「観光公害」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?
ゴミや交通渋滞など観光客が増えることで起きる被害のことですが、特にいま京都では大きな問題になっています。
住民は「我慢の限界だ」と市に訴える事態にまでなっていて、その現状をツイセキしました。
■「舞妓の追っかけ」「座り込み」…深刻な状況
今年も桜の見ごろを迎えた京都。
桜の名所と言われる観光地には、この時期を目掛けて、観光客が大挙して訪れます。
【観光客】
「(なんで日本にきたの?)桜のためにきた。毎年美しい花を咲かせてるね」
「花も色もとても美しくて、この時期、春にしか咲かない(から良いと思う)」
しかしその一方で、住民たちは大きな問題を抱えています。祇園のお茶屋の女将・高安さんの悩みは切実です。祇園の街を歩きながらお話を伺おうとしますが…
【祇園町南側地区協議会・高安美三子会長】
「歩けやしませんやろ?歩けやしませんやろ?すごい人で。車も通れへんしね」
さらに進むと、家の前などに「座り込んで飲食」したり、「勝手に家に入り込む」観光客も…
「そこ、座らない座らない!だめです」
「あ、いま入ってる。こんなんして入ってきはるねん、ここ普通のお家!こんなところ入ったらあかんのに」
その結果…舞妓さんの家、「置き屋」の前には風情に似合わない「立ち入り禁止」の看板が置かれるようになりました。
舞妓さんの中には、着物をひっぱられ破れたり、ぶつかられて転んだという人までいて、マナーを守らない人による、いわゆる「観光公害」がおきているのです。
京都市を訪れる観光客は20年前の1.5倍以上に増え、年間5,000万人を突破しています。
過去の映像を見てみると、以前は舞妓さんがすたすたと歩けるほどでしたが、ここ数年はずっと人でごったがえす状態が続いていて、住民の我慢は限界に達しています。
【祇園町南側地区協議会・高安美三子会長】
「人で景観が、祇園情緒が全然なくなってる。観光できはったら京都市にもお金が落ちるかもしれないけど、何にも風情ないし、壊されてるだけなので、それを知っていただきたい」
■「被害」は、観光地に限らなくなってきた
住民の生活を脅かすいわゆる「観光公害」は、祇園町に限りません。
ここは京都駅から程近い、南区東九条の住宅街。
【記者リポート】
「住宅街の真ん中に外国人がいてますね。ホテルとかあるのでしょうか」
【外国人客】
「京都を見て回ってるんだ。チェックインして部屋に荷物を置きたいんだ。ここがホテル?そう」
実はこのあたりには近年、ホテルやゲストハウスが急増。民泊の並びにあるこちらの家も、頭を悩ませています。
【住民】
「民泊、間違って入ってきはる。あんまり間違って入ってくるんで(手書きで説明用の看板を)つけて…。行政が考えることだけどちょっと考えてもらわんとあかんね。万博とか過ぎたら空き家とか増えるんじゃないかなと思うんだけどね。こんなことばっかり推奨してもらったら困る」
■宿泊税を導入し、観光客の分散化を図るが…
京都市の観光を促進する姿勢に対して、噴出する住民の不満。しかし、市も手を打たなかったわけではありません。
去年、「宿泊税」を導入し、市内全ての宿泊者から徴収を開始。宿泊税を財源に、中心地以外の観光地の魅力を発信するプロジェクトで「分散化」を図ったり、民泊の通報窓口を強化したりと対策を行ってきました。
しかし、この「宿泊税」が、また新たなトラブルを生んでいるのです。
【簡易宿所連盟・ルバキュエール裕紀副代表】
「20,000円以下の人には全員200円の宿泊税がかかります」
【外国人観光客】
「一人一人?部屋じゃなくて?」
【簡易宿所連盟・ルバキュエール裕紀副代表】
「1人に」
【外国人観光客】
「私は19日ここに泊まってるから・・・」
【簡易宿所連盟・ルバキュエール裕紀副代表】
「3,800円の宿泊税です」
この簡易宿泊所では、チェックインの際に宿泊税の説明をしていますが、予想をはるかに超える負担がかかっているといいます。
【簡易宿所連盟・ルバキュエール裕紀副代表】
「そもそもなんでこういう税があるのかとか、いくらなのかとか、そういったことを説明するのに10分以上かかるときもあって。説明してもご納得いただけなかったりとか不満そうな顔をされるというところで、最終、「大丈夫です」って引き下がってしまうトラブルが多かった。」
店が宿泊税を肩代わりするまでになる、大きな理由はその金額の設定です。
宿泊代が2万円未満であれば1,000円でも1万円でも一律200円。価格競争が激しく、連泊が多い簡易宿泊所にとって、200円の負担は大きく、京都市に見直しを要望する予定です。
こうした状況の中、3月に住民たちは京都市長に直接、観光の体制改善を要望しました。
【祇園町南側地区協議会・高安美三子会長】
「みんなすごい迷惑かけられてるんです。家も勝手にあけて入ってくるんです」
【門川大作京都市長】
「監視カメラの設置ももう一歩強化する。これ一本ということやなしに、新たな仕組み作りについても相談してやっていきたいと思いますので、決意新たに踏み込んでやります」
■住民が自ら対策に乗り出した「嵐山」
一方、行政の協力がなかなか見込めないと、この桜のシーズンにあわせて動き出したのが、京都屈指の観光名所、嵐山です。
【記者リポート】
「多くの人が食べ歩きを楽しむ嵐山ですが、実はこのあたりゴミ箱がありません」
数年前までメインストリートにも、京都市がゴミ箱を設置していましたが、回収が間に合わず、度々あふれてしまい、ほとんどを撤去。結局、道端や、時には店の商品棚にまでゴミが捨てられるようになり、問題になっていました。
そこで嵐山の住民たちは、自腹で竹製のゴミ箱を作り、付近の店舗にも設置してもらうよう、協力を求めることにしました。
【嵐山商店街・細川政裕会長】
「午前中だけでも、午後からだけでも、できる範囲で置いて頂いて」
処理費を店に負担してもらうという条件で約20店舗が協力を快諾。
商店街の土産物屋が、実際にゴミ箱を置いてみると…店の商品ではない、食べ物のゴミがどんどんたまり…
「たった2時間」でいっぱいになってしまいました。
【ゴミ回収をする店員】
「(重そうですね)結構入ってますね~(自分たちで処理?)そうですね(負担になったりする?)少しは仕事以外のことが増えるので大変だけど、きれいに嵐山がいた方がいいと思うんでがんばります」
【嵐山商店街・細川政裕会長】
「できることから少しずつやっていくことが大事。最終的にはゴミのでない美しい観光地としての嵐山を作っていくことが持続可能な観光地として生き残っていく、嵐山が一番最初にやっていかないといけないことかな」
観光客の増加で広がる京都の「観光公害」。
住民の小さな一歩が、観光地の運命を変えるかもしれません。