
国有地8億円値引きの謎 音声データを独自入手 2017年08月01日
森友学園の補助金詐欺事件の発端は、国有地が森友学園に大幅に安く払い下げられたことでした。
評価額およそ9億6000万円の国有地が、1億3400万円と8億円以上「値引き」されていたのです。
なぜこの価格になったのか?その謎を解くカギが、関西テレビが入手した音声データにありました。
【音声データ】
国側「国の方にまあ、瑕疵があると」
諄子容疑者「工期遅れたことに対する損害賠償もする!」
籠池容疑者「1億3000万円が云々いうものよりも、ぐーんと下げていかなあかんよ」
この音声は、国有地の鑑定価格が出る前、去年3月から5月にかけて行われた近畿財務局と森友学園側の交渉を録音したものです。
音声データに残されていた「8億円値引きの新たな事実」とは?
ことし2月。
学校法人・森友学園の国有地に関する問題が明らかになりました。
鑑定価格9億6000万円の国有地を8億円以上「値引き」し、国は1億3400万円で森友学園に売却。
なぜ「8億円」も値引きされたのか?
関西テレビの取材に対し、籠池泰典(本名康博)容疑者(64)は「財務省の近畿財務局側が突然提示してきた」と話していました。
【籠池容疑者】
「決して我々の方から(希望)金額の提示なんかしてないから。いま知ったのが初めて。8億とか9億とか…」
Q.それはもう提示された額がそもそも1億3000万円?
「そう。そうです、そうです」
財務省が値引き額を「8億円」と算出した根拠は、この土地に埋まっていた「ゴミを撤去する費用」でした。
【佐川理財局長(当時)・ことし2月】
「今後さらに深い部分でどんな埋設物が出てくるのか、分からない。工事を早く進めないといけないと話がありまして、国の責任を免除するという特約も勘案しながら、必要となる撤去費用を見積もりましょうという考え方をまとめまして、大阪航空局において工事算定基準に基づきまして、積算・算定したのが8億円という経緯」
【麻生財務相・ことし2月】
「なんとなく聞いていたら、我々政治家が不当な介入があったかのごとく話を持って行きたいように聞こえますが、そういったことはありません」
「値引き」の正当性を主張する国側。
しかし「撤去に8億円もかからない」という指摘や、8億円という額の算出方法に対する不透明な点など、発覚から5か月が経った今も「謎」は残されたままです。
そんな「疑惑の取引」について、ことし3月に行われた国会の証人喚問に籠池容疑者が出席し、次のように答弁しました。
【証人喚問・ことし3月】
宮本岳志・衆院議員「生活ゴミ出てきてから(財務省が)前向きになったとおっしゃいました。どういう力が働いたとお感じになりますか?」
籠池容疑者「私はその時は神風が吹いたかなと思ったということですから、何らかの見えない力が動いたのかな、と思いました」
「神風」と「見えない力」。
8億円もの値引きが実現した理由として、ある人物が取り沙汰されます。
安倍総理の妻・昭恵夫人です。
昭恵夫人は、この国有地に建設される小学校の名誉校長に就任する予定でした。
その昭恵夫人から100万円の寄付を受けたと籠池容疑者が主張したことから、「8億円の値引き」には安倍総理に対する何らかの「忖度」があったのではないかと、ささやかれ始めたのです。
これまでに、昭恵夫人が財務省にまで影響力があったことをうかがわせる音声データも明らかになっています。
【過去の音声データ】
財務省・田村国有財産審理室長「タムラです「籠池でございます」
籠池容疑者「どういう内容かご存知ですかね?」
財務省・田村国有財産審理室長「報告は受けています。もともとこの件の経緯がですね、もう貸し付けをすることが(下)特例(左)(右)だったものですから」
【ことし4月】
辻元清美議員「昭恵夫人から『財務省に聞いてあげるわ』ということはなかった?」
籠池容疑者「なぜ財務省が突然態度を変えてくれたのか私には知る由もありませんが、あの録音データの中で田村室長がいう(下)特例(左)(右)というのはこのことを指していたのではないかというふうに考えております」
8億円の「値引き」に昭恵夫人の影響があったことを示唆する籠池容疑者。
しかし、関西テレビが入手した音声データを分析してみると、8億円が値引きされた経緯について、別の可能性が浮かび上がってきました。
これまでに分かっている国有地をめぐる出来事と、関西テレビが入手した音声データのやりとりからわかった内容を時系列でまとめます。
地中から値引きの根拠とされるゴミが出たのは去年の3月11日。
およそ1か月後の4月14日に、国側は「ゴミの撤去費用」を8億2千万円と算出します。
さらにその翌月の5月31日、国側が依頼した不動産鑑定士が、国有地の鑑定価格を9億6千万円と査定し、6月20日、籠池容疑者が国有地を1億3400万円で購入する契約が成立しました。
これから聞いてもらう音声データは、去年5月中旬から下旬の間に行われた国側と籠池容疑者側とのやりとりです。
ここに、たびたび登場する1人の人物がいます。
【音声データ】
籠池容疑者「あのね、イケダさんはそんなことなかったんやと思うけどね」
諄子容疑者「それはイケダさんの…基準の中でのことじゃないですか」
イケダ氏「合致する金額をご提示したいと思っているだけです」
「イケダ」と呼ばれる男性。
これまで籠池容疑者側と国有地売買の交渉を続けてきた、近畿財務局の池田靖前国有財産統括官とみられます。
【ことし2月】
池田靖・国有財産統括官(当時)
「資料の一番最後の写真をご覧いただきましたらわかりますように…」
関西テレビが音声データの声紋鑑定を専門の研究所に依頼したところ、「池田前統括官と同一人物の可能性が大きい」という結果が得られました。
この日の交渉は池田前統括官の説明から始まります。
【音声データ】
池田靖・国有財産統括官(当時)
「できるだけ早く価格提示をさせていただいて…、ちょっとずつ土壌も処分しているけど、ある前提で全部、想定の撤去費を評価から控除する。
で、金額を提示させて頂くということなんです。
ですので、そこそこの撤去費を見込んで、価格計上をさせてもらおうと思ったんですよ。
だから我々の見込んでいる金額よりも(撤去費が)少なくても、我々は何も言わない」
会話の中身から、籠池容疑者と国側の国有地をめぐる「値下げ交渉」であることがわかります。
池田靖・国有財産統括官(当時)
「理事長が仰られる「0円に近い」というのがどういうふうにお考えになられているのか、売り払い価格が0円ということなのかなとは思うんですけど、私ども、以前から申し上げているのは“有益費”の1億3000万円という数字を国費として払っているので」
諄子容疑者「それは当たり前やん」
池田靖・国有財産統括官(当時)
「その分の金額ぐらいは少なくとも売り払い価格は出てくる、と。そこは何とかご理解いただきたい」
国側が提示した「有益費」とは?
国有地の地中には以前からゴミや有害物質があることがわかっていて、おととしまでに籠池容疑者側が工事を行い土壌を改良したのですが、その工事にかかった費用1億3000万円を「有益費」と呼んでいます。
この「有益費」は一時的に籠池容疑者側が建て替え、のちに国が負担しています。
「『有益費』を下回ることができない」と提示した池田前統括官。
これに対し、「国有地の価格を値切ったことはない」と取材に答えていた籠池容疑者が、国側に「値下げ」を要求したのです。
【音声データ】
籠池容疑者
「(池田氏が)言っているような『1億3000が云々』というものよりもぐーんと下げていかなあかんよ」
池田靖・国有財産統括官(当時)
「売却価格は、『有益費』で立て替えて頂いたんですけども、国でお支払いした金額、この部分よりもさらに低くなるのは、ちょっと無理…。 理事長がおっしゃる0円に近い金額まで、私はできるだけ努力する作業を今やっています。だけど、1億3000万円を下回る金額にはなりません」
この音声が記録されたのは、土地の鑑定価格が出る、1週間ほど前。
にもかかわらず、国が支払った「有益費」1億3000万円と同額程度という“答えありき”で、売買交渉が行われていたことがうかがえます。
これは、これまでの財務省の説明と矛盾します。
【衆院財務金融委・ことし3月15日】
民進党・初鹿明博議員
「買い取りを受けるにあたって、いくらなら買えるというような森友学園側からの指示のようなことはありましたか?」
佐川寿宣理財局長(当時)
「そういう価格につきまして、こちらから提示したこともございませんし、先方からいくらで買いたいといった希望があったこともございません」
当時の佐川理財局長は、価格を提示したことも、希望を伝えられたこともないと明言していましたが音声データでは、1億3000万円という具体的な価格が飛び交っていました。
さらに、この交渉からさかのぼること、2ヵ月―――
校舎の建設を始めるべく行った杭打ち工事の地中から、新たに生活ごみが見つかりました。
国側が学園側に隠して、建設工事に影響の出ない生活ごみを「埋め戻し」ていたことが籠池容疑者側に伝わったのも、この頃。
怒った籠池容疑者側は数日後、近畿財務局と協議を行いますが、この時の記録から「新たな事実」が見つかります。
【音声データ】
池田靖・国有財産統括官(当時)
「まず一点、お詫びの点は、ですね、地下埋設物の撤去工事に関しては、きちっと、森友学園理事長・副園長に情報が伝わっていなかった点は、我々も反省点としてありまして。
今後の対応については大阪航空局さんからご説明いただこうと思ってます」
籠池容疑者
「それっていうのは、すごくね、きれい事すぎてね。原因があったからこういうことになっている。原因があったから、こないなってるわけや。
原因がなかったらこういうことにならへんねん。
結果がこないでしたからこうしましょうという問題じゃないわけですよ」
池田靖・国有財産統括官(当時)
「きちっと踏まえながら、今後の対応をどうするかということをご相談させていただきたいんですけれども」
籠池容疑者
「反省してるの!?反省していないんだったら『私はそんなつもりじゃありませんでしたから』で終わっちゃうんだけど?
民間企業なら頭下げて『申し訳ございませんでした』って言うやつよ!」
池田靖・国有財産統括官(当時)
「打ち合わせの話を、私どもの方からきちっと理事長に伝えておくべきだったかなという点で反省はしています」
撤去したはずのゴミが地中から見つかったことで、強気に出る籠池容疑者。
すると、ゴミが出てきた責任が自分たちにあることを、国側が認めたのです。
【音声データ】
大阪航空局
「今回でてきた産業廃棄物というものは、国の方に『瑕疵』があるということが判断されますので、その撤去については国の方でやりたいなと思っておりまして、そのあたり、いま施工業者さん、お入りになってますけれども、我々の方が直接その話をさせていただいてもいいものかどうかを、きょう、理事長のご承認・ご了解をいただければなと思って参った次第」
この「国側が落ち度を認めたこと」をきっかけに、売買交渉は籠池容疑者側のペースで進んでいくようになります。
後日の音声からは、学園側の代理人弁護士が国側にあてた「強気の通達」も確認されました。
【音声データ】
学園側の代理人弁護士
「土地の価値の減価で(瑕疵を)吸収しようと思うなら、それなりに評価、裁量があると思うので、こちらに寄った裁量の範囲内で、こちらに寄った判断をしてもらわないと、お2人(籠池夫妻)は納得できない」
結局、土地の売買は、国が支払った土壌改良のための有益費1億3000万円とほぼ同額を回収するだけの結果に…。
ゴミの撤去費用として算出したおよそ8億円は、帳尻合わせだった疑いが出てきたのです。
国側は今も、ゴミの撤去費用の算出はどのように行われたのか、透明性のある説明はできていません。
関西テレビは、ゴミの撤去費用を算出した国交省の大阪航空局にその根拠となる資料を情報公開請求しました。
関連資料は77枚存在し、開示された資料の中に、8億円の値下げにつながるゴミが存在していたことを証明する資料はありませんでした。
そして77枚のうち62枚が捜査に支障を及ぼす恐れがあるとして開示されませんでした。
関西テレビは、この撤去費用による帳尻合わせの疑惑について聞くため、池田前国有財産統括官を直接取材しました!
記者「森友学園に売却された価格は、有益費の1億3000万円を…」
発覚から5か月が経過した今でも「謎」とされている森友学園に対する国有地の売却問題。
関西テレビが独自に手に入れた音声データからは8億円の値引きは“答えありき”、国が支払った土壌改良のための有益費を回収するための帳尻合わせだった疑いが浮上しました。
これまでの説明と食い違う疑惑の発覚について、交渉にあたっていた近畿財務局の池田前国有財産統括官を直接取材しました。
【近畿財務局・池田靖国有財産統括官(当時)】
Q.ひとつお伺いしたいことがあるんですが、ここでいいですか?
1億3000万円の売却価格…
「お答えはできません」
Q.お答えができないのはなぜですか?
「・・・」
Q.森友学園に売却された価格は、有益費の1億3000万円、この価格を回収するための金額だったのではないんですか?
「お答えはできません」
Q.そういうことですよね?
「お答えできません」
Q.ゴミの撤去費用8億円というのは、
1億3000万円(で売却するため)のつじつまを合わせるために算出された数字ではないんですか?
「国会でお答えしていますので、それ以上は私個人的にはお答えできないので」
池田前国有財産統括官は、疑惑について答えることはありませんでした。
きょう、麻生財務大臣にも、疑惑について聞きました。
Q.森友の国有地売却問題をめぐって、具体的な金額を出して協議してきたことが取材で分かってきています。
財務省の国会答弁と異なってきますが、どのようにお考えですか?
【麻生財務相】「取材が正しいか、我々の答弁が正しいか、取材が正しいと思ったことはありません。
私は自分の部下の話を信じてます。
籠池さんは逮捕されたんでしょ?違うの?
逮捕された人に先に話を聞いて、こちらがどうのこうの言うことはありません」
大阪地検特捜部も、この音声データの存在を把握しています。
告発状が出されている近畿財務局職員の「背任」の疑いについても、慎重に捜査を行っています。