多くの人の行動に影響した南海トラフ地震臨時情報で、最も影響を受けたのは観光地の経済です。
関西屈指のリゾート地には、5億円もの損失があったということです。
【記者リポート】「白良浜海水浴場です。およそ1週間ぶりに海水浴客の姿が戻ってきました」
朝から多くの観光客で賑わった和歌山県の「白良浜海水浴場」
関西有数の人気を誇るレジャースポットでしたが…。
今月8日に発表された「南海トラフ地震臨時情報」を受け、白浜町は町内4つの海水浴場を閉鎖し、14日まではガランとした様子に。
白浜町は避難経路など安全確保の確認を進めた結果、15日からすべての海水浴場で遊泳を再開しました。
【海水浴客】「最高です。きょう再開すると聞いたのでもう一泊、連泊に」
【海水浴客】「いいですね海は。孫が楽しみにしてたので一緒にきましたよ。思っているほど不安には感じてないです」
【子供】「たのしいです」
【海水浴客】「ちょっと不安ですけど大丈夫かなと」
白浜町は、避難経路を書いたビラを配布するなど今後も警戒を続ける方針です。
■見えてきた様々な課題
今月8日、九州・四国地方などを襲ったマグニチュード7.1の地震を受け、気象庁が初めて発表した南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」。
本州最南端に位置する和歌山県・串本町では、最悪の場合、18mの津波が襲うと予想されていて、今回の臨時情報を受け、役場では職員およそ25人が夜間も泊まり込みで警戒にあたりました。
仮眠がとれるよう、段ボールベッドを設置するなど、職員の負担をなるべく軽減しようと対策しましたが…
【串本町 田嶋勝正町長】「1週間で夜だけで150人出たかたちにになる。これ以上長くなると職員のメンタルの部分を心配することもある」
たった1週間でも、職員からは疲れや不安の声が多かったといいます。
また、実際に地震が起きた際、町内およそ50カ所にある避難所に職員を派遣するには少なくとも100人の人手が必要。しかし、防災を担当する職員の数には限りがあります。
【串本町 田嶋勝正町長】「防災グループは5人しかない。全員が防災グループであるという認識をもって、個々で動けるような体制を作らないと、防災グループ頼りだと全然動いていかないなと感じた」
■ダイビングショップでは「予約の半分近く」がキャンセル 損失少なくとも200万円
また、今回初めて臨時情報が出たことで見えてきたのは、「経済への想像以上のダメージ」でした。
串本町のダイビングショップでは…
【DIVEKOOZA 上田直史代表】「(予約の)半分近くはキャンセルになりました」
この店によると地震発生の翌日から14日までで、団体客を中心にキャンセルが相次ぎ、損失は少なくとも200万円に上るといいます。
特急列車の運転がとりやめとなり、そもそも来ることができないという声があったほか、「津波が心配」という不安の声も多かったということです。
現在は、利用客に避難経路を伝えるなど、対策を取りながら営業を続けています。
【DIVEKOOZA 上田直史代表】「(お盆の)経済的効果は大きいなと思っていた矢先に今回の地震だったので、正直辛かったですね」
■温泉旅館ではキャンセルが相次ぐ
より大きな損害が出ていたのが、旅館業界です。
白浜町の「旅館むさし」では5000万円の損害が出ました。
旅館組合全体では、5億円の損失だということです。
【旅館むさし・女将 沼田弘美さん】「お盆の期間にこんなにお部屋があいているなんていうことはないですし」
こう語るのは、「旅館むさし」で女将として働く沼田弘美さん。
【旅館むさし・女将 沼田弘美さん】「じゃあ2名様ですね。2名様ご案内お願いしまーす」
15日も利用客の案内などに当たっていましたが、この1週間は異例の対応に追われつづける日々でした。
【旅館むさし・女将 沼田弘美さん】「日々、キャンセルの通知だけはたくさん来るような状態です」
白浜町内では4カ所の海水浴場が閉鎖されたほか人気イベントの花火大会も中止に。
かき入れ時のお盆を直撃し、営業面で大きな打撃を受けました。
【旅館むさし・女将 沼田弘美さん】「5000万円の金額が(損失として)出ました。当然8月の期間のピークにショートしてしまうことが大きかった」
白良浜海水浴場や観光名所「円月島」を望む16階の人気の部屋も空室。 この日、観光客から特に人気の高いこのフロアで宿泊者がいたのは8部屋中、1部屋だけでした。
■旅館では地震をうけ、手探りの対策も
キャンセルが相次いだ影響はこんなところにも。
【旅館むさし・女将 沼田弘美さん】「本来だったら半分以上使い切っているはずの食材。パイナップルとかフルーツとか生鮮ものですよね」
毎年お盆の時期は前もって多めに食材を発注するため、冷蔵庫の中にはまだ多くの食材が残っていました。
およそ300人が入ることのできる夕食会場も、この日利用していたのは71人のみ。 会場の一部は使わないため、電気が消えていました。
【旅館むさし・女将 沼田弘美さん】(Q本来は満席に?)「そうですね。前半と後半に分けましても、全てのお席が埋まってしまう状況になります。それがきょうのように静かになってしまっていると、下のフロアだけの食事となります」
大きな損失が出る中で、旅館を訪れてくれた宿泊客に安心してもらうため、手探りで対策を始めていました。
【旅館スタッフ】「大きい地震が来るといけませんのでご案内しますが建物が壊れるような大きな地震が来た場合は私どもで外の広場まで誘導する予定でございます」
スタッフが行っているのはもしもの時の避難の説明です。
15日から海水浴場も再開し、宿泊客が今後、増えていくことを見据えて改めて旅館からの避難経路を示した地図を作成。チェックインの際にすべての宿泊客に説明をしています。 初めての「臨時情報」で感じたことは。
【旅館むさし・女将 沼田弘美さん】「南海トラフ地震エリアから外れることはできないので今後も一生付き合っていかないといけないことなので。ちゃんとそういったこと(安全対策)をしている場所だということを全面的に出していけるようにしないといけないと痛感しています」
■白浜全体で約5億円の損害、現在も空室が目立つという
白浜町に出ている経済面での影響について、12日から取材に当たってきた記者は次のように指摘します。
【樋口諒記者】「白い砂浜が特徴的な白良浜海水浴場では、日中は肌がヒリヒリするような暑さの中、皆さん久しぶりの海水浴だったり、日光浴だったり、それぞれの楽しみ方をされていました」
「12日からこちらで取材をしているのですが、14日まで海水浴場は閉鎖されていました。 近くの売店の方にお話を聞きますと、これだけ砂浜に人がいないのは初めてだと、コロナ禍でもこんなことはなかったと話していました」
「旅館むさし」の沼田久博社長は影響について、次のように話しました。
(Qきょうも空室が目立っているんでしょうか?)
【旅館むさし 沼田社長】「この時期は満室なんですけども、きょうは3分の1ぐらいの状況です」
(Q予約は新たに入ってきていますか?)
【旅館むさし 沼田社長】「期待してたんですけども、午前中予約の係に聞きましたら、2件ほど電話の問い合わせがあっただけで、今のところ、まだ動きがあまりないような状況です」
(Q補償や支援は必要でしょうか?)
【旅館むさし 沼田社長】「コロナの時に、旅行支援をしていただいてますので、今回できれば、落ち着いた9月や10月に白浜全体のことを考えると旅行支援などしていただけるとありがたいです」
■専門家の見解は
和歌山県白浜町の旅館では、キャンセルがおよそ5800件。
損失額は5億円超えと本当に大きな金額となりました。この臨時情報が発表された際の補償について、専門家は次のような見解です。
【京都大学防災研究所 矢守克也教授】「地震の臨時情報は、コロナ禍に似ている。行政が発表した際に補償も検討することが必要」
新型コロナウイルスが流行し、緊急事態宣言が出た時は、損害を補償する協力金などが出ました。
【関西テレビ 神崎博報道デスク】「南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震注意」は、あくまでも『普段からの、日頃の地震への備えを再確認してくださいね。日常生活を注意しながら送ってくださいね』というものなんです」
「今回、海水浴場を閉鎖したのは、あくまでも白浜町=市町村の判断で閉鎖しただけで、例えば休業したお店があったとしても、『業者の自己判断』という形になるので、国から何らかの要請をしたものではないので、補償がセットになってるようなものではないんですよね」
損失が出るからといって、対応や対策に遅れが出ることがないよう、経済的な影響への対処についての制度をつくっていくことも必要かもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年8月15日放送)