「イチゴ農園」の計画が頓挫した滋賀県高島市。
問題は、事業者に立て替えた3億7000万円が返ってこないこと。
【滋賀・高島市 福井正明市長】「瑕疵はなかった」
高島市は全力で回収に当たると説明しますが、市民からは怒りの声が。
【高島市民】「みんな必死ですから!3億7000万円あればどんなことができるんですか!」
【高島市民】「『瑕疵はありません』ではなく、市民はもっと具体的な説明を求めているのに、なぜ一辺倒の言葉で終わってしまうのか」
返ってこない3億7000万円はどこへ行ったのか。受け取った横浜の建設会社を取材すると、明らかになったのは驚きの実態でした。
「イチゴ農園」はなぜ頓挫したのか…。果たして、3億7000万円は返ってくるのでしょうか?
■“イチゴ計画”頓挫 補助金3.7億円の行方は?
「賛成の人は挙手を願います。挙手、少数であります。よって、請願は不採択と決定しました」
【傍聴席】「うそやろ?」「え~!」
傍聴席から漏れた、驚きの声。
3月13日、滋賀県高島市の議会で“ある問題”の真相解明を求めたおよそ5000人の請願書が、委員会で否決されました。
【傍聴した市民】「すごく残念です。地に落ちた議会だなと」
【傍聴した市民】「市民の声を聞かないと言っているのと同じだなと、怒りを感じました」
市民らが怒りの声を上げる問題、それは「イチゴ農園補助金の未返還問題」。
高島市では2022年、市内に設立された株式会社「風車」が「イチゴ農園」を計画。
事業総額は約16億円で、年間およそ110トンのイチゴを栽培し、東南アジアへ輸出するというものでした。
農園の完成後に、国からおよそ7億5000万円の補助金が交付されることが決まっていましたが、風車から先払いを求められた高島市は、半分にあたるおよそ3億7000万円を立て替えて支給しました。
しかし計画通りには進まず、約束の1年が過ぎても現場はほとんどさら地のまま。2023年5月に補助金事業は頓挫してしまいました。
国から補助金は出なくなり、「風車」からも返還されないことに市長は…。
【滋賀・高島市 福井正明市長(2023年8月)】「補助金の交付規則に基づき、そして必要な書類を審査し、概算払いを執行した。私としては、瑕疵はないものと」
2023年9月、高島市は返還を求めて「風車」を提訴。訴えられた「風車」の代表は次のように話しました。
【「風車」代表(2023年9月)】「補助金を返す意思はあります。しかし、その返済のためにも、まずはイチゴ農園を2月頃には完成させたいと思う」
原資となる金をイチゴ農園の利益で作るため、建設を続けるという「風車」。
目標の期限を過ぎた今、現場はどうなっているのでしょうか。
取材班が見に行ってみると、予定地にはコンクリートの囲いができていますが、イチゴはまだできていない状態。イチゴ農園は完成していませんでした。
しかし、基礎工事の囲いが2つできていて、ハウスの骨組みとなるのか、大量のパイプが置かれていました。
高島市によると、補助金はまだ1円も返ってきておらず、そのことについて3月の議会では…。
【滋賀・高島市 福井正明市長】「支出した補助金、および延滞金の全額回収に取り組んでいるところであります」
市長はこう述べるにとどめ、「裁判中」を理由に多くは語りませんでした。
進展が見られない事態…。なぜ補助金は返ってこないのでしょうか。
■未返金で訴訟…補助金はどこへ?
風車によると、イチゴ農園の建設は、入札で決まった横浜市の建設会社「COSMO」と契約。
そして、高島市から受け取った3億7000万円をCOSMOへ入金しましたが、COSMOは「資材の見積もりをやり直したい」などとして着工を遅らせてしまい、その後も、工事は予定通りに進みませんでした。
【「風車」代表(2024年3月)】「われわれとしては建設会社にお金を持ち逃げされた思いです」
「COSMO」の責任を主張する「風車」の代表。支払った金額の一部の返還と、事業失敗の責任を問うために裁判を起こしたことを明かしました。
つまり、このような状況です。高島市は事業者「風車」に補助金3億7000万円を交付。「風車」は3億7000万円を建設会社「COSMO」に支払ったと主張。それぞれ返還を求めて裁判になっているのです。
さらに取材すると、現場の工事代金の支払いを巡るトラブルがありました。
一部の基礎工事を請け負った男性は、当初から支払いが滞っていたと話します。
【建設会社の代表】「金が遅れる理由が『待ってくれ』ばかりで、待たないと仕方ないなと」
「『完成させてくれたら払う』と言ったので、うちは完成させたわけです」
しかし完成させてもCOSMOからの支払いはなく、2000万円以上を受け取っていないと訴えています。
【建設会社の代表】「4月30日に金を振り込むという話だったけど、振り込みがなくて、それから連絡が全然取れない。メールを送っても、会社へ電話しても電話が変わったのか(つながらない)」
「ほんまに正直に真面目に仕事をして、責任感で完成させたけど、無念というか、ばかというか、なんと表現していいのか分からないけど」
工事代金を支払っていないというCOSMOは、補助金を何に使ったのか。話を聞くため、横浜へ向かいました。
■COSMOの実態は? 関係者の口から驚きの事実が
契約書に書かれた住所は、マンションの一室でした。会社は移転したようで、登記簿の住所に行ってみるも、そこはシェアオフィス。
【記者リポート】「貸会議室にCOSMOという会社は見当たらなかったですね」
インターホンにCOSMOの連絡先はありませんでした。
さらに、登記上の代表の自宅を訪ねてみました。そこで代表と会うことはできませんでしたが、家主によると、家賃の支払いを巡ってトラブルになっていることが分かりました。
そんな中、わずかな手がかりからたどり着いたCOSMOの関係者が、この事業について口を開きました。
補助金3億7000万円の使い道をたずねたところ、こんな返答が。
【COSMO関係者】「頂いたお金は現場で作業員を雇ったり、材料を購入したりすることに使いました」
受け取った金は工事に使い切ったと主張。
工事が間に合わなかったことや、代金が支払われていないことについても聞いてみると…。
【COSMO関係者】「工事が始まると、土壌改良など追加工事が発生し、時間とお金がさらに必要になった。その支払いを『風車』に求めたが、トラブルになってしまった。結局、工事は間に合わず、未払いの問題はそれが原因で起きたと思います」
予想外の追加工事の支払いを巡って「風車」とトラブルになり、工事が間に合わなかったとして、責任は「風車」にあると主張しました。
そして、驚きの事実を口にしたのです。
【COSMO関係者】「下請け業者から“カンムリ”で参加してほしいといわれた。横浜から遠い現場だったが、入札に参加することになった」
「完全な名義貸しはだめなので、自分たちは作業員の小屋を作るなどはしたが、大部分は下請けに任せました」
カンムリとは、入札資格があるCOSMOが落札し、イチゴ農園建設にたけた下請け業者に、大部分を丸投げするということ。
話を持ってきたのも、入札資格のない業者だったといいます。
入札のルールで「一括下請け」は禁止されていますが、網の目をすり抜けたような形で参加していたというのです。
建設会社へ取材した結果、「補助金は使ったが完成はしなかった」と話していて、「風車」と「COSMO」が責任を押しつけあう状況になっているということが分かりました。
責任の所在が不明瞭なこの問題。そもそも莫大な税金を扱う上で、書類上の審査ではなく、会社の実態を詳しく調査する必要があったのではないでしょうか。
高島市は警察への相談も視野に入れているということですが、まずは市民への説明責任を果たすことが求められています。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年3月21日放送)