肉に押され、年々消費が減っている魚。 「骨がある」「さばくのが面倒」そんな煩わしさが無くなるかもしれません。
市販化間近となっている「骨なし魚」の研究に迫りました。
■日本の家庭に異変 魚の「骨」が苦手!
食卓には欠かせない食材「魚」。 しかし世界有数の魚消費国、日本の家庭に今”異変”が起きています。
【記者】「こんばんは。よろしくお願いします」
お邪魔したのは4人家族の長島家。この日の夕飯は今が旬の「秋刀魚」。
【長島家】「いただきます!」
脂がのってとっても美味しそうな秋刀魚ですが…長男の賛くんが何やら固まっています。
【母】「(骨を)とる?」
【賛くん】「うん」
サンマの骨を取ってあげるお母さん。 賛くんは魚の味は好きなんですが「骨」が大の苦手なんで、まさにこれが魚に起きている異変なんです。
■若い世代の魚消費量 落ち込みが顕著 「骨をとるのが面倒だから」
農林水産省によると、魚介類の消費量は2001年をピークに減少が続いていて、特に若い世代の消費量が落ち込みが顕著に。
そして魚を食べない理由は「骨をとるのが面倒」が群を抜いています。
【賛くん】「(骨が)さっきここ詰まった」
【母】「ちょっとでも(骨が)あると食べるのやめちゃったりするんですよね」
【父】「これは食べられる」
ごはんに混ぜて、なんとか食べさせて…ようやくお母さんが自分のサンマを食べようとしたそのとき!
【賛くん】「ママ、また骨が詰まった」
【カメラマン】「(骨)見えました、すごくちっちゃいですね」
【母】「それくらいの骨でピーピー言わんといて…」
子どもに魚を食べさせるのって、本当に難しい…。
■丸ごと食べられる魚「骨なし魚」の開発進む
しかし、この状況に革命を起こすかもしれない研究が滋賀県で進められているという情報が。取材班は研究者の元を訪ねました。
滋賀県立大学の杉浦教授。 一体どんな研究をしているのでしょうか。
(Q先生が開発されて、商品化が迫っているものとは?)
【滋賀県立大学 杉浦省三教授】「一言でいえば”骨なし魚”という言い方していますけども」
”骨なし魚”。魚なのに骨がないとは一体どういうことなのか。
【滋賀県立大学 杉浦省三教授】「骨がないと死んじゃいますから、もちろんそこまでやってないです。骨をできるだけ柔らかくすることで、骨の成分である『リン酸カルシウム』のうちのリンの方をできるだけ餌から取り除いて少なくする」
骨は主にその土台となるコラーゲンと周りを固めるリン酸カルシウムで出来ています。 先生はリンの含まれる量が少ない餌を開発。
魚に与えると骨密度が通常の70%前後に落ち、骨はあるけど丸ごと食べられる魚になったというのです。
■6年以上かけた開発 脂のノリ良い「骨なし」ニジマス
実に6年以上の歳月がかかった開発。実験場を見せてもらいました。
琵琶湖の水を利用して、5種類の魚で研究をすすめています。
【杉浦教授】「暗いですね。電気付けます。ここ今全部、『骨なし魚』が入ってます」
水槽の中には「骨なしニジマス」が元気に泳いでいます。
【杉浦教授】「これ2つとも私が作った餌だから。10種類とかもっと色んな低リン飼料を使ってます」
(Q味を良くすることは考えて開発している?)
【杉浦教授】「あ、考えてない。味を良くするのは別の分野。ところが低リンにすると、必ず脂のノリが良くなる。だから美味しいとは思います。普通の魚より美味しい」
■教授が「骨なし魚」をクッキング!「シシャモみたいな感じ」
研究室で先生が「骨なし魚」を調理してくれました。 大きめに切ったレモンを豪快に絞ってさわやかな風味を加えます。
(Q料理名は?)
【杉浦教授】「料理名?え…ただの焼いただけ。料理名って特にないけど。塩くらい振った方が良かったかな。塩はこちら。これ一応塩だけど…」
実験用っぽい塩を振ると出来上がりです。
【記者リポート】「味は脂がのった普通の魚。骨に関してはシシャモみたいな感じですごく美味しいです」
■「現代の子供が魚を食べて丈夫な体を作ってほしい」孤独と戦い試行錯誤の研究
先生はなぜ、「骨なし魚」の開発に取り組もうと思ったのでしょうか。
【杉浦教授】「(私の)親父が結構いろいろしつけ面で厳しい人でね。食べ残し、好き嫌いというのは一切許さなかったですね。当時のしつけで、あの時、魚を丸ごと食べてカルシウムもたくさん取れたし、骨折も1回もしたことないし、体が丈夫になったから、ありがたかったなって。 そういう思いは今でもありますから」
「現代の子供たちに丸ごと魚を食べてもらって、丈夫な体を作ってほしい」という先生の思い。
何度も試行錯誤してたどり着いたのが、今の「骨なし魚」なんです。
(Q一番苦労されたのは?)
【杉浦教授】「ちょっと本当のこと言いますとね、色んな方が『骨なし魚は面白いですね』とか、関心を持っていただいているわけですけども、一番苦労したところは、学生の中に『私も骨なし魚興味あります』とか、
『研究をやってみたいです』とか、そういう学生が6、7年の間に1人もいなかった。これは本当に私自身びっくりですよね」
孤独と闘いながら、子供の健康を願って開発に打ち込んできた末に完成した、骨なし魚。 小さな骨も嫌がった長島家の賛君は美味しく食べてくれるのか。
その結果は!
■「骨なし魚」子供は食べてくれるのか…? 来年春頃までに商品化へ
魚離れに革命を起こすかもしれない大発明「骨なし魚」。 子供の健康を願う開発者の思いは届くのか!
長島家に持ち込み、骨が苦手の賛くん、いざ実食です!
【賛くん】「おいしい!」
やはり「骨」が気になるようですが…。
【母】「食べてる…初めて見ました。あんなちっちゃな骨でも文句言うのに」
見事、杉浦先生の願い通り丸ごと完食しました!
【母】「こういう骨に文句言う小さい子がいる家にとってはすごく助かる食材かなと」
【母・父】「救世主!」
今は淡水魚がメインの”骨なし魚”ですが、今後は海水魚にも応用していきたいということで、来年春頃までに商品化を目指すということです。
(関西テレビ「newsランナー」 11月1日放送)