運用が始まってから初めて発表された「南海トラフ地震臨時情報」、実際に出された「巨大地震注意」。
関西テレビが南海トラフ地震による津波の被害が大きいと予測される29の自治体に取材したところ、臨時情報への対応に苦慮した自治体がいくつもありました。
南海トラフ地震発生から最短でわずか3分で津波が襲うことが想定されている和歌山県串本町。現状にどう向き合っているのか、危機感や今後の対応について、串本町・田嶋勝正町長に詳しく聞きました。
■最短3分で津波が来る串本町 ワークショップを行い対応を想定
8日、初めて南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震注意」が出ました。率直に田嶋町長はどういうふうにお感じになりましたか?
【和歌山県串本町 田嶋勝正町長】「『注意』の前に『調査中』というのが出ましたけれども、これに関して事前にワークショップを作って、文章も作り上げていましたので、スムーズにいけたというふうに思います。想定は令和2年に行っていました」
最短3分で津波が襲うとされていますが、具体的にはどう動かれたのでしょうか。
【和歌山県串本町 田嶋勝正町長】「まず連絡室を立ち上げました。夜、例えばテレビニュースを見た方が電話をかけてこられたり、避難所がどうなっているのか心配される方もいますので、まず夜は40人体制で泊まり込む。次の日も40人体制で当たっていく。そして明日から3日間、連休になりますので、それへの体制づくりを早急に行ったという状況でした」
地震発生からすぐに津波が来るという地理的状況があり、今回の初動の早さにつながったのでしょうか?
【和歌山県串本町 田嶋勝正町長】「そうですね。(南海トラフ地震が)いつ来てもおかしくないと、テレビ報道でも常に言われていますから、そして我々の所がある意味、ものすごく注目をされ、被害も大きいと言われている場所ですから、いつもアンテナを高くしております」
■自治体によって対応はさまざまだった
各自治体に話を聞くと、対応は分かれていました。
・和歌山県新宮市など すぐに災害対策本部を設置
・兵庫県洲本市など 地震への備えを住民へ呼びかけた
一方、
・和歌山県広川町など 他の町と相談して対応を決めた
・徳島県美波町など “方針”はあったが具体的な対応は決まっていなかった
自治体によって対応に差があります。これについて、南海トラフ巨大地震や避難行動に詳しい、京都大学防災研究所の矢守克也教授に聞きました。
【京都大学防災研究所 矢守克也教授】「2つの見方ができると思います。1つは津波までの余裕時間などの長い短いに応じて、臨時情報を受けた対策、必要性の高さが変わってきますので、ある程度自治体で対応が違ってくることは当然という面もあると思います。
ただもう一方で、臨時情報という仕組みは昨日今日にできたわけではなく、5年ほど前にスタートしていて、いつ出てもおかしくなかったわけです。8日についに出ましたが、それまでの時間を有効活用して、各自治体で訓練や準備をもう少し進めておくべきだったのではないかと言えるとも思います」
「newsランナー」コメンテーターで京都大学大学院の藤井聡教授は「対応できていない自治体は体制を整えるきっかけにしてもらいたい」と話しました。
【京都大学大学院 藤井聡教授】「串本の例は非常に分かりやすいですけれども、5年前にできた制度で、『こういう情報が出たらこうする』ということを決めていらっしゃったわけです。気象庁、政府が、情報発信することを決めた時には、そういうふうに対応してもらいたいという思いで作っているわけですけれども、必ずしも対応できていない自治体もあったというのが明らかになったのかと思います。
これをきっかけに、例えば串本では対応できたということも参考にしながら、そのような取り組みを、『横展開』と我々は呼びますけれども、関係の自治体がしっかりとした体制を整えるきっかけにしてもらいたいと思いました」
■「巨大地震注意」の情報出る 自治体の判断はスムーズに行えたのか?
今回出された臨時情報は「巨大地震注意」ということでした。
実際に串本町で、職員の方の負担も考えると、判断は難しかったようにも思われますが、そのあたりはいかがだったのでしょうか?
【和歌山県串本町 田嶋勝正町長】「まず長期戦になることが考えられます。しかし1週間が基本になるかと思いますので、まず今回は8日間のローテーションの組み方で、人の配置などを考えたところであります。『調査中』や『注意』という文言が出たとき、串本町においては、『どういう発表が出た時に、こういう町内放送をする』とか全て作り上げてきていたので、今のところはスムーズにいけたというふうに思っています」
そんな中で今回、課題や修正するような部分はありましたでしょうか?
【和歌山県串本町 田嶋勝正町長】「これから課題が出てくるのではないかと思っています。町民の方々からの問い合わせとかいろいろあるかもしれません。職員にはこの機会に『BCP』を読み直せということで、全職員が読み直しているところなんですけれども、そういったところから、現状と合わせながら課題を見つけていく作業に入っていくことになるかと思います」
串本町は『注意』の情報が出てからの初動が大変早かったということでした。
■今後の課題
今回の串本町の自治体としての判断は専門家から見てどうだったのでしょうか?
【京都大学防災研究所 矢守克也教授】「町長もおっしゃったように、今後に向けて検証すべき点は出てくると思います。この経験を串本町内はもちろん、他の市町村についても、『臨時情報』が出るような事態は今回が最後ではありませんので、今回の対応も重要ですし、今回の対応を今後どう生かしていくかということも含めて、検証していく必要があると思います」
串本町では今後自治体として、どのような対応を考えているのでしょうか?
【和歌山県串本町 田嶋勝正町長】「我々、ワークショップをして、シュミレーションを考えたのは令和2年だったわけなんですけれども、今まで何もなかった。それがいきなり『注意』が出ました。本当にあるんだなと改めて認識をしたところであります。こういったことを、町民の皆さん方にも、またいろいろな機会を捉えてワークショップを進めていったリ、そしてまた避難地の整備などにつなげていけたらと思っています」
普段から地震への備えの意識というのが大変高い地域で、心血を注いでこられたという、串本町の田嶋町長に聞きました。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年8月9日放送)