むずかしい「セックスの教え方」 京都の中学教師が挑む『はどめ規定』超えた性教育 自分の“出産シーンの鑑賞”や“コンドームの付け方”を実践 命のために必要なこととは 2023年02月14日
みなさんは、子どもから「セックス」や「性行為」のことを聞かれたら…どう答えますか?
【大原野中学校 三觜(みつはし)なつ美先生】
「セックスってみんな…何か知ってる?」
京都市立の中学校で行われた、性教育の授業。中学3年生にコンドームの使い方まで教えるという、かなり踏み込んだ内容です。一体なぜ、ここまで踏み込んだ性教育をしているんでしょうか?
■京都の中学教師が挑む“新しい性教育”
こちらは京都市立大原野中学校。
セックスについて、子供たちにどう教えればいいのか、先生たちも悩んでいます。
【3年生の担任】
「3年生全体は、すごい興味を持っていますね。最近はその話ばっかりしている」
【三觜(みつはし)なつ美先生】
「例えば、『初体験はいつ?』『先生セックス何回したことある?』とか聞いてきます?」
【3年生の担任】
「聞いてきますね」
【三觜先生】
「どんなふうに答えている?逃げてごまかして笑うこともある?」
【3年生の担任】
「そうする時もあるが、基本的にしゃべる。僕の実体験というか…」
【三觜先生】
「言っていますか?」
【保健体育の先生】
「言ってないですね」
【3年生の担任】
「隠したほうがその後、いろいろ突っ込まれる」
この学校で「新しい性教育」に挑んでいるのが三觜(みつはし)なつ美先生。実は、数学教師です。
【大原野中学校 数学科 三觜 なつ美先生】
「数学も大事。生きていく上で知っておいて欲しい基礎・基本がある。いずれ数学って使わなくなったり…でも性教育は絶対みんなに必要。命を守るベースになるから」
■中学校では“セックス”について教えないことに…『はどめ規定』
日本の中学校では「性交・セックス」については教えないことになっています。というのも文部科学省が定める学習指導要領で受精や妊娠については教えるものの『妊娠の過程は取り扱わないものとする』とされているからです。
【大原野中学校 三觜先生】
「性の大事な所は素晴らしいことと同時にリスクがあること。二面性として正しい知識を教えないと意味がない」
ある日の性教育の授業…三觜先生は3年生に「恋人とならOKっていうのは何ですか?」というアンケートをしました。
【大原野中学校 三觜先生】
「(3年生)70人近くいるが、『手をつなぐ』がすごく多いですね。恋人だったら手をつなぐ。恋人ならばセックスしても良いと思っているというのが『70人中25人』いました。3人に1人は恋人だったらセックスしてもいいんじゃないかなという考え方を持ってくれています」
「セックスって何のためにするの?」と質問を投げかける三觜先生。
【中学3年の生徒たち】
「子供を作るため」
「気持ちよくなるため」
「特別な関係になるため!」
…と、いろんな意見が出されました。
4人の子供の母親でもある三觜先生。自身の出産のシーンを見せることで、「セックス」の「良いところ」“命の育み”を伝えます。
一方で、授業の2日前に起きたニュースを見せました。生まれて間もない赤ちゃんの遺体を用水路に遺棄した疑いで15歳少女を逮捕したニュースでした。
セックスにともなう「リスク」。「正しい知識」を身につければ、命を守ることができる。そう考えて、文部科学省の「はどめ規定」を超えた、踏み込んだ授業を始めたのです。
■命を守るための性教育 コンドームの正しい付け方も
三觜先生の授業に賛同したコンドームメーカーの社員が、東京から駆け付け、コンドームの使い方を説明します。
【オカモト 医療品課 佐藤茜さん】
「性交の際に使用するコンドーム。実は正しい開け方があります。正しい開け方をしないと破れてしまう危険性が…。ちょっとべたべたするね。実際に付けてみましょう」
授業後の生徒たちの感想は…
【大原野中学校 三觜先生】
「どう?簡単やった?… 頑丈に作られているけど、爪を立てると危ないね」
【女子生徒】
「ちゃんとできるかなって思ったけど、思ったより難しい感じはなかった」
【男子生徒】
「必要なことなので抵抗はないです」
【女子生徒】
「知らないことが多すぎて、知らないまま進んでいったらっていう不安があった。コンドーム、実際、何に使うかも分かってなかった。思ったよりヌメヌメしているなと」
【男子生徒】
「性交とかコンドームとか、日本ではそのへんの言葉が、イメージがよくない。それがあることは日本にとって良くない。これからを変えていかないといけないと思う」
性教育の授業参観した母親たちは…
【参観した母親たち】
「自分自身も勉強しないといけないと思って。今はスマホでいろんな情報が入ってくる中、学校で正しい知識を教えてもらえて本当に良かった」
「私の世代だと、こういう授業って、女子と男子と別れて、男子は外に出て下さい、女子は残って女子だけの話だった。みんなで楽しくワイワイして。実験みたいな感じもあったし」
【大原野中学校 三觜先生】
「先生が何とか教えないようにうまくはぐらかしても、休憩時間に『先生、ほんでどうなん?』『ほんまのこと教えてよ』って言うてきます。そこで私が『教えられないよ。指導要領に従って悪いけどあなたには教えないよ』と、態度をもしとったら、その子たちはSNSなどに情報を頼って、性被害や性加害に遭ってしまったらどうしよう。この子たちを守ってあげられるのは誰なんやろうって思った時に、義務教育が一番子供を守れる時間。だからこそ中学校でやりたい」
■セックスの教え方…問われる“大人の対応力”
今回、三觜先生の“はどめ”を超えた性教育授業を取材して、性教育で問われているのは私たち大人だなと感じました。教えられていないから知らない…では済まされない時代。教育現場も変わりつつある中で、大人がどんどん情報をアップデートしていかなければいけません。
性教育の『はどめ規定』については、規定があるから『やってはいけない』ということはなくて、ちゃんと保護者や学校、教育委員会の理解を得られればやっていいということなので、国の『はどめ規定』が1998年に決まってからずっと議論が深まっていないのは“歯がゆい”ところです。
実際のケースを少し考えてみます。子どもがアダルト動画を見ていたらどうするか?
【埼玉医科大学 高橋幸子 産婦人科医】
「まず、見ていたからといって『叱らない』『否定をしない』。それから動画の内容が『お手本だよと思ってはいけない』と冷静に伝えることが大事」
ということです。今回の取材で性教育は生きていくために必要な教育であり、人権教育にも通じるものだと感じました。
(関西テレビ「報道ランナー」2023年2月10日放送 記者:加藤さゆり)