「放課後デイ」での死亡事故 共有したはずの安全対策は守られず 障害のある中1男子が川で溺死 車を降りて施設に入る“4mの距離”で 各施設が抱える課題 専門性の高い人員の不足も 2023年06月09日
障害のある子が通う放課後等デイサービス施設。学校の授業を終えた子供たちが通ってきます。
2022年12月に吹田市の施設である事故が起き、13歳の男の子が死亡しました。施設の安全をどう守るべきか、ツイセキしました。
■放課後デイで障害のある中1男子が事故死 施設の安全どう守る?
川べりに花を供えて、手を合わせる清水亜佳里さん。2022年12月、この場所で息子の悠生(はるき)さんが溺れて死亡しました。
「はるちゃん、お花とジュースを持ってきたよ」
事故現場に向かい、静かに話しかけます。
事故が起きた日もいつもと変わらない日でした。もうあの笑顔を見ることはできません。
【悠生さんの母・清水亜佳里さん】
「ここに来ると、子どもが溺れている姿を想像して悲しいですね。川の水はあの時冷たかったのかなとか、楽しく最初は入ったけど途中から苦しくなったのかなとか」
悠生さんは3歳の時に発達障害の一つである、自閉症と診断。障害のある子どもたちが学校の授業の後に利用する“放課後等デイサービス施設”に小学1年生の時から、通っていました。
2022年1月9日、吹田市にある放課後デイサービス「アルプスの森」で事故は起きました。
いつものように悠生さんは送迎車で「アルプスの森」に到着。車から降りて職員と一緒に施設に入るところでした。しかし悠生さんは突然、職員の手を振りほどき、走り出してしまったのです。車から入り口までわずか4メートルほどで起きた出来事でした。
職員は悠生さんの行方を見失いました。その後、川のそばで脱ぎ捨てられた悠生さんのジャンパーが見つかりました。警察などが捜索しましたが、一週間後に遺体で発見されました。
【悠生さんの母・清水亜佳里さん】
「見つかってよかった気持ちと自分の大事な大切に育ててきた子が全裸で発見されてそれが悲しくて、きっと何年たっても何十年たってもその悲しみが消えることはないと思います」
【悠生さんの父・清水悠路さん】
「仕事に行く前に『パパいってくるね、ばいばい、タッチ』ってやっていた。その日も普通にばいばいタッチしてまさかこんなことになるなんて夢にも思っていなかった」
■障害の特性は共有していたはずなのに…施設側が安全対策守らず
なぜ事故は起きてしまったのか…
清水さんと施設が話し合って決めた悠生さんの「支援計画書」には、「送迎車の乗り降り時に急な飛び出しが以前あった。送迎時、事故やケガがないよう腕をしっかり持つ」と書いていました。
【悠生さんの母・清水亜佳里さん】
「あの子は手をつないでいても手を放してしまうことが日常的に何回もあったので、その度に子どもに『ダメよ、バツよ』と言って教えてきましたけれど、なかなか障害のある子は習得が難しい」
悠生さんは衝動的に動くことがあったため、施設と悠生さんの障害の特性を共有し、送迎の際には2人の職員で対応すると決めていました。しかし、吹田市の調査によると事故当日は職員1人で対応していたことが発覚。その職員は「1人でできると思った」と話していました。
車を降りてから入り口まで4メートル。そのわずかな距離ですら、安全対策が守られておらず、さらに過去に何度も職員1人で対応していたことも明らかになりました。
【悠生さんの母・清水亜佳里さん】
「6年間ずっと予測してきたことで、そのための対策が2人(の職員での対応)だったのに、結局それがずさんに何回も1人でされて、たったあの短い距離で子どもの命を失ってしまった」
会話が苦手だった悠生さん。両親とはいつも手作りのカードでやり取りをしていました。すると徐々に笑顔も増え、意思疎通ができるように。成長を感じ始めた矢先に起きた突然の死でした。
【悠生さんの父・清水悠路さん】
「甘えることがあまりなかった。きゅっと唇をつまんで甘えることをしない子だった」
【悠生さんの母・清水亜佳里さん】
「状況が分からなかった。話している言葉が分からない。でも最近は簡単な言葉は分かってくれていて、『ティッシュ取って』とか『電気つけて』とか。私たちはようやくここまできたなって。ようやくやり取りをできるようになって、あの子も甘えるようになった。そこまで来るのにすごく苦労だったのに、命が消えてなくなったというのが悔しくて悲しい」
なぜ事故は起きてしまったのか。施設に取材をすると…
【アルプスの森 施設長】
「ご家族にもつらい思いをさせてしまい、大変申し訳なく思っています。しかし詳細についてはコメントできません」
この事故を受け、吹田市は「重大な過失があった」として、新規利用者の受け入れを3カ月停止する処分を下しました。
いま、放課後デイサービスは増加の一途をたどっています。2012年に制度ができてから施設に通う子どもの数も年々増加し、今では利用者が30万人を超え、事業所の数も1万9000カ所に上っています。
しかし、悠生さんの事故をはじめ、管理不足による事故は後を絶たないのが現状です。
■デイサービス利用する家族の複雑な思い「社会から隔絶するわけにはいかない」
こうした状況に複雑な思いを持つ家庭も少なくありません。大阪府内に住む木下さん(仮名)一家。
自閉症がある長男の颯太さん(仮名)は放課後デイサービスに通っています。小学生の頃は学童保育に通っていましたが、突発的に人の体を押してしまう恐れもあり、障害者ケアに特化した放課後デイサービスを利用するようになりました。
当初、不安がありましたが、それでも施設に通わせるのには理由がありました。
【颯太さんの父・和夫さん(仮名)】
「生活していく上では子どもに付いて部屋の中で閉じこもれば安全ですけど子どもの成長を促していくということがあります。リスクはあると思います。ただ社会から隔絶するわけにはいかないので、葛藤はありますけど、しっかりと『特性がどうだからこうしてほしい』というのは放課後デイには守ってもらって、信頼関係を築いていくしかないのかなと」
■放課後デイでの事故どう防ぐ? 専門性のある人員確保と質の向上
では、施設での事故はどうすれば防げるのか…大阪市平野区にある放課後デイサービス「CUDDLE(かどる)」では事故がないよう、乗り降りは2人体制で対応しています。
【放課後等デイサービス「CUDDLE」の職員】
「衝動性がある子どもの場合は、運転手が扉を開ける前に(施設の入り口の)ドアを開けて、先にここまで誘導する。添乗員もいますし運転手もいて2人体制で壁を作れるのでそのへんは意識していますね」
国が定めた人員基準は子ども10人に対し職員は2人以上ですが、この施設では子ども1人に対しできるだけ担当の職員を1人確保するようにしています。しかし、専門性が必要な仕事だからこそ人員確保は大きな課題だと言います。
【放課後等デイサービス「CUDDLE」職員】
「しっかりした資格者を経験者を(確保する)となるとなおさら難しいですし、かといって誰でもいいというのも難しいですし…。人員に関しては本当に大きな課題。資格がないと駄目っていうわけではないですが、専門性や知識があると引き出しもたくさん持っているので、しっかり勉強してくれているので、そういった点でも(対応が)違ってくるのかなと思いますね」
悠生さんの事故が起きた時、施設内には7人の子どもと3人の職員がいて、国の人員基準は満たしていたものの、事故は起きてしまいました。
特別支援教育の専門家は「安全な施設にするには、人員確保と支援の質、どちらも大切だ」と話します。
【立命館大学産業社会学部 黒田学教授】
「国としては今の状態をすぐにでも改善して、児童10人に対し6人以上の基準にしてもらう、あるいは基本報酬についても引き上げていく(ことが必要)。そういった基本的な条件があってこそ余裕も生まれてくると思うんですが。本当にギリギリかつかつで対応していたら、できるだけ面倒なことはやめておこうとか、言い方は悪いですが、この子はこういう行動の特性だけど縛り付けておけば楽だとか、易きに流れる」
■「施設側は納得いく説明を」説明会の開催求め署名活動行う日々
あの日、悠生さんに何があったのか…今も施設から納得のいく説明はありません。
母・亜佳里さんは月に何度も悠生さんが亡くなった場所に足を運び、道行く人に声をかけます。
「去年12月ここで子どもが入ってしまう事故があったのを知っていますか」
こう語りかけ、施設に説明会を求める署名活動に協力してもらっています。
【悠生さんの母・清水亜佳里さん】
「本当は施設に子どもを生きて返してほしい。それがもうできないんだから、施設側は後、何ができるかって言ったら真摯に子どもの命に向き合って対応してほしい。それしかないです」
子どもの居場所、放課後デイサービス。どうすれば安全を守れるのでしょうか。6月9日で事故から半年となります。
(関西テレビ「newsランナー」6月8日放送)