この夏、京都府福知山市の花火大会が、11年ぶりに開催される。小学生を含む3人が死亡、55人が重軽傷を負った事故が起こり中止されてきたが、再開を求める住民の声を受け、さまざまな安全対策をした上で、規模を縮小し再開されることになった。
一方、徳島県鳴門市で、毎年開かれてきた夏の風物詩「納涼花火大会」が中止になった。落ちてくる花火の燃えかすに、住民から多くの苦情が寄せられていたが、対策が難しいため、今年は中止を決めたという。
どちらも、地域の夏の一大イベント。開催の有無に住民の声が大きく反映された形だ。
地域住民との向き合い方は、自治体ごとに相当な違いがあるという。地方自治の現状について、弁護士で地方自治制度が専門の、神奈川大学法学部・幸田雅治教授に話を聞いた。
■住民の声を反映 カギは自治体の憲法「自治基本条例」
【神奈川大学 幸田雅治教授】
福知山市と鳴門市に共通しているのは「自治基本条例」です。これは、言ってみれば「自治体の憲法」のようなもの。市民を中心としたまちづくりを進めていくためのルールで、その自治体における市政運営の指針となるものです。福知山市と鳴門市は、それぞれ「自治基本条例」が制定されています。
地方自治に関する法律としては、「地方自治法」がありますが、これは全国画一の共通ルールです。自治体ごとに状況や課題は大きく異なるため、自分たちの町をどのように築いていくか、地域に合わせたルールを作りましょうというのが「自治基本条例」なのです。
花火大会の件は、もちろんそれだけが要因ではないでしょうが、「自治基本条例」を作っているかどうかは、住民の意見をしっかり聞こうという意識の大きさの、ひとつの指標になると言えます。
■制定率は22.9%…
平成13年に北海道ニセコ町が最初の「自治基本条例」を制定してから20年余り。
全国での制定率は22.9%(令和5年10月1日時点)、全国自治体の409団体(道府県が3団体、市区町村が406団体)です。
自治基本条例は、平成10年代後半以降、全国に広がっていきましたが、平成20年代後半以降、伸びが鈍化しています。理由は色々あると思いますが、自民党が反対しており、地方議会で自民党が過半数を占める所は否決されています。自民党内には「自治基本条例は最高規範になっているが、日本国憲法が最高規範であって、自治基本条例が最高規範になるのはおかしい」という議論がありますが、そもそも自治基本条例は憲法の上に立つものではありません。
■議会の役割 果たしましょう「議会基本条例」
住民からの苦情を理由の一つとして「納涼花火大会」の中止を決めた埼玉県狭山市は、今年、「議会基本条例」を制定しようと準備を進めています。
「議会基本条例」は、議会に関する基本的事項について定めている条例で、全国の自治体の56.6%(令和5年10月1日時点)が施行しています。分かりやすくいうと、「議会の役割をきちんと発揮しましょう」ということと、「住民の負託に十分に応えるための基本方針」が書いてあります。
自治体によって内容は異なりますが、例えば、「住民に対して議会報告会を実施して意見交換を行う」とか「住民の議会参加への推進」「(住民が議会に直接意見を伝える)請願・陳情の際、住民がきちんと意見を発表できる」などといった様々な規定を盛り込んでいます。
地方自治体は二元代表制…「首長」と「議会議員」を「住民」が直接選ぶ制度をとっていますから、住民の意見をしっかり受け止めているかどうかは非常に重要なのです。
「議会基本条例」は、令和元年度に施行率が5割を超えました。その後も毎年、20~30程の自治体で制定されており、今後も広がりが期待できます。
■「団体自治」と「住民自治」のバランスが大事
地方自治は「団体自治」と「住民自治」に分けられます。「団体自治」とは自治体が国から独立して自らものごとを決定することを言い、「住民自治」は住民が地域の課題を自ら解決することを言います。この2つが上手く回ってこそ、地方自治が上手く進むとされています。
「住民自治」は、住民の声を受け止める応答性が大切です。住民が言うことをそのまま全てやるということではなく、住民の意見をしっかり聞き、それを適切に反映して、自治体が地域の行政を担っていくということです。そして、住民にも情報提供する、住民が参加しやすい機会を確保する、そういったことを、自治体がしっかりと意識をして、行政運営をしていって欲しいと思います。
(神奈川大学 幸田雅治教授)