雑誌「幼稚園」の最新号の付録は、心臓に電気ショックを与える「AED」です。
なぜ幼稚園児向けの雑誌がAEDを付録にしたのでしょうか?
■雑誌の付録に「AED」 本物と同じサイズ・音声「めちゃめちゃリアル」
3日、ジュンク堂大阪市内の書店に並ぶ小学館の雑誌『幼稚園』。最新号の付録は医療機器「AED」です。
紙でできたパーツを組み立てると、本物とほぼ同じサイズのAEDが完成します。 こだわったのは“リアルさ”。
ボタンを押すと…「パッドを青いシートから剥がして、図のように右胸と左わき腹に貼ってください」
本物と同じ音声ガイダンスが流れます。
SNSでは「めちゃめちゃリアル」「神付録」と話題に。
一般の人がAEDを使用できるようになって、ことしで20年となり付録には「大人も子供も遊びながら学んでほしい」という思いが込められています。
【企画した小学館「幼稚園」編集 今村祐太さん】「ぬいぐるみに(電極)パッド貼っても良いし、寝てるお父さん、お母さんに貼っても良い。お医者さんごっこの延長線上みたいな感じで遊んで知ってもらう。本物により近いことで、本物に触れる機会があったときに、パニック感、びっくり感は少し減らせるんじゃないか」
電極を貼り、異常があれば電気ショックを与え、心臓を正常なリズムに戻す「AED」。
20年の間で、実際に命を救われた人はこれまでに8000人以上いて、大阪にもAEDで助かった人がいます。
■周囲の人の勇気のある行動と「AED」で救われた命 後遺症もなく日常生活を取り戻す
岸和田市に住む山内由起子さんはことし4月、小学生になる娘(7歳)の入学式に夫と出席していました。
しかし、式が始まってからおよそ15分後、山内さんは突然、意識を失い椅子から崩れ落ちました。
【山内由起子さん(45)】「気付いた時には病院で、『なんで倒れたのかな』とか『入学式は?』ということしかなくて」
突然の出来事の中、動いたのは、その場にいた保護者や先生たち。保護者の中には、たまたま看護師が4人いました。
【看護師 宮瀬隆也さん】「まず意識がなさそうなので、呼吸の確認と脈の確認させてもらいました」
別の保護者は、すぐに119番通報。
【通報した保護者 原陽介さん】「少しでも早く通報して来てもらえたら、助かる可能性があるので、すぐ通報した」
救急車を待つ間、交代で心臓マッサージを続けました。
そんな中、先生が持ってきたのが…体育館の入口に設置されていた「AED」です。
AEDは、山内さんを「心停止」の状態と判断。
すぐに、電気ショックが加えられ、倒れてからおよそ5分後、山内さんは意識を取り戻しました。
【看護師 宮瀬隆也さん】「他の保護者が自分の上着で、パーテーションで壁作ってくれて、みんなが、やらなあかんことこれかなと、自分たちで思いついて動いた」
【夫 山内健史さん】「僕自身パニックになったけど、すぐにいっぱい人が集まってくれて、息を吹き返して、少し安心しました」
心停止の状態ではAEDの電気ショックが1分遅れるごとに、救命率はおよそ10%ずつ低下します。
一分一秒を争う素早い救助のおかげで山内さんは退院した後、後遺症もなく日常生活を取り戻すことができました。
【山内由起子さん】「すごく勇気のある行動で、なかなかできることではない。初めてお会いする入学式の場で、保護者の人たちが一生懸命処置をしてくれて、AEDがなければ今も生きていないと思うし、皆さんがいなければ今はなかったと思う」
■世界で最もAEDが多いが使用率はわずか4% 救命講習の参加者「実際にAEDが使えるのか」不安の声
一方で課題もあります。
心停止した際に、AEDが使われたのは、わずか4%と使用率は10年前から上がっていないのです。
【日本AED財団 石見拓専務理事】「日本は10年くらい前まではAEDの最先端の国でした。今でも世界で最もAEDが多い国の1つであることは間違いないが、設置台数に比べると使われる割合と、電気ショックの割合にギャップがある。いざという時に自分がAED使って救命措置できるかというと不十分なのかなと」
8月、大阪市で行われた救命講習。
参加者からは「もしもの時に実際にAEDが使えるのか…」と不安の声もあがりました。
【参加者】「AED持ってきてくださいって言われるじゃないですか、AEDどこにあるかわからない」
【参加者】「(AEDを)開けたら自動的に、声が出るものと思ったらいいですか?」
【消防隊員】「基本的に音声メッセージがついているので、何も知らない方でもメッセージに従っていただければ、実施できる機械になっているので」
【参加者】「助けるっていう意識を持たないと、漠然とやっていても躊躇(ちゅうちょ)する自分がいるんじゃないかなって思います」
救急車が現場に到着するまでの平均時間はおよそ10分。到着までの間にいかに早くAEDを使うかが重要です。
【大阪市消防局救急課 大西幸世さん】「心臓が止まっている方がいれば、まずは一人で助けようとせずに、応援を呼んで、119番通報も忘れずに行っていただきたい。それとAEDがあれば、助かる命があるということを伝えたい」
一方で、AEDの利用が進まないあるハードルも。
【日本AED財団 石見拓専務理事】「学校で起こった心停止は、小学校、中学校、高校と大きくなるにつれ、女子生徒の方が男子生徒と比べ、AEDが使われにくい。(使用には)色んな障壁ある」
■異性に「AED」使用へのためらい 命は助かるも重い後遺症「男女等しく使うべき」
京都府に住む柘植知彦さん(57)。
2013年、マラソン大会に参加していた、妻の彩さん(49)が突然倒れました。
心停止状態の彩さんのもとには、救護員の男性が駆け付けましたが、AEDは使われませんでした。
【柘植知彦さん】「男性救護員が(彩さんが)女性だったためにAEDの使用をためらったと」 (Q.女性の体を触るのに抵抗があったから?) 「そういうふうに聞いています。救護するにおいては、男性女性関係なくすべきことだと思うので、女性だったという性別の理由で、使用しないのは考えにくいことだなと」
彩さんは病院で治療を受けましたが、今も脳に重い障害が残り、意思疎通はまばたきで行います。
【柘植知彦さん】「結婚式をハワイ島で挙げて…事故の後、15周年でまた行けたらいいなって、結局16周年なったけど」
■教育現場での継続的な取り組みが大切
事故当時、4歳だった娘の奏恵さん。
事故後、救命講習を受けAEDの使い方を学び、小・中学生の主張大会では自身の経験を伝えました。
【柘植知彦さん】「(事故当時)本人にとってはしんどい時間だったと思います。自分の話ができるようになって、AEDを使用していくにあたって、男子にも女子にも等しく使っていくべきだというのは、折に触れて発信しています」
「AEDの使用率をあげるために」。
柘植さんは教育現場での継続的な取り組みが大切だと話します。
【柘植知彦さん】「毎年やっているような授業の中で、実質的に救急救命、AEDにかかわる授業をすること。それを続けていくことで、その世代が学年が上がっていって、人を救える世代が生まれる」
目の前で命の危機に出くわした時、ためらわずにAEDを使うことが求められます。
■アンケートでは「容体が悪化したら責任が取れない」という声も
番組では独自にLINEアンケートを実施しました。351人の方が回答していただきました。
AED使えますか?の質問に対して、
・60代 講習を受けたのが十数年前。自信がない。
・20代 容体が悪化したら責任が取れない。怖い。
・20代 使い方や設置場所がわからない。
こういった声が聞かれました。
救われた命があった一方で、女性に対して使うことをためらってしまい、後遺症が残ってしまった例もありました。
■「AEDの仕組みを知っておくことが大切」と安藤さん
【ジャーナリスト 安藤優子さん】「いくつかハードルがあると思うんですけども、子供の雑誌の付録でもあったように、触って開けると、何が出てきてどうなってるかという、メカニズムや仕組みを、知っていると知らないとでは大違いですよね。 AEDの場所を知っていても、それを開けて取り出して、スイッチを入れたときに、何が起きるのかっていうことをあらかじめ知っておくということは、たとえおもちゃであったとしても、触れておくっていうのは大切で、何が起きるか知らないっていうのは第一のハードルですよね」
■「一般の人が使っても、救命率が高くなることを広く周知するべき」
【ジャーナリスト安藤優子さん】「第二のハードルは、女性に対して胸を露わにすることへの抵抗というのは、もちろん皆さんもあると思うんですけど、問題はやっぱり命を救うか救わないか、それはAEDのスイッチを入れればAEDが判断してくれますよということをやっぱり周知しなくちゃいけないっていうことですよね。
第三のハードルは、(AEDを)使ったことによって、何かが起きてしまったときに、どうやって誰が責任取るんだろう、医療従事者じゃないのにというところだと思うんですね。
でもそれは一般の人たちが広く使えるようにしたこの20年の意味を考えれば、回答が出てくるわけですよね。一般の人が使ってもなお、命を救える率が高くなることをもうちょっと広く周知するべきだなって思いますね」
■「AEDナビ」というアプリでAEDの場所が把握できる
1分遅れるだけで救命率ががくっと下がってしまいます。
「何かあったら責任が取れない」という声については、日本AED財団によると、「善意の行動であれば、悪意や重大な過失がない限り、責任を問われることはない」ということです。
設置場所がわからないという声がありましたので、設置場所を知るための1つの手段として日本AED財団の「AEDナビ」というアプリがあります。
財団のホームページから見られるマップになっています。
ただ課題もあって、設置したら自動に登録するシステムではなく、見つけた人や設置した人が手動で登録するシステムになっているということで、国内に設置されている約60万台のうち、掲載は6万台ほどになっています。
日本AED財団の石見さんによると、「すべてを網羅したマップがないのが欠点。勤務先やよく行く場所で、どこにあるのか確認していただきたい」とのことです。
■心停止のおよそ7割が自宅で起きている
【関西テレビ・加藤さゆり報道デスク】「出先で倒れてしまうケースもありますが、心停止のおよそ7割が自宅で起きているというデータがあるんですね。出先だけでなく、自宅の近く、例えばマンションであれば、入り口にあるか、戸建ての住宅であれば、コンビニが1番近いところなのか公民館なのか、そういったことを把握しておくことが必要になってきます」
AEDを使うときに大切なのは、「いかに早く使うか」ということ。 身近な人や大切な人に使う事態も想定し、備えておくことが重要です。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年9月4日放送)