自分の故郷や応援したい自治体に寄付ができる制度として2008年に始まった「ふるさと納税」。規模は年々大きくなっていて、昨年度のふるさと納税による寄付額は8302億円と、2年連続で過去最高を更新(総務省調べ)。すっかり定着しています。
そんな中、関西のある町では、かなり変わった形のふるさと納税をスタート。その裏側を取材しました。
■飛行機で寄付…狙うは認知度UP
盛り上がる「ふるさと納税」。兵庫県丹波篠山市では篠山城の大書院を貸し切り、殿様体験が味わえる返礼品が評判です。
他にも、群馬県の北東部に位置する川場村では1日村長体験ができ、石川県穴水町では、のと鉄道の運転体験ができるなど、どの返礼品も地方の特性を生かしたものばかり。
京都府北部、日本海に面した町・京丹後市。ふるさと納税で日本初の変わった取り組みを行い、話題となっています。
京丹後市のふるさと納税を担当している檜秀憲さん。元々、大阪府泉佐野市の職員で、人材交流の一環でこの町に派遣されました。檜さんが仕掛けた日本初の取り組みとは…。
京丹後市 ふるさと応援推進室 檜さん:
「昨年11月から、ピーチの機内からふるさと納税ができるサービスを開始しました」
LCC・ピーチで始まった、京丹後市の「機内ふるさと納税」。日本初の取り組みで、国内全31路線に導入されています。
旬の野菜や干物など、京丹後市の特産品20種類の返礼品を取り揃えています。始まって3カ月で、すでに多くの寄付が寄せられ話題に。一体なぜ始めたのでしょうか。
京丹後市 檜さん:
「実は京丹後市、観光に来られる方の9割ぐらいが近畿圏の方なんですね。首都圏とか遠方の方はなかなか来られていないというところがありまして、ふるさと納税を寄付いただくことに加えて、観光パンフレットの代わりじゃないですけど、観光としての魅力も発信できる。帰りの飛行機とかで『次はどこ行こうかな』って考えていたりするんですよね。そういった旅のマインドが高い機内で町のものを知っていただいて、次はじゃあ京丹後市に来てみようかなって、そういうような流れを作りたいんです」
京丹後市は「東京から一番遠い町」と言われています。全国的な認知度も低いため、機内ふるさと納税を通じてまずは町の存在を知ってもらいたい…と、ピーチに依頼しました。プロジェクトを一緒に立ち上げたのが、ピーチの小笹俊太郎さんです。
Peach ブランド企画部 小笹さん:
「正直、社内では9割ぐらいは反対してたんじゃないかなと思います。それでも、そもそも安い運賃で移動ができるっていうのは存在そのものが地方創生に寄与しているんじゃないかなと思っていまして、プロデュース的なビジネスというか、そういうことも可能性としてはあるんじゃないかなと思いながらチャレンジしているというようなところです」
ピーチとの連携もあり、京丹後市の今年度の寄付額は16億円を見込んでいます。なんと前年の1.6倍。この評判を聞きつけてか、1月27日、機内ふるさと納税のサービスに、愛知県小牧市を始め、4つの自治体が新たに加わりました。
■“空気感”も届ける…航空会社と現地視察
とはいえ、返礼品にも魅力がないと需要はありません。実は京丹後市のふるさと納税には、ある秘密が…。
2月初旬、京丹後市で待ち合わせた檜さんと小笹さんが向かった先は、創業32年、日本海で獲れた鮮魚を扱う『橘商店』。ふるさと納税の返礼品でもある干物が自慢の店です。
店の吉岡さんに話しかけながら動画を撮影する小笹さん。編集し、返礼品に同封しているのです。「動画を通して町の空気感や人柄が伝われば、足を運んでもらえるきっかけになるのでは」と考えているからです。
京丹後市 檜さん:
「僕、本当に京丹後市が大好きなんですよ、食べ物もそうですし、自然も人も、魅力が本当に詰まっているなと思っていて。この町を好きっていう気持ちを含めて魅力を発信したいなと思っていますね」
橘商店 吉岡高博さん:
「やっぱりありがたいなと思いますね。地域にいたら分からないことが、よそから来た人だったら『これって本当に魅力だよね』っていうところを指摘してくれるんで」
京丹後市 檜さん:
「単なる寄付者と自治体の関係じゃなくて、それ以上の関係になりたいなと思っていて、それがまさに、ふるさと納税を通じた地方創生のあるべき形だと思っています」
■新たな旅プランも発案「日本刀をつくる」
京丹後市の取り組みは、これだけでは終わりません。
京丹後市 檜さん:
「日本刀を作られている刀鍛冶の皆さんがいまして、そこの鍛冶場に案内しようと思っています。機内ふるさと納税などで知っていただいた人たちに今度は実際に来てもらうためのプランを今作っています」
高速バスを運営する「ウィラー」を加えた3者で、京丹後市の魅力が詰まった旅プランを去年12月からスタート。檜さんは、伝統工芸の体験を目玉にしようと考えています。刀作り体験が出来る工房もツアー先の候補。ピーチの小笹さんを連れて、視察に訪れたのです。
ここの日本刀、実は京丹後市のふるさと納税でも扱っています。寄付額は550万円かかるものの、すでに2件の申し込みがあったそうです。さらに檜さんには、ある目論見が…。
京丹後市 檜さん:
「この日本刀を機内のふるさと納税にも出せないかなと思っていて」
Peach 小笹さん:
「いいんじゃないですか。興味持たれる方がたくさんいらっしゃると思うんで大賛成です」
日本玄承社 刀鍛冶 黒本知輝さん:
「めっちゃうれしいなと思います。自分たちの活動に興味を持ってもらえて、それを色んな人に話したりとか、連れて来てもらったりとかという部分は、感謝しかないですね」
■“健康長寿の町”を朝食で体感
日本海に面した宿「とト屋」でも、京丹後市ならではの体験が…。
京丹後市 檜さん:
「京丹後市が100歳以上の方が全国平均の3倍以上いる長寿の町ですので、その長寿を支えているのが食文化などです」
健康長寿の町として知られている京丹後市。体に優しい食材を使った朝食メニューで、町の魅力を知ってもらおうというプランです。
地元ではない人と一緒に協力して町をPRしていく取り組みについて、宿の女将さんに感想を聞いてみると…。
海辺のうまし宿とト屋 女将・池田香代子さん:
「京丹後のことは私たちがやる。そしてそこに行政の方が応援してくれる、そしてまたお客さんを世界中から呼び込んでくださるピーチさん。本当に大勢の人が関われば関わるほど素晴らしいものができると思っているので、そういう内容をこれから私たちが作っていかないと連携もしてもらえないですよね」
京丹後市 檜さん:
「今回ピーチさんに入っていただいてPRもしていただいてますけども、今後は地域が自走して主体的に取り組んでいかなければならないと思いますし、今後さらに磨きをかけて、地域自ら様々なコンテンツを出していけるように、地方創生を目指していきたいなと思います」
(関西テレビ2月14日放送『報道ランナー』内「ヒットにワケあり!オカネのヒミツ」より)