大阪府吹田市にある「大阪学院大学高校」の硬式野球部。
今春の大阪府の大会で、大阪桐蔭、履正社などの強豪校を下して初優勝し、注目されました。
その原動力となったのが、監督の辻盛英一(つじもりえいいち)さん(48歳)です。
【辻盛英一さん】「彼らは本当にできるんですよ。できると思ってやるか、大人が『どうせ無理だから』って言ってやるか、全然違うと思うんですよ。負けると思ったらおかしいじゃないですか。『勝てたらいいな』もおかしいと思うので。彼らが日本一になると決めてやってくれている以上、僕も勝つと思っています」
就任してわずか1年。チームの意識を変え、結果につなげた彼の指導の本質とは。
■辻盛さんのもう一つの顔「保険業界では“神”」
辻盛さんのもう一つの顔が、保険代理店「ライフメトリクス」の社長です。
28歳の時、大手銀行から外資系の保険会社に転職。13年間連続、営業成績ナンバー1という異例の実績を打ち立て、2018年に独立。今では30人以上の社員を率いています。
【社員】「うそみたいな存在ですね。ほんまにこういう人っているのかな。スーパーマン感がすごいですね。ワンポイントアドバイスで、『あとは自由にやって』って感じなので、自分が成長できるなってすごく感じます」
【社員】「保険業界では“神”的な人じゃないかなと思いますね。結果が出せなかったらなじったりする方が多いんですけど、そういうこともないですし、みんなで協力して全員で成功体験をしていこうという考え方」
部下にここまでいわせる社長。そんな辻盛さんの商談をのぞいてみると、商談相手と野球の話をしているようでした。
【辻盛英一さん】「巨人ってドラフト上手いですよね」
Q.野球の話しかしていない?
【ケンショウ 熱田敏広代表取締役】「最初で仕事の話は終わりました」
【辻盛英一さん】「いつもこうですよね。今日はちょっと堅いぐらい」
【ケンショウ 熱田敏広代表取締役】「最初5~10分は仕事の話で、あと40~50分は野球の話」
辻盛社長はとにかく人たらしのようです。
社長業がどれだけ忙しくても、スケジュールは野球部の練習が最優先。
【辻盛英一さん】「『午後4時にグラウンド』が全て、今は基準になっています」
「全国にお客さんがいるので、朝5時ぐらいに出て愛媛に行って、愛媛から帰ってきてそのままグラウンドに行くこともあります」
練習後に仕事に戻り、気づけば日付が変わることもよくあるそうですが…。
【辻盛英一さん】「忙しいと思ったことはほぼないですね。好きなゲームをやっていて、夜中になって『ゲーム忙しいな』って言わないじゃないですか。仕事も野球も好きなんで」
「好きなこと」に全力投球する辻盛さんを、社員も応援しています。
【社員】「健康面は気をつけていただきたい。(ランチは)お話しながら囲んで食べるので、食事内容とかは…」
【辻盛英一さん】「いつも『野菜を多めにしましょう』って、Uber Eatsで頼もうとしたら、勝手に野菜を頼まれてるんですよ」
【社員】「コンビニでも『味噌汁も足しましょう』みたいな」
会社を出る時は、エレベーターに乗り込む辻盛さんを笑顔で見送る社員の皆さん。
【社員たち】「行ってらっしゃい」
【辻盛英一さん】「いつもお見送りしてくれるんですよ」
【記者】「愛されてますね」
【辻盛英一さん】「愛されてるんですかね。分からないですけど、うれしいですね」
■「失敗したことは絶対に責めない」信頼し見守る監督
グラウンドでも、辻盛さんのスタイルは変わりません。
【辻盛英一さん】「ええやん。ナイスバッティング!」
選手のやる気を引き出す魔法の言葉。辻盛さんの言葉で、チームの意識が変わりました。
【辻盛英一さん】「代表が今坂(選手)です。練習しない、アップしない、トレーニング中はやったふりしてゲームをやっている。それが今は、『しっかり練習せえ!』って(他の選手に)キレてますからね」
キャプテンを務める、3年生の今坂幸暉(いまさかともき)選手。素質はあったものの、一時は目標を見失っていました。それが今では、プロも注目する選手に育ったのです。
Q.何をしたんですか?
【辻盛英一さん】「目指すんじゃなくて、なると決めてやってほしい。本人には『プロ野球選手になって活躍すると決めてやってほしい』と言っている」
「初めは『は?』って感じ。『何言ってるの、この人』みたいな感じです。ところが本気で思っているんで、言い続けると、あいつも本気になる能力が高いんで。スイッチがパンって入った感じ」
穏やかな口調で、相手に響く言葉を繰り返しかけ、信頼して見守る。チームの意識は、劇的に変わりました。
Q.信頼って返ってきますか?
【辻盛英一さん】「返ってこないです。返ってこないは言いすぎですけど。仕事でも信頼して任せた結果、失敗することは結構あります。でも仕方ないじゃないですか」
「失敗したら次はどうやったら成功するか考えてくれたらいいと思うんですよ。失敗したことを責めると二度とトライしなくなるんで、失敗したことは絶対に責めない。トライしたことをしっかり褒める。それを徹底してるって感じですかね」
そして、春の王者として挑む夏の大会。やれるだけの準備は積んできました。
試合中、選手が自ら考えて動くことを尊重し、信頼して任せるのが辻盛流です。
しかし、結果は敗退。現実は無情なものでしたが…。
【今坂幸暉主将】「これで高校野球が終わったのかって感じがしますし、夢なのかなって」
「自分が諦めかけていたプロ野球選手という夢を追わせてくれた辻盛さんには感謝の気持ちしかない。『ありがとうございます』の一言です」
悔しさに涙を流す選手たちの肩を叩く辻盛さん。彼らがまた次に向かうための言葉を送ります。
【辻盛英一さん】「めちゃくちゃ悔しがっているのを見て、やっていて良かったと思ったんですよ。本気で一生懸命やってるやつじゃないと、あんな悔しがり方はできないと思うんですよ。あの時に、負けちゃいましたけど、『監督になって良かった』と思いました」
「かなわなかったことを、次もう一度がんばって、かなうようにがんばっていけるように、書き換えてほしい。あの悔しがり方をしている彼らは、それを書き換えて次に向かえると思う」
好きなことを“やり切る”。社長と監督、全力投球の日々は続きます。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年7月30日放送)