持続可能な社会を目指す17の目標「SDGs」。5番目は「ジェンダー平等を実現しよう」です。
4月に開催された、性の多様性を祝うレインボーイベント。
トップスポンサーをつとめる、ある京都の企業に訪れた変化を追いました。
■アジア最大級のLGBTQイベント開催
「ハッピープライド!(自分らしさに誇りを持とう!)」
東京で4月22日から24日まで開かれた、アジア最大級のLGBTQに関するイベント「東京レインボープライド」。
感染対策をとって、3年ぶりにリアルで開催されました。
【ENVii GABRIELLA Takassyさん】
「今隣にいる方と知り合えたのも、あなたがそのセクシュアリティーだったから。そのセクシュアリティーで生きてきた道を通ってこなければなかった出会いが、皆さんの周りに転がっています」
ステージから呼びかける、ENVii GABRIELLAのTakassyさん。
レインボーカラーを身に着けた人々が、笑顔で会場を行き交います。
【参加者】
「みんなウェルカムなので、オープンマインドですね」
「気を使わない空間だなって」
「地域の団体や企業がいろいろいて、すごい応援してくれてる感じがして、とてもうれしい」
「にぎやかだなと、お祭りですね。今日明日と2日間楽しみます」
誰を好きになるか、どんな性で生きたいか―
セクシュアリティーに関わらず、すべての人がより自分らしく誇りを持って、前向きに生きられる社会を目指すこのイベント。
賛同する企業や団体は、200にも上ります。
世界的なスニーカーブランド「VANS」は、フォトブースを設置してイベントを盛り上げています。
【VANS JAPAN 担当者】
「VANSは『クリエイティブなことをもっとやろう』と絵を描いたり写真を撮ったり音楽を作ったり歌を歌ったりっていうブランド。LGBTQの人たちがもっと自由になるためにはっていうのをVANSなりに考えて。何の偏見もなく、自由にクリエイティブなこと、絵を描くとかいろんなことをできる環境を作っていくことがVANSの使命だと。なのでこのイベントも、写真を撮って何か書いてもらうことで、楽しんでもらうことが一番の趣旨」
写真を1枚撮るごとに、LGBTQをサポートする資金として100円を積み立てる生命保険会社も。
同性婚が認められていない日本では同性パートナーが自動的に財産を相続することはできませんが、ライフネット生命は7年前から、生命保険の受取人として同性パートナーも認めています。
【ライフネット生命 担当者】
「私自身も当事者の一人でもありますし、年末調整のときに配偶者のところを見ると、『ここはカバーできないんだなぁ…』と思ったり、相続の問題があったり。法的にまだできない部分もあるんですけど、こういった形でカバーできるのは自分にとっても選択肢の一つだし、入社動機の一つでもあります」
■日本企業の先陣を切った名物飲料メーカー
ちょうど10年前に始まった「東京レインボープライド」。
当時協賛していたのは、外資系の企業や大使館がほとんどでした。
そんな中で、日本の企業としていち早くスポンサーとなったのが、京都に本社を置く企業、「チェリオ」です。
【スタッフ】
「ライフガード冷えてます、冷たいのどうぞ~!!」
レインボーカラーをあしらった「ライフガード」を無料配布するチェリオ。
2014年から協賛し、その翌年からはトップスポンサーとしてイベントを先導しています。
【チェリオ 菅大介社長】
「スポンサーの中で、風穴を開ける必要があると思っていて、トップが日本(の企業)だとフォロワーができていくだろうと。他の企業も『やってみようかな』となってくれるとうれしいなというのが一番大切だった」
スポンサーになる決断をしたチェリオの菅社長。初めから社内の関心が強かったわけではありません。
【チェリオ 菅大介社長】
「東京レインボープライドを始めたとき、LGBTQのことは認識として社内に一切なくて。90%が男性の会社ですから、同質性・均質性みたいなところがある。しかも体を動かすので、体育会系みたいに上下関係もしっかりしている会社でした。だからといって『やるな』とは一切言われなかった。認識がない、あるいは無関心ではあったけど、『ひとまずやってみよう』とスタートした」
「ひとまずやってみよう」。これが、さまざまな変化をもたらすことになりました。
■『いない』ではなく『いるかもしれない』が前提
創業約60年、キャラメルポップコーン味のソーダなど、独創的な商品を世に出してきた「チェリオ」。
京都市内にある本社を、総務・人事課の柿島なつみ係長に案内してもらいました。
【チェリオ 総務・人事課 柿島なつみ係長】
「こちらが“誰でもトイレ”です。男性女性問わず、身障者の方にも広々と使っていただけるお手洗いです。従業員はもちろん、お客様にも使っていただけるお手洗いなので、誰にも自分の性別をオープンにしていない方にも気軽に使ってもらえます」
2019年、京都本社に移転する際に、誰でも利用できるトイレを2カ所に設置しました。
設備だけではなく就業規則にも、人種や国籍などと並ぶ形で、セクシュアリティーについての差別を禁止することを明記。
同性パートナーを登録して、配偶者と同等の家族手当などが受けられるようにしました。
【チェリオ 総務・人事課 柿島なつみ係長】
「社内から声が上がったわけではないんですが、ダイバーシティへの取り組みをしているチェリオに入社したいという人が増えてきたことから、今後当事者の方も増えてくるであろうということで、2018年に導入しました」
【チェリオ 総務・人事課 柿島なつみ係長】
「カミングアウトをしていないだけで、もしかしたらいるかもしれない。社員ではなくても社員のご家族にいるかもしれない。とても身近なところにいるかもしれないということは必ず言えると思うので。今見えていないから『いない』と割り切るのではなくて、『いるかもしれない』ということを前提にすべて進めています」
■「やってみよう」で始まった取り組み 新入社員の志望動機にも
毎月発行の社内報にもLGBTQへの理解を深めるためのコラムを2016年から連載するなど、取り組みは会社全体に広がっています。
この「多様性を重視する」社風に惹かれて、入社してくる社員も増えました。
【入社4年目 中澤拓也さん】
「感心したというか、すごいと思いました。すごい印象に残った」
入社4年目の中澤さんが今取り組んでいるプロジェクトは、その名も「参加型自動販売機のんでCHANGE!」。
売り上げの一部がレインボーイベントへの応援にあてられる仕組みで、地方を含む全国に1000台以上の設置を目指しています。
【入社4年目 中澤拓也さん】
「地方は多様性の価値観が浸透しにくいというのがあって。そういうところにうちの自動販売機を置いて、自動販売機を通じて多様性の認知向上に貢献できればと思っています」
■変化のきっかけを地方から 「自分たちも」を後押し
東京レインボープライドの最終日には、「つながる」をテーマにしたパレードが行われます。
世代や地域の枠を超えた約2000人が、渋谷の街を歩きました。
チェリオの社員も全国から駆け付けました。3年前には、各地で開かれているパレードに4割の社員が参加したそうです。
【チェリオの社員】
「イベントを昔から応援しているので、会社全体で盛り上げようと」
「大阪・名古屋から来ました」
「こういうイベントがあって、出ることが大事かなと。傍観者じゃないというか、踊った方が楽しいぜと」
【チェリオ 菅大介社長】
「ローカルとか小さいとか関係なく、まずは1つケーススタディーをつくる。チェリオが(社員)500人くらいの規模でできるんだったら自分たちもできるんじゃないかと、変化のきっかけをしっかり作っていく。そういうことを地方からやれたらいいな」
「ハッピープライド!!!」のかけ声とともに写真を撮る笑顔の人々。
「ひとまずやってみよう」で京都の会社が踏み出した一歩が、多くの人の背中を押しつつあります。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年4月29日放送)