「マイナ保険証 使われない理由はコレ」。
なんとも直球なタイトルの動画が、公開1日で6万回再生と話題を呼んでいる。動画はもう1本あり、「マイナ保険証トラブル頻発 これは無理やろ…」。こちらも公開1日で6万回再生。両方とも2日目には10万回再生に迫る勢いだ。
その内容は、「操作手順が多くて面倒」「カードリーダーの性能が低くて認証されない」「名前の漢字が文字化けする」など、マイナ保険証を利用した時のトラブルが分かりやすく説明されている。
なぜマイナ保険証の利用率があがらないのかが一目瞭然だ。
動画を制作した大阪府保険医協会と、脚本・演出を担当し、自ら出演もしている大阪府守口市・北原医院の井上美佐医師に話を聞いた。
・マイナ保険証 使われない理由はコレ
https://www.youtube.com/watch?v=faR8fckYa_Y
・マイナ保険証トラブル頻発 これは無理やろ・・
https://www.youtube.com/watch?v=j_EfKupPBXc
■内容はすべて事実。医療現場は本当に困っている…
【大阪府保険医協会】
大阪府保険医協会は、大阪府下の開業医6000人が加入している団体です。
先月、マイナ保険証に関するアンケート調査を行ったところ、「今年になってもトラブルがあった65%」「保険証廃止は反対90%」という結果になりました。
7月13日の大阪弁護士会主催のシンポジウムで、この結果を一般の方たちに向けて発表することになり、スライドを使った文字説明より、動画の方が分かりやすいと作成することになったのです。
動画の内容は、実際に医療機関で多く起こっているトラブル事例です。脚本・演出を担当したのは北原医院の井上美佐医師。出演は井上医師はじめ、会員の医師や、クリニックのスタッフの皆さんです。
■マイナ保険証での受付はスムーズにいって数十秒。保険証は1秒。
【北原医院・井上美佐医師】
政府が「マイナ保険証にすると待ち時間が短縮できる」と言ってスタートしたはずですが、現状は真逆です。
実際にうちの診療所で起こったことですが、マイナ保険証の受付を「顔認証」でやろうとして、「同意する」を3回押して最後まで来たのに「顔認証が出来ません」と。最初からやり直しとなり、また「同意する」を3回押して、それなのにまた最後で「顔認証が出来ません」。結局、3回、やり直してダメで、「顔認証が出来ません。暗証番号を入れて下さい」となりました。顔認証が出来ないなら、1回失敗した時点で暗証番号に誘導して下さいよと思いますよね。
カードリーダーは、「マスクや眼鏡を着用したまま認証を行うことが可能」なはずなのですが、実際は認証レベルが低く、顔認証が上手くいかないケースが多くあります。ご高齢の方などは暗証番号が苦手な方も多いので、大変、使いづらいシステムです。
そもそも、マイナ保険証での受付は、スムーズにできても数十秒はかかります。「あっという間に受付完了」などと言っていますが、従来の保険証なら受付に出すだけ、「1秒」です。
また、他にも、「漢字の文字化け」や「有効期限が表示されないなど」、患者さんだけでなく、受付スタッフの事務手続きの手間も増えてしまっています。
■受付スタッフを増員しなければいけなくなるかもしれない
マイナ保険証での受付は、「薬剤情報」「特定健診情報」「限度額情報」それぞれへの同意の有無の選択が必要ですし、初めて利用される方には医療機関スタッフの説明が必要です。
トラブル対応もあり、時間帯によってはスタッフが1人、かかりきりになってしまいます。
うちの診療所は、もともと受付3名体制ですが、マイナ保険証が始まってから人手が足りていません。スタッフからは増員の要望が出ています。
マイナ保険証の利用率が10%以下でこの状態ですから、今度、どうなってしまうのでしょう。受付スタッフにとっても、従来の保険証の方が有難いというのが本音です。
■不具合多発のカードリーダー 改善したらアナログに戻っている
カードリーダーのトラブル対策が色々なされていますが、デジタル化のはずが、改善したらアナログに戻っています。
例えば「顔認証」。
上手くできない場合の対策は、受付のスタッフが、マイナカードの写真と患者さんの顔を見比べて、機械を「目視モード」に切り替えるというもの。つまり人の目による確認。新たに付けた「目視モード」で、アナログ作業に戻りました。
そして、「何回も同意するのが面倒だ」との声に応えて追加されるのが「一括同意ボタン」。最初に「一括同意」か「個別同意」か、を選べるようになるらしいのですが、一括同意したくない人にとっては、ボタン操作が1つ増えることになります。
そして不思議なのが、「全て同意しません」というボタンがないこと。同意しない場合は、個別に「同意しない」ボタンを押す作業を行う必要があります。なぜ、「同意する」ことが前提なのか分かりません。
結局、だんだんややこしくなって、アナログに戻っていっていると思います。
(北原医院・井上美佐医師)
■「定期的に電源ON・OFFを」厚労省が対応策
「顔認証がしにくい」などの問題点は厚生労働省も把握しており、医療機関向けのポータルサイトで対応策の一覧を示している。
厚労省医療介護連携政策課は「一般的に、電源をいれっぱなしにすることで、不具合につながることがある。定期的に電源のON・OFFをするよう、対応策で示している。ひとつのネットワークに、複数の機器をつながないことも推奨している」と話す。
■「マイナ保険証」の紐づけ解除が10月から可能に!
【北原医院・井上美佐医師】
現在は、マイナンバーカードの保険証利用登録は、特別な事情(自治体の事務誤りで勝手に登録されたなど)がない限り、解除できません。
しかし、そもそも利用登録自体が任意で行われることなどを踏まえ、政府は登録後の解除を認めると方針変更しました。
現時点で詳細は未定ですが、解除に必要なシステム整備を10月末までに準備するとのことです。
■受診時の待ち時間が長いのは、受付ではなく診療の問題
マイナ保険証がまだ1割に満たない利用率であるということは、マイナ保険証をどのように利用するのか、知らない方が大多数であるということです。実際にどのようにトラブルが起こっているのかを映像で見てもらうのがわかりやすいと思って、この動画を作成しました。
マイナ保険証は、今の状態では圧倒的に従来の保険証に負けています。事務員の情報入力時の誤りが減るのはメリットかもしれませんが、それも「オンラインで提供される情報が正しければ」の話です。いまだに、住所・氏名違いや、資格取得日、窓口負担割合などの間違いが出てきます。
そもそも受診時の待ち時間が長いのは、受付が時間を取るわけではなく、診療時間の問題です。しかも、マイナ保険証での受付時間は、従来の保険証よりも長くかかります。
「より良い医療を受けられる」と言われていますが、「1カ月半以上過去の薬剤履歴」や「(誤って)他人の健康診断情報が出てくる」現状では、患者さんが持参する「お薬手帳」や「健診結果」を見るほうが、信頼性があります。
マイナ保険証強制は拙速です。私たちは従来の保険証の方が便利だしありがたい。既にマイナ保険証を使いこなしている方もおられると思いますので、従来の保険証を廃止するのではなく、少なくとも二本立てにしていただきたい。おのずから便利な方が主流になっていくと思います。
(北原医院・井上美佐医師)