密を避けられるレジャー、釣り。
新型コロナウイルスの影響でさらに人気が高まっていて、釣り場には、子どもから大人まで多くの人が集まります。
中でも、渡船(渡し船)で行く防波堤での釣りは、ファンから根強い人気を誇っています。
【釣り人は…】
「ほとんど毎週(防波堤に)来る。陸地からでも釣れんことはないよ。でもあんまりたくさんは釣れない。防波堤なら釣れる種類も多いし、ブリとかも釣れる」
■多くの釣り人でにぎわった神戸港が閑散…なぜ?
今、この防波堤での釣りを巡って、神戸市でトラブルが起きています。
神戸港の沖合に浮かぶ10以上の防波堤には、これまで多くの釣り人が集まってきました。
しかし今、そこに釣り人の姿はありません。
およそ30年もの間、神戸で渡船業を営んできた本木さんに、話を聞きました。
――Q:今、船は?
【神戸渡船 本木昌征さん】
「使ってないですね、今は全く使ってないです」
今、本木さんたち神戸の渡船業者は、半年近く休業を余儀なくされているといいます。
そのきっかけは、2021年10月に神戸市から届いた一通の文書でした。
<神戸市の通知文書>
「防波堤へ侵入した場合は、拘留または科料に処される」
許可なく釣り人が防波堤に立ち入った場合、渡船業者にも刑事責任を問うというもの。
この突然の対応に怒っているのが、同じく渡船業を営んできた神島さんです。
【松村渡船 神島晃一さん】
「50年近く僕たちが渡船業やってるの知ってた上で突然の通知なんで。正直なところ言葉選ばなければ『どうなの』っていう。こちらも仕事にしてますので」
【本木さん】
「本当だったら今からがお客さん多い時期ですね。週末でいうと100人前後くらいですね」
――Q:今、収入は?
「収入はゼロですね」
年間5万人ほどが利用し、長年釣り人に愛されてきた神戸港の渡船。
神戸市はなぜ、禁止にしたのでしょうか。
【神戸市 神戸港管理事務所 喜多俊文所長】
「昭和48年に条例が改正になった。それ以来、条例上は立ち入りができない施設になっている」
実は、神戸市の条例では、防波堤への立ち入りは昔から禁止だったというのです。
条例に従ってもらうよう、改めて通知しただけだと説明する神戸市。
しかし、渡船業者には納得できない理由があります。
【神島さん】
「納得してないですね。僕たちが渡船やっているのは神戸市も知ってましたし、本当に禁止であればもっと前から色々やられてるはずだと思います」
【本木さん】
「(市から禁止だと言われたことは)全くないですね。黙認されていた形ですね」
これまで神戸市が黙認していたから、仕事を続けてきたという渡船業者。
かつては市と協力することすらあったというのです。
【神島さん】
「市だけではちょっと港を管理しきれないから、僕らみたいな港で仕事してる人間が一部管理しつつその場所を借りつつ、みたいな。持ちつ持たれつの相互理解があったと思っている。それが急になくなっちゃったなという感じがします」
この主張に対し、神戸市は…
【神戸市 神戸港管理事務所 喜多俊文所長】
「(防波堤での)釣りの現場を見たときには、市の職員は注意はしていたと思うんですけど。受ける側(渡船業者)からすると唐突と言われるのはそうかもしれませんけど、どこかで線を引かなければならないので」
判断の唐突さは認めつつ、あくまで防波堤釣りは禁止してきたと業者を突き放す神戸市の強い姿勢の背景には、安全面での強い懸念があります。
海上保安庁によると、全国で毎年100人ほどが、釣り中の事故で死亡、または行方不明になっています。
神戸市でも事故につながる危険行為を確認していて、見過ごすことはできないと考え、通知を出したのです。
【本木さん】
「安全基準がこれっていうのは実際には決まってない。話し合って基準を決められたらいいと思うんですけど」
■自治体ごとに異なる対応 大阪市では
一方、同じ大阪湾にある大阪港の防波堤には、今も多くの釣り人が。そのわけは…
【記者リポート】
「大阪市が設置しているこちらの青いボックスには、浮き輪や縄ばしごなど救命具が入っています」
大阪市の夢洲では、2007年に釣り人の死亡事故が発生。
それをきっかけに、防波堤での釣りの全面禁止も検討しましたが、市民からの要望を受けて、安全対策をした上で、一部エリアで釣りを認めています。
【釣り人は…】
「非常にいい遊びだと思います。行政にもある程度理解してもらって、今後も楽しく釣りができればと思いますね」
大阪の渡船業者は…
【ヤザワ渡船 矢澤明さん】
「大阪市の港湾局とも年に3回、4回も会合を開いて。安全対策は完璧やと思ってます」
――Q:行政とのコミュニケーションは?
「当然うまくいっております」
行政と渡船業者がコミュニケーションを取ることで、釣り人の居場所が守られた大阪港。
神戸でも、大阪港のように、なんとか防波堤での釣りを再開させたい。
本木さんや神島さんは立ち入り禁止の解除に向けて、市内の釣具店に署名への協力を求め始めました。
■浮き輪やはしごでは不十分…神戸市が求める安全対策には数億の費用が
【神島さん】
「救命浮環(浮き輪)、タラップ、縄ばしごは、必要に応じて付けるべきだと思う。今後神戸市と協議して、安全対策として求められるなら準備するつもりです」
しかし神戸市は、釣りを安全なものにするには、浮き輪やはしごだけでは不十分だと切り捨てます。
【神戸市担当者】
「我々が考えるのは、防波堤の上に柵とかの施設を作るということ。陸上の工事とは(費用で)桁が違ってくるのではと」
転落防止のためには柵が必要で、数億円とされる工事費は工面できそうにないというのです。
再開への道筋は、いまだ見えません。
【神島さん】
「安全面の確保は絶対必要。ルールをしっかり作って安全に安心に正常に運行できるのがベストなので、それは目指したいところですよね」
神戸の防波堤での釣りは、このままできなくなってしまうのか。
行政と渡船業者の溝は深そうです。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年5月26日放送)