消えた3億7000万円 自然豊かな滋賀県・高島市で町おこしの「イチゴ農園」計画がとん挫 市が先払いした補助金の行方は? 事業者『風車』の実態とは? 2023年09月06日
滋賀県ののどかな町が、いま大きな騒動になっています。住民が怒っているのは、高島市が支出した補助金3億7000万円についてです。
“イチゴで町おこし”だったはずが、一転、補助金を“建て替えた”ことをめぐって泥沼に。いったい、何が起きているのか、ツイセキしました。
■イチゴで町おこしのはずが…補助金3億7000万円を市が先払い!?
豊かな自然に囲まれた「風車と水の里」、滋賀県高島市。ここで今ある問題が起きています。
8月20日に議員が開いた住民説明会で議論されていたのは、補助金3億7000万円の未返還問題です。
【高島市市民】
「3億7000万のお金を先に出して返ってこないって、こんなこと聞いたことがない」
発端は、イチゴ栽培で実績のある大阪の企業が、2年前に新しい会社を立ち上げ、「イチゴ農園」を計画したことでした。
計画によると、年間およそ110トンを生産し、東南アジアへ輸出。事業総額はおよそ16億円で、そのうち半分が補助金として国から完成時に支払われる予定でした。
しかし、事業者から高島市に「先に補助金を出してほしい」と相談がありました。
国の補助金事業は、事後支給が基本ですが、事情があれば自治体が代わりに先払いを認めることもあり、実際に活用した例もあります。
高島市も同じように、国から完了時に補助金およそ7億5000万円が交付される予定があるため、先払いである「概算払い」として、3億7000万円あまりを支払い、いったん、“肩代わり”をしました。
しかし、工事は予定通りには進まず、それどころか2023年3月の期限になってもほぼ更地のまま、4月には国の補助金が取り消され、事業は頓挫。これを受けて市は返還を求めましたが、6月の督促期限を過ぎてもなお、お金は返ってきませんでした。
結果的に、高島市が補助金を負担しただけになってしまい、イチゴ栽培は始まらず。市民から様々な声が‥‥
【高島市市民】
「国の事業になんで市が概算払いしたのか、不思議な話ですね」
「会社の経営状況や、財務状況をどのように分析して、調査をどこまでやって、こういう形で補助金を出す妥当性があるのか」
「市の責任者が責任を取るべき問題ですから、ここに来てもらって、何でこんなこと起こったのか聞くべきと思う」
これに対し高島市の福井市長は「地方自治法に基づき、そして補助金の交付規則に基づき、そして必要な書類を審査し、そして概算払いを執行した。私としては、瑕疵(かし)はないものと認識をしている」と話しました。
また、3年前には市の職員らが事業者の代表が持つ淡路島の「イチゴ農園」に見学に行くなど、実績については確認していたといいます。
その一方で返金がないことについては…
【高島市・福井正明市長】
「顧問弁護士の方で、訴状等が整理でき次第、必要な手続きを踏んでいただく。全力を挙げて、概算払いの回収に、市として努めてまいりたいと考えている」
訴訟にまで発展しそうな状況です。補助金を返さない事業者とはいったい…
■イチゴ農園を計画した事業者「風車」とは? 代表を知る人物に話を聞くと…
この事業のために設立されたのは、高島市内に事務所を構える、その名も株式会社「風車」。訪れてみると、そこはアパートでした。記者が電話をかけると、「こちらはNTTドコモです。おかけになった電話は電源が入っていないか、電波が届かない…」というアナウンスが。事務所には誰もおらず、電話もつながりませんでした。
近所の人によると、事務所に人の出入りはないものの、たまった郵便物は時々なくなっているそうです。
補助金3憶7000万円はどこに行ったのか、なぜ工事は間に合わなかったのか。取材を進めたところ、匿名を条件に、風車の代表を知る人物に話を聞くことができました。
【風車の代表を知る人】
「風車は、補助金を横浜市内の建設会社に支払い、手元にはありません。建設会社と補助金返還を含めたやり取りをしたいが、(建設会社の)社長も変わり、連絡は取れない状況にある」
関西テレビ取材班が建設会社に電話したところ、「電話番号は現在使われていない…」とのアナウンスが流れ、つながりませんでした。
「風車の代表を知る人物」によると、工事が間に合わなかった理由として、作業を始めると「土壌改良」という予想外の費用と工程が必要になったこと、作業員が新型コロナに集団感染したことなどが挙げられているということです。
風車は高島市に「事業を半年延長したい」と相談したものの、期限内に工事が終わらなかったことから、最終的に国からの補助金は取り消しとなり、現在の状況になっています。
■補助金取り消しも…現場では重機が動いている 市は把握しておらず
イチゴ農園が作られる予定だった現場に向かうと、補助金が取り消された現在も、重機が動いていました。
作業員によると、内容はコンクリートの囲いなどを作ること。ただ、最終的に何ができるのかについては分かっておらず、また発注元については明かせないとのことでした。
高島市に問い合わせるも、作業について把握しておらず。そもそも土地は地元住民のもので、市の所有地ではないということでした。そこで取材班は複数の地権者を探し出し、そのうちの一人から電話で話を聞くことができました。
【地権者】
「令和3年に、地元の農業委員の人が来られて、いちご園は高島市が進めている事業で、国の補助金も出るから安心して協力してほしいと説明を受けた。契約は20年契約で、借地料は去年、一度受け取りましたけど、この先の支払いがどうなるかは全く不明なままです。契約通り事業が行われないのであれば、田んぼを元の形にして返してほしいなと思っています。(Q. 市からや、風車から説明は?)何も連絡がない」
国の補助金が取り消されたものの、契約は残っていて、貸した土地がどうなるのか不安であると話しました。
■ついに「風車」代表を直撃 3億7000万円を返す意思はあるのか?
さらに取材を進めた結果、ついに、風車の代表に話を聞くことができました。
–Q:補助金を返す意思はありますか?
【風車代表】
「もちろんです。ひとえに事業が完成できなかったのは弊社にあり、手は尽くしたけど残念でしょうがない。返す意思があることは、市にも伝えていて、返済方法はいま協議をしている」
–Q:現在、予定地で行われている作業は?
【風車代表】
「イチゴ農園の建設です。返済するにも原資を作らないといけないので、自力で完成させられるように、色々なところから協力をいただき、やらしてもらっています」
高島市も認めたイチゴ計画はとん挫。果たして、予定地に農園はできるのか。宙に浮いた3億7000万円の行方はどうなるのでしょうか。
(関西テレビ「newsランナー」9月6日放送)