入学待ち100人超 自主性を育む『オルタナティブスクール』 国公立でも私立でもない“もう1つの学校”に子供が集まる 一方で学力面や費用面の懸念も 2023年12月24日
国公立や私立の学校とは異なる教育をする「もう1つの学校」があります。
この学校では、子どもたちが自分の好きなことをしたり、修学旅行の行き先選びから旅費集めまで全てを子どもたちが行うなど、あらゆることが子ども自身に委ねられています。
国が認可していない学校ながら、入学待ちはなんと100人以上!この学校に子供たちが集まる理由とは?
■何を学ぶかは“自分で決める”
大阪府箕面市の住宅街にある、「箕面こどもの森学園」。小学1年生から中学3年生までが通う、全校生徒67人の小さな学校です。3学年が1つのクラスに集まって学んでいますが、取り組んでいることはそれぞれ違っています。
この日、子どもたちが紙に書いていたのは、“学習計画表”というものです。
【児童】「何ページ進めるかとかを自分で決めて書いて、その計画通りに進めていく」
国語や算数、理科といった、決められた科目の時間割はなく、読み・書き・計算など、子どもたちが必要だと思うものを、自分で決めて学びます。
【小学6年 ようこさん】「理科はそんなやけど、漢字と算数は一応6年分終わってる」
学校のスタッフは、子どもたちの様子を見守り、必要な時に助言をするだけです。
【学校 スタッフ】「8割できたら次の学年に進むようにしているけど、しんどい人は飛ばしてもいいし」
一般的な学校と大きく異なり、かなり自由な校風のようですが、テストはあるのでしょうか。
Q.テストを受けることはあるの?
【児童】「テストとかはない。受けたいわけじゃないけど、1回どんなのかだけ見てみたい」
テストだけでなく、宿題や通知表もありません。
【学校スタッフ 藤 孝史さん】「自分ができるようになりたいとか、この先こういうことしたいからそれが必要だとか、自分軸でものを考える時に、このテストなら何点ぐらい取れるよねっていう、自分と関係ないところでの評価をする必要はないかなと」
■独自の教育方針「オルタナティブスクール」
こどもの森学園のように、国公立や私立などの公教育と異なる独自の教育方針で運営する学校は、「オルタナティブスクール」、通称「もう1つの学校」と呼ばれています。
自由度が高く、自主性が育ちやすいことから、この学校を積極的に選んで来る子どもが多いことも特徴です。
小学6年生のそらさんは、小学1年生からこの学校に通っています。公立の小学校にも家族で見学に行きましたが、こどもの森学園に通うことを決めました。
【そらさんの母】「(公立の)各クラスを見たときに、生徒も先生も違うのに、同じ授業だったんです。同じ進行で、同じペースで、同じ内容で。人数的なものも多様性のあるところを求めていたので、ちょっと違うかなと」
【小学6年 そらさん】「自分のやりたいことをできるし、好きな計画を立てて自分のペースでできるから、そういうところが好きかな」
興味があることはどんどんやってみる。この学校の考え方は、時間割にもはっきりと表れています。週の半分以上は、物づくりや調べ学習を行う総合的な時間。中でも「プロジェクト」という時間は“今やりたいこと”をテーマに、自分で計画を立てて作業を進めていきます。
小学4年生のみゆうさんは、パーツを組み立てて好きなキャラクターを作っています。
【小学4年 みゆうさん】「ポケモンが好きだから。立体ってすごいなと思って、(パーツを)組み立てているだけ。ボンドとか使ってません。売れるかなと思って試してるって感じかな」
作ったものを一つ500円で販売しようとしていました。他にも物を作るのが好きな子がいました。こちらは裁縫をしているようです。
【小学5年 ゆうさん】「三角のお手玉(を作っている)。ここを閉じたら終わり。細かい作業とかが楽しい」
■不登校だった児童 転校後の変化
自分の好きなことや意思を表現できるこの環境で、1歩前に踏み出すことができた子どもがいます。
小学6年生のきのさんは、以前通っていた小学校で不登校となり、2022年にこどもの森学園へ転校してきました。
【小学6年 きのさん】「ここに来た時に(友達と)無理に仲良くしないでいいのが、自分的には正直になれていいなと思っている」
転校してきたことで、以前との変化を感じているようです。
【きのさんの母】「自分からいろんなことをやりたいっていう風に言うようになったなと思ったんですよね。前から造形教室には通っていたんですけど、取り組む姿勢が強くなったよね」
【小学6年 きのさん】「前は先生に言われたら、それを直す。今は『自分がこうしたいから直しません』って意見が出せるようになったのがうれしいなって」
そんなきのさんは、プロジェクトの時間にジオラマ模型を製作していました。
【学校スタッフ 藤 孝史さん】「これ、どこなん?」
【小学6年 きのさん】「スイス・ツェルマットの道」
ジオラマで作っていたのは、スイスの街だそうです。
【きのさん】「自分的にはいい感じにできていて楽しい」
■認可外の学校 長期欠席扱いになる子も
「箕面こどもの森学園」が本当の意味で国公立や私立に並ぶ“もう1つの選択肢”になるには、まだ課題があります。
国が法律で定めた「学校」になるための高い基準がクリアできず、今も認可されていません。そのため子どもたちは、地元の小学校に籍を置きながら、箕面こどもの森学園に通学しています。
ある児童が籍を置く地元の学校から受け取った、通知表の評価欄には、何も書かれていませんでした。長期の欠席者として扱われ、成績はもちろん、出席も認められず、保護者に「就学義務違反」の通知が届くことも。
専門家は、「教育内容の評価」が認可外の学校にとって、大きなハードルになっていると考えています。
【立命館大学 経済学部 武井哲郎准教授】「どういう教育をしている団体なのか、どういう理念を持っている団体なのかをどう見極めていくのか。そして線引きをどうしていくのかが、行政としては悩みどころなのかなと思います」
「箕面こどもの森学園」周辺の教育委員会にアンケートを取ったところ、認可外の学校での成績や出席を「認めない」と回答したところもあれば、「学校長の判断」や「不登校児童に限る」など、対応にバラつきがありました。
【箕面こどもの森学園 代表理事 藤田美保さん】「不登校の児童・生徒であれば、民間で学ぶこと、あるいは民間だけではなくて自宅でICT(オンライン授業)を使って学ぶことも学びだと(法律で)認められているんですよね。どの子にも自分の学びを自分で選ぶ、あるいは作る権利があるんじゃないかなと思っているんです」
■自分たちで作るルール
箕面こどもの森学園では、学校生活のルールや行事なども子供たちが話し合って決めます。この日のテーマは、名古屋に行く修学旅行。
【学校スタッフ 藤 孝史さん】「放課後に窓口で(チケットを)買ってくるので、何時の便で、何人分で、いくらいるのかを計算して、皆さんのお金から渡してください」
半年前から旅行先や宿泊先も子どもたちで選び、必要な資金およそ30万円は、工作などをして、フリーマーケットで稼いできました。
修学旅行まであと2週間となったある日、問題が起きました。
【ようこさん】「日帰りの人や行かない人を決めておかないと、帰りの新幹線の数が違ったり、宿のキャンセルが必要だったりするから聞いておきたいです」
【まことさん】「行かないってある?行くってなったんじゃないの?行きたくない人がいたら、修学旅行に行くっていう話し合いになってない」
【みゆうさん】「ちょっと迷ってる」
修学旅行に行くかどうか迷っている人が出てきました。「日帰りでもいいから行こう!」とみんなで誘います。
【まことさん】「とりあえずやるってことで、日帰りでも行くってことになって、どこに行くかの話し合いが始まった」
【そらさん】「違うで、まこと。その人(行かない人)たちが行かなくても修学旅行の話し合いはしてるやろ」
一般的な学校なら多数決をして済ませてしまうことでも、全員が納得するまで話し合います。
【みゆうさん】「私は問題が直ればいいだけなの。低学年の頃、お泊まり会の時にお風呂で暴れる人がいたり、寝る時に早めに起きちゃったり、それで具合が悪くなって。そこが問題なんだよね」
【まことさん】「そういう問題をできるだけ直すことは、ルールに入れるということで」
就寝前には騒がないなどのルールを決めました。その結果、無事1泊2日の名古屋旅行は成功。参加を迷っていたみゆうさんも、楽しそうな笑顔で写真に写っていました。
自主性を育み、学びたい気持ちを促す“もう1つの学校”。
気になる費用については、公立小学校が月額約7000円であるのに対し、「箕面こどもの森学園」は月額約5万円。認可外で国からの補助がないため、安いとはいえない金額です。また、テストがないことで「学力が低下するのでは?」と心配の声も…。
いくつもの懸念や課題もありますが、実際に通っていた卒業生からは、こんな言葉が聞けました。
【卒業生 多喜春華さん】「進路など自分自身で意思決定する習慣がついた。学びたいという強い思いで希望の大学に進めた」
もう1つの学校が、これまでの“教育”のあり方を改革する存在になるかもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年12月20日放送)