『絶対に残したい』温暖化で海からサンゴが消える可能性 徳島・海陽町の小さな水族館が挑戦 島のシンボル・エダミドリイシなどのサンゴを守るために「何でもやる」 2024年08月10日
徳島県の海辺にある小さな水族館。ここでは地元のサンゴを守る取り組みを続けています。
気候変動で生存できなくなるかもしれない将来に備えて、サンゴを残す努力とは。
■60種以上のサンゴが生息する海の魅力
【海洋自然博物館マリンジャム 木村素子さん】「あれ、イソギンチャク!」
「サメ、サメ!真下、サメ!」
ガラス越しに見える海の生き物たち。ガイドがそれぞれの生き物の名前を子どもたちに教えています。
普段見ることのない海の中の世界に、夢中になる子どもたち。
これは海中観光船「ブルーマリン号(現在は運航休止中)」の中の様子。徳島県海陽町の竹ヶ島周辺の海を探索する“動く水族館”です。
島に囲まれた穏やかな湾では、60種類を超えるサンゴが生息しています。
300年生きているといわれるムカシサンゴや、カワラサンゴ、シコロサンゴ。一番多いのが、竹ヶ島のシンボルとなっているエダミドリイシです。
【海洋自然博物館マリンジャム 木村素子さん】「向こうはまたちょっと違う。ウミバラサンゴ」
ガイドの木村さんは、5年前からこの仕事を始め、サンゴの魅力に引き込まれました。
【海洋自然博物館マリンジャム 木村素子さん】「海の中は最高です!」
「私も今日の授業を受けた子どもたちと一緒で、一つ知るたびに『おー!』となっていたので、それと同じような感覚が子どもたちにあったんじゃないかなと」
「今の海を見て、どんな海だったのかを覚えておいてほしい」
木村さんが働いているのは、小さな水族館「マリンジャム」。
今でこそ、地元の海で見つけた魚など120種類を展示していますが…。
【海洋自然博物館マリンジャム 奥村正俊館長】「僕がマリンジャムに来た時(22年前)は館内が閉まっていまして、倉庫だったんですよ。目の前に海があるのに、せっかく竹ヶ島のシンボル“エダミドリイシ”があるのに、『サンゴをなんで飼わないんだろう』ということで、サンゴと魚を一緒に飼える水槽をほしいと町の方に相談すると、のっていただけた」
ただの倉庫だったところに、奥村館長が手作りで少しずつ水槽を増やし、地元・竹ヶ島の海を再現できるまでになったのです。
竹ヶ島の魅力は他にもあります。それはシュノーケリング体験。
日本でも珍しく、岸の近くの浅いところにもサンゴが群生していて、小さい子どもでも気軽にサンゴを間近で見られるのです。
【京都からの参加者】「めちゃめちゃ想像以上にきれいで楽しかったです」
【香川からの参加者】「イソギンチャクとサンゴがめっちゃ見れました」
【カリフォルニア出身の参加者】「珍しいサンゴを見る機会がすごかったです」
【県内からの参加者】「種類が多くて、全てのサンゴが新鮮で、海自体に魅力を感じました」
■40年前にも訪れていた危機 しかし今後は…
サンゴの海として定着した竹ヶ島のシンボル「エダミドリイシ」ですが、ピンチもありました。
46年前から海陽町でダイビングショップを営む石川さんは、こう振り返ります。
【ダイビングショップ カアナパリ 石川 侃(つよし)さん】「(エダミドリイシが)いきなりなくなった時期がありましたよね。低水温であるとか」
今から40年近く前、異常な低水温によりエダミドリイシは死滅の危機に瀕しました。
石川さんたちの呼びかけに、県内外から多くのダイバーが集まり、死んだサンゴの間に、生きているサンゴの枝を植え付けていきました。
地道な活動を続け、今「エダミドリイシ」は群生として息を吹き返しています。
しかし、今度は逆の問題が…。
【ダイビングショップ カアナパリ 石川 侃さん】「もうちょっとしたら全部この辺の水温が上がって、エダミドリイシが死んでしまう可能性もあります」
40年近く前の低水温は一過性のものでしたが、今は温暖化。しかも、それは今後も続くことが予想されていて、暑すぎて竹ヶ島では生きていけなくなる恐れがあるのです。
「海ではだめになっても、水族館で守り育てていこう」。そう考えた奥村館長は、エダミドリイシの卵を採集するため、1週間潜り続けました。
そして迎えた7月31日。エダミドリイシはまさに産卵を迎える状態…。慎重に袋をかぶせ、その時を待ちます。
そして、エダミドリイシの産卵が始まりました。卵(らん)と精子を含んだ“卵(たまご)”が海中に放たれます。
こうして卵を採集できるのも、何とかしたいとの思いで観察を続けてきたからこそ。
水族館に持ち帰り、受精させます。
Q.何の作業をしているんですか?
【海洋自然博物館マリンジャム 木村素子さん】「場所の違うところの種同士をかけ合わせて、できるだけ血が濃くならないようにしています」
水槽で採れた卵も、海から持ってきた卵とかけ合わせます。
ゆくゆくは水族館の中だけで採卵、繁殖できるよう、さらに水槽を増やしていくことを目指しています。
【海洋自然博物館マリンジャム 奥村正俊館長】「危機的な状況の時、館内で種の保存をしていると、移植する時にマリンジャムにはエダミドリイシがあると、それをまた移植に使えるかなと僕は思っています」
「サンゴは絶対に残していきたい。エダミドリイシは絶対に残していきたいです。ちょっとでも残るのであれば、何でもやります」
変わりゆく自然の姿を人の手で残していく。この挑戦に終わりはありません。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年8月6日放送)