11月30日は「絵本の日」。出版不況や少子化の中でも、絵本は推定販売額が300億円を突破するなど、堅調に推移しています(出版科学研究所調べ)。
なぜ、絵本が売り上げを伸ばしているのか。書店の新たなチャレンジを取材しました。
■絵本市場支える懐かしのロングセラー
取材に向かったのは、大阪市の茶屋町にある「MARUZEN&ジュンク堂書店」。書店業界のトップランナーです。
絵本はロングセラーが市場を支えているというのが定説。売上ランキングで常にトップ10入りしている1982年発売の「きんぎょがにげた」や、日本で一番売れている絵本と言われる1967年発売の「いないいないばあ」など、今でも目立つところに1900年代に発売されたものが数多く並んでいて、人気は根強いようです。
そんな絵本が今、大人にも人気だそうで…。
女性客:
「小さい時に読んでて、その時のことも思い出しながら読めたりするので、懐かしい気持ちと一緒に、また新鮮な思いで読めるなと思いました」
男性客:
「子どもの頃見てた絵本を今もう一回見てみると、ちょっと違った見え方がして、すごく癒やされますね」
最近では、これまでにない切り口と発想で大人までをも魅了するヒットメーカー・ヨシタケシンスケさんなど、新進気鋭の作家たちが絵本市場を押し上げているようです。
取材中も根強いヨシタケファンが…。
女性客:
「絵がすごくシンプルだけど、心にスッと入ってくるような」
今や絵本は、子どもだけのものではなくなっているようです。
■イマドキ絵本に大人がハマるワケ
そんな絵本販売の新たな一手として、今年6月、関西初出店したのが「EHONS UMEDA」。児童書コーナーから独立した、MARUZEN&ジュンク堂書店が手掛ける新しいビジネススタイルです。
「絵本の世界を楽しむことができる空間」をコンセプトに、主人公たちやストーリーをモチーフにした絵本のグッズを数多く取り揃えています。
絵本の1コマがそのまま飛び出したようなグッズづくりにこだわっているそうで、思わず「どのシーンだったっけ?」と絵本を開いて確認したくなってしまいます。
EHONS UMEDA 売場担当 和泉杏奈さん:
「かつて、お子様時代に読まれていた方が、懐かしいと手にとってくださる方が多いですね」
この店はターゲットを「一度絵本から離れた大人」に設定。メモ帳や便箋、マスキングテープ、マルチケースなど、大人でも普段使いしやすく実用性が高いオリジナルグッズを出すよう意識しているそうです。
女性客:
「(グッズは)絵本を超えて身近に感じられるっていうか、世界観が広がるかなと」
別の女性客:
「グッズ持っていたら、みんなに可愛いって言われたりもします。結構小っちゃいころ読んでる本ってみんな一緒だったりするんで」
EHONSができたことで梅田店では客層に変化が…。
MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店 中山重徳店長:
「児童書は、今までお子様連れと学校の先生方がメインだったんですけど、このEHONSのグッズを目的に来られる方が多くなり、ご夫婦や男性1人の方とかも結構いらっしゃって、今までと違う方々も足を運んでいただけるようになったと思っております」
■登場キャラをグッズ化し客を絵本の売り場へ
早くも効果を感じているそうですが、国内で書店が絵本のグッズ作るのはまだまだ珍しいようで…。
薄田ジュリアキャスター:
「グッズ開発本部がある東京にやってきました。なぜ書店が絵本のグッズ化に乗り出したのか、これから取材してきます」
向かったのは東京駅目の前の一等地。EHONS商品開発のキーマンとなる3人が集結していた丸善 丸の内本店です。
まずはEHONS発案者の篠田店長にきっかけを伺うと…。
丸善 丸の内本店 篠田晃典店長:
「やっぱり本を売りたいんですよね、最終的に。だけどやっぱりその形を変えていかないと本売れないなって言うのをずっと思ってて。今まで書店って立地が良くて、大きい規模で、これだけ在庫揃えてるんで、お客さんどんどん来てねっていうやり方だったんですけど、それがコロナで半分以下になっちゃったんですね。もう数千人レベルでお客さんが毎日いなくなるわけです、来ないんです」
電子書籍やネットショッピングの台頭、さらにコロナ直撃…。そんな苦境に立たされた書店が注目したのが絵本のファンです。
篠田店長:
「絵本の中にいるキャラクターにファンがいるんですよね。わざわざ全国から買いにくるんです。ファンを掴んでいかないと(書店は)もう世の中から取り残されちゃう」
EHONS 商品開発担当 兼森理恵さん:
「少子化が進んでいる中で、どういうふうに本を売っていくかっていうのは常に課題で。どこに向けていくかっていうと、『一旦絵本とさようならした世代』。で、もう1度帰ってきてもらうための入り口として、グッズを使えないかなと」
グッズを目当てに書店に来るファンを増やし、一緒に絵本も手に取ってもらう事で、売り上げにつなげたいという狙いでした。そのために、切り取るシーンにもこだわったという一例が『ドン・ウッサ ますきんぐテープ』(495円)。
兼森さん:
「マスキングテープなんですけど。4コマになってて、本のカバーの袖のところの4コマがすごく可愛かったので、何かにできないかなと思って、横つなぎにしてマステにしたんですね。本編は読んでいても、実は見逃してる人がいるかもしれないし、やっぱり(絵本を)見てねっていう気持ちでグッズを作っています」
EHONS 物流・仕入・商品開発責任者 竹内章友さん:
「実際商品にしてみて、印刷の色は(出版社の)厳しいチェックが入ります。作者さんのこだわりがあるので。そこに妥協は無いです」
兼森さん:
「何回も『原画の色に近づけてください』と合言葉のように返ってきますよね」
竹内さん:
「最後はもう本当に肉眼で、目で合わせながら、印刷の色を調合していきます」
こうしてできたグッズは狙い通り、絵本自体の売上アップにつながっていて、『こんとあき』は児童書コーナーに比べてEHONSでは3倍も売り上げたそうです。手ごたえを感じてきた今、次に狙うは…。
篠田店長:
「そもそも『絵本』っていう言葉が、海外では通用しないじゃないですか。だから『EHONS』っていう店名にしているっていうのもあるんです。これは野望ですよ、なったらいいなって」
竹内さん:
「MANGAって外国でも共通言語になっていますけど、それと同じ事をEHONでやりたいんです」
(関西テレビ11月29日放送『報道ランナー』内「ヒットにワケあり!オカネのヒミツ」より)