりにして宣伝費を圧縮できているところに、何か裏事情はないのか、気になるところだ。また、過去に大手通販サイトなどで、「やらせ」「自作自演」などのクチコミを巡るトラブルが起きたことがあるのも事実。心配はないのだろうか?
■「期待したい取り組み」と永井教授
マーケティング戦略や消費者行動が専門の、高千穂大学商学部の永井竜之介教授に話を聞いた。
「感想をシェアすることで、1人でもお得に買い物をできる」というシステムは、「“みんな”の意見や行動はとても気になるけど、買い物は1人で慎重に行いたい」という特徴を持つ日本ユーザーにとって、受け入れられやすいものになると感じます。日本のユーザーに合わせて「現地化させたシェア買い」として、期待したい取り組みです。(「現地化」とは、日本の特性に合わせた“日本式”の仕組み)
■「もう1クッションあれば」と指摘も
永井教授は、ないとは言い切れない危うさについて、次のように指摘する。
確かに、“クチコミ”というと、大手通販サイトでのやらせもありましたし、“荒らし”などが横行しがちです。投稿のインセンティブの大きいカウシェの新システムは、「危うさ」がないとは言い切れません。しかし、状況にあわせてシステムを修正していくことはできそうです。
例えばですが、
*投稿を見た→新規購入者→ポイント付与
という形を
*投稿を見た→新規購入者→新規購入者が高い満足度を登録→ポイント付与
というように、1クッション増やす。
このように「新規購入」でポイント付与するのではなく、「新規購入者が高い満足度が得られたこと」で初めてポイント付与するシステムにすれば、“投稿の質”を確認でき、信憑性を担保しやすくなると考えます。
(高千穂大学商学部の永井竜之介教授)
専門家が、評価する点と、改善できれば…と思える点の、両方を指摘する「感想のシェア」というシステム。この新しい買い物のカタチは、節約志向の高まりもあってか、主婦層を中心に口コミで評判が広がり、システムがスタートした昨年9月以降のダウンロード数(利用者数)は、それ以前の2倍のペースで増加している。
感想をシェアすることで、欲しい商品を安く購入し、自分のペースで節約できるこのシステム。新たな買い物のカタチとして定着するのか、注目される。