【犯人】「過去3年間でお使いになった病院代やお薬代などのですね、医療費の一部が返還されるといった内容になっておりまして」
今、大阪で被害が急増している「還付金詐欺」。これはその電話の一部です。
【犯人】「早急なお手続きの方だけ、よろしくお願いいたします」
【電話を受けた80代男性】「はい、承知しました」
“還付金がもらえる”。
【電話を受けた60代女性】「本当に何の疑いもなかったです。とても上品で、ちょっとインテリジェンスなんです」
大阪府では、2023年の特殊詐欺被害が2656件と過去最多。その上、被害総額は36億円を超え、毎日およそ1000万円の被害が発生していることになります。
そんな中…。
【大阪府 吉村洋文知事】「高齢者の老後の資金をだまし取る悪質な犯罪。許してはいけないと思っています。そのために“一歩踏み込んだ条例”が必要」
全国初、条例で「高齢者によるATMでの通話禁止」を義務化する動きも。
大阪が狙われる還付金詐欺の実態を追いました。
■ターゲットは大阪!?「還付金詐欺」の実態
【大阪府警YouTubeより】「実際に大阪府内で発生した詐欺未遂事件の犯人と被害者の方の電話のやりとりをご紹介します」
そして、イメージ映像が流れます。
【犯人】「まず当銀行のキャッシュカードをお手元にご用意ください。まず残高照会を押してください」
【被害者】「はい」
【犯人】「そうするとカードが入れられるので、キャッシュカードを入れてください」
【被害者】「はい」
【犯人】「カードを入れると、暗証番号の入力画面が…」
還付金詐欺。それは「医療費や税金などの還付を受けられる」という甘い誘惑をエサにお金をだまし取る、特殊詐欺の手口です。
誘いに乗ってしまうと、ATMに誘導されます。そして電話で指示された通りに操作すると、預金を振り込む手続きをしてしまい、だまし取られることになるのです。
大阪府は特殊詐欺の被害金額が年々、増加傾向。今年は9月末時点で、去年1年間の被害総額を超えています。
「もらえるものはもらっておこう」精神のためか、都道府県別でも、大阪府は「還付金詐欺」の被害件数が全国でダントツです。
■警察が突き止めた「犯人」のある共通点
そんな中、吹田警察署は、犯人のある共通点を突き止めました。
「松本」や「松田」など、「松」がつく名前を名乗る犯人からの電話。
吹田警察署で今年把握している還付金詐欺のうち、およそ95%がこの「松」がつく名前を名乗る「松グループ」の犯行でした。実際に吹田市内に住む80代の男性の家にかかってきた電話の音声があります。
【吹田市役所の松本と名乗る男】「私、吹田市役所の保険課の松本と申します。〇〇様ですね」
【電話を受けた80代男性】「〇〇です」
【吹田市役所の松本と名乗る男】「お世話になっております。本日ですね、ご確認のご連絡になるんですけど、今年の5月にですね、『累積医療費』と書かれたご封筒をお送りしたんですけれども、中身の方はご覧いただいてますでしょうか?」
吹田市役所の職員を名乗る「“松”本」。優しく丁寧な口調が印象的な話し方です。
「松本」は、金融機関に行けば還付金を受け取ることができると伝え、後ほど銀行の職員から電話がかかってくると話します。
そして電話を切ると、すぐに別の電話がかかってきました。
【銀行職員の福沢と名乗る男】「もしもしお世話になっております。三菱UFJ銀行本店営業部の福沢と申します」
【電話を受けた80代男性】「こんにちは。よろしくお願いします」
【銀行職員の福沢と名乗る男】「よろしくお願いいたします。今回使っていただく最新の(ATM)機械はですね、行員の方が横についてのサポートが原則できなくなっておりますので、今から伝える三菱UFJ銀行サポートコールセンターの方にご連絡をいただけましたら、国の資格を持った職員の方が、機械の操作方法一つ一つを丁寧に教えていただけますので」
すっかり信じこんでしまった男性が指定された金融機関に行ったところで、職員が「詐欺だ」と気づき、事なきを得ました。
同じく「松グループ」からの電話があった女性も「親切な話しぶり」に信じ込んでしまったといいます。
【電話を受けた60代女性】「穏やかで、丁寧すぎるくらい丁寧です。言葉巧みっていうか、とっても上品で、ちょっとインテリジェンスなんです。何の疑いもなかったです」
誰もが信じてしまうような、巧みな言葉。
電話をかけながらATMを操作している時、後ろに並んでいた男性が声をかけてくれたことで、被害にいたりませんでした。
■「防犯機能付き電話」普及のため補助金も
詐欺被害を少しでも減らそうと、吹田市と警察は「防犯機能付き電話」を普及させるため、補助金を出しています。
【警察官】「これから電話がかかってくる。非通知を拒否します」
防犯機能付き電話は、着信拒否だけでなく自動で通話を録音したり、着信時には注意喚起メッセージを流したりします。
【電話機の音声】「登録されていない携帯電話からです。振り込め詐欺の電話が多い時間帯です。気をつけてくださいね」
【電話を受けた60代女性】「役所、保健所からの連絡も、よく電話を取るんです。(電話番号の)表示とか、つけてた方が安心」
さらに…。
【島田珠代さん】「だまされたらあかんで!」
高齢者の意識を高めようと、啓発イベントを何度も行っています。
【島田珠代さん】「信じられないような、うそみたいな演技力で『振り込んでください』というのが増えてますから、絶対乗らないように!」
■警察と誤信させる「新手口」 カラクリを専門家に聞いた
しかし、さらに上を行く、とんでもない電話がかかってくることも。
【警視庁の新井と名乗る男】「私は警視庁捜査二課の新井と申します」
突然、40代の女性の元にかかってきた、警察官を名乗る電話。
しかも、番号表示は全国の多くの警察署で使われている、下4桁「0110」。
そして、女性が事件の「容疑者」になっていると、不安をあおってきました。
【電話を受けた40代女性】「きっと警察がかけてきたらこういう対応するのかなって思うような、堂々とした感じの電話だったから、やっぱり『そうなのかな』って思ってしまいました」
こうして不安をあおり、「容疑者から外れるにはお金が必要だ」と、預金をだまし取られる被害が全国で増えています。
女性は会話の途中で違和感を覚え、詐欺だと気づきました。
「新井」がかけてきた「0110」の番号に記者が電話をすると…。
【電話のアナウンス】「こちらはNTTドコモです。おかけになった番号ではおつなぎすることができません」
電話はつながらない状態、架空とみられます。
番号表示のカラクリについて、ネットワークセキュリティに詳しい専門家はこう指摘します。
【神戸大学 森井昌克名誉教授】「海外の会社で、異なった任意の電話番号を通知するサービスがある。そこと契約すれば、どんな番号でも表示させることが可能になります」
「これだけは信頼できる」「私だけはだまされない」。そんな常識は、いまや非常識です。
次にだまされるのは、あなたかもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年11月7日放送)