【独自】「検察ナメんなよ!」見立てに合う『証言』強引に引き出す特捜部の実態 『取り調べ映像』入手 冤罪で会社を奪われた元社長「無罪を勝ち取っても、その時点で人生が終わっちゃう。冤罪はダメ」 2024年06月12日
■特捜部の「取り調べ映像」独自入手 検察官が厳しく『自白』迫る様子を記録
巨額横領事件で逮捕・起訴され、その後無罪が確定した大手不動産会社の元社長・山岸忍さんが国を訴えた裁判で、検察特捜部の取り調べ映像が史上初めて公開された。
そこには見立てにあった証言を強引に引き出す、特捜部の実態が映し出されていた。
11日裁判所の法廷で流れたのは、大阪地検特捜部が行った取り調べの一部を記録したおよそ48分間の映像。
弁護団によると特捜部の取り調べ映像が公開されるのは、司法の歴史上初めてのことだ。
■「私が『なるほど』って思える話が出てこないとおかしい」と検察官
関西テレビはその映像を独自入手。
映像には、特捜部の検事が巨額横領事件の捜査で大手不動産会社プレサンスコーポレーションの関係者に対し、厳しく自白を迫る様子が記録されていた。
【山岸さんの元部下K氏】「正直に全部ちゃんと話そうという姿勢で臨んでいます」
【田渕大輔 検事】「だとしたら私が欲しい話でなく、私が『なるほど』って思える話が出てこないとおかしいですよね。でも、今の少なくとも山岸さんに関する話って全然なるほどじゃないよ。本当に真実の話をしたら、なるほどって思う話になるはずなんです」
【山岸さんの元部下K氏】「そこは嘘は本当に言うつもりないので。正直に全部、その時のことをしゃべっているんで」
【田渕大輔 検事】「でもね、もうあえてぼくの今の心証を申し上げると、あなたが今回の事件で果たした役割って『僕は共犯になるんですか?』なんていうかわいいもんじゃないと思っていますよ。お金もらってなくても共犯になるんですか、なんてかわいいものじゃないと思っている」
■元部下の証言が決め手で逮捕されたプレサンス元社長 裁判で「無罪判決」
この取り調べで得た証言が決め手となり、プレサンスコーポレーション社長(当時)・山岸忍さんは逮捕された。
しかし、その後の刑事裁判で「関係者の供述は信用できない」として、山岸さんには無罪判決が下される。
この取り調べに一体、どのような問題があったのか。なぜ冤罪は生まれたのか。
■学校法人の土地取引 経営に関心のO氏が18億円借り入れ 理事長就任後 学校の土地売却し18億円の返済に充てる
事件は5年前、学校法人・明浄学院の土地取引を巡って起きた。
まず、学校経営に関心を示していたO氏が18億円もの大金を借り入れ、その金を使って理事長に就任。 その後、学校の土地を売却して、借り入れていた18億円の返済に充てた。
■山岸さんから18億円を借りたO氏 特捜部は山岸さんが『マンション建設の土地欲しさに金を貸した』と見立てをつけ捜査
O氏は、理事長就任に必要だった個人の借金を、学校の財産である土地を売った金で返済したことになるため、業務上横領罪が成立する。
では、18億円もの大金をどこから借りたのか。その出所が山岸さんだった。
特捜部は、山岸さんがこの横領計画を知っていながら『マンション建設の土地欲しさに金を貸した』という見立てをもとに捜査を進めた。
■横領計画を知りながら取引進めた山岸さんの元部下K氏 特捜部は「山岸さんが横領計画を知っていた」という証言をK氏から引き出すべく強引な取り調べを実施
山岸さんの関与を示す客観的な証拠も乏しい中で特捜部がこだわったのが事件関係者から「山岸さんは横領計画を知っていた」という証言を引き出すこと。
そこで重点的に取り調べを受けたのが、この土地取引の実務を担っていた山岸さんの部下K氏(逮捕、起訴の後、裁判で有罪判決)だった。
K氏自身は横領計画を知りながら取引を進めていたが、「山岸さんには伝えていなかった」と、取り調べに対して答えていた。
■「山岸さんには(横領計画を)伝えていなかった」と話すK氏に検事が強引な取り調べ
【田渕大輔 検事】「あなたは逮捕されてからきょうで5日目ですかね。根本的に何か発想が変わってなくないですか。自分のしたことは悪いことじゃないんだと。そう思ってないですかね」
【山岸さんの元部下K氏】「いや悪いことです」
K氏は逮捕前から密室で連日、任意での取り調べを受け、精神的にも肉体的にも疲弊していた。 そして、11日に公開された映像の前日には、大きな問題がある取り調べがあったことが、これまでの取材で明らかになっている。実際の映像を見た弁護団によると以下のような取り調べが行われていたのだ。
■K氏のデスクから押収のメモ「山岸さんは関与していない」と社内で口裏合わせした際の証拠だと検察官が主張
【田渕大輔 検事】「なんでこんなもの(K氏のデスクに残されていたメモ)があるの?いや知ってるでしょ。なんでこんなものがあるの?なんであるんですか?」
【山岸さんの元部下K氏】「社内の同僚に相談をしたからですね」
【田渕大輔 検事】「さっきしてないって言ったじゃん」
【山岸さんの元部下K氏】「はい」
【田渕大輔 検事】「で、なんであるの?なんで嘘ついたの?」
【K氏】「嘘っていうか同僚…」
K氏が言葉に詰まると、検事は右手を自分の顔のあたりまで振り上げ、振り下ろし手の平で机を1回たたき、言い放った。
【田渕大輔 検事】「嘘だろ!今のが嘘じゃなかったら何が嘘なんですか!」
検事は家宅捜索でK氏のデスクから押収したメモを「山岸さんは関与していない」と社内で口裏合わせした際の証拠だと主張。
■「検察なめんなよ!命かけてるんだよ」「かけてる天秤の重さが違うんだ」
【田渕大輔 検事】「もうさ、あなた詰んでるんだから。もう起訴ですよ、あなた。っていうか有罪ですよ、確実に」「命かけてるんだよ!検察なめんなよ!命かけてるんだよ、私は」「かけてる天秤の重さが違うんだ、こっちは」
検察が立てた「山岸さん関与ありき」の見立て。 それに合わない話をするK氏を検事はおよそ50分間、一方的に攻め立て、15分間は大声で怒鳴り続けた。
そして、その翌日。公開された映像にKさんが追い詰められていく様子が記録されている。
■「横領計画」を山岸さんに伝えていないとしたら「大罪人」だとK氏に迫る
【田渕大輔 検事】「あなたの場合、いきなり学校法人の貸付だっていう前提で話しているように聞こえるのね。それって普通の人がとる行為としておかしいでしょう。端からあなたは社長をだましにかかっていったってことになるんだけど、そんなことする?普通」
【山岸さんの元部下K氏】「しないですよね、普通は」
【田渕大輔 検事】「なんで、そんなことしたの。それ何か理由があります?それはもう自分の手柄が欲しいあまりですか。そうだとしたらあなたは、プレサンスの評判を貶めた大罪人ですよ」
検事は、仮に山岸さんに計画を伝えていないとしたら、事件を主導した「大罪人」だと迫る。
■「会社の損害背負う覚悟はできてるのか」見立てに合わない話は徹底的に潰す
【田渕大輔 検事】「これ例えば会社から今回の風評被害とか受けて、会社が非常な営業損害を受けたとか、株価が下がったとかいうことを受けたとしたら、あなたはその損害を賠償できます?10億、20億じゃすまないですよね。それを背負う覚悟で今、話をしていますか」
【山岸さんの元部下K氏】「まぁ、背負えないですよね。それは」
【田渕大輔 検事】「背負えっこないよね。そんな話して大丈夫?だから、あなたの顔が穏やかになりきっていないって見えるんですよ。見えるんですよ。見てわかるんですよ」
事件でプレサンス社が被った損害をひとりで賠償できるのかと脅し、見立てに合わない話は徹底的に否定にかかる。
■「悪い顔になってきているよ」 最終的に「山岸さんは横領計画を知っていた」と証言を変えたK氏
【田渕大輔 検事】「だんだん悪い顔になってきているよ」
【山岸さんの元部下K氏】「いや悪い顔じゃないです。本当に悪い顔で説明するつもりないです」
【田渕大輔 検事】「いやいやだって、おかしいじゃない。普通に考えて」
【山岸さんの元部下K氏】「じゃあ、もしかしたら私の勘違いだとしたら、すみません。ぼくはそういう風に自分では説明したと思い込んでいるのか」
【田渕大輔 検事】「どういうふうに」
【山岸さんの元部下K氏】「いや、その移転、移設するために学校に出してくれっていう話を自分がしたと思っているんで」
【田渕大輔 検事】「それはね、後からそういう形で説明したということにしようとしていただけなんじゃないの、みなさんが。山岸さんに対する説明はそういう体でやっていたんだってことにしていただけじゃないの」
【山岸さんの元部下K氏】「そこは本当に」
【田渕大輔 検事】「だって、スタートがやっぱりおかしいじゃない。どう考えてもおかしいですよ」
結局この後、Kさんは「山岸さんは横領計画を知っていた」と証言を変え、それが山岸さん逮捕の決め手になった。
■無罪判決で強く非難された「検察の取り調べ」
まさにこの部分は無罪判決の中でこう指摘されている。
【大阪地裁 坂口裕俊 裁判長(当時)】「必要以上に強く責任を感じさせ、その責任を逃れようと真実とは異なる内容の供述に及ぶ強い動機を生じさせかねない」
検察の取り調べは、厳しく非難された。
■「自白をとらないと評価されないというのが透けて見える。組織の構造的な問題」と弁護士
【山岸さんの主任弁護士・中村和洋 弁護士】「彼がなぜあそこまで尋常ではない取り調べをしたのか。何かこう焦って自白をとらないといけない。それがそうしないと評価されないというものが全体的に透けて見える。あれは個人の資質の問題ではなく、やっぱり組織の構造的な問題だと考えるのが自然」
■「使った言葉に不穏当な言葉はあった」「(同じような取り調べは)まずしないと思う」と検事
11日、取り調べの映像が法廷で公開された後、実際に取り調べを行った田渕検事が法廷に呼ばれ、尋問を受けた。
【代理人弁護士】「K氏が真摯に向き合っていないから、そういう取り調べ(机をたたく、大声で怒鳴る)をしたんですか?」
【田渕大輔 検事】「言葉だけでは進まないと思い、挙動も混ぜたほうが誠実に向き合っていることが伝わると思ったので」
【代理人弁護士】「取り調べに反省すべきところはありましたか?」
【田渕大輔 検事】「使った言葉に不穏当な言葉はありました」
【代理人弁護士】「また同じような取り調べをしますか?」
【田渕大輔 検事】「まずしないと思う」
当時の取り調べに関して、「K氏が真摯に取り調べに向き合わなかったこと」を繰り返し理由にあげた一方で、一定の問題があったことを自ら認めた田渕検事。
また尋問を行った弁護士に対し、こんな発言も…
【田渕大輔 検事】「そんな怖い顔で聞かれても…」
【代理人弁護士】「怖い顔をしてないし、私とは距離もあるし、机もたたきませんよ」
■無罪判決について「残念な判決」と検事
この発言の後、法廷に立った山岸さんは田渕検事に「K氏はあなたの取り調べを怖いと感じていたと思うか?」と聞いた。
【田渕大輔 検事】「K氏に聞かないと分からないが、私は少なくとも腹の座った方だと思っていました」
そして、一連の取り調べで得たK氏の供述は「信用できない」として山岸さんが無罪となったことについて田渕検事は「残念な判決。有罪維持に十分だと思っていた。K氏の信用性も否定されたので」と語った。
尋問は11日を含めて3日間に分けて行われ、当時捜査を主導していた主任検事も法廷に立つ予定だ。
■「無罪を勝ち取ったとしても、その時点で人生が終わっちゃう。だから冤罪はダメ」
原告の山岸さんは、プレサンスコーポレーションの社長も辞任せざるを得なくなったが、今はまた新しい不動産会社を立ち上げ、新しい人生を前向きに歩んでいる。
山岸さんは、この裁判にかける思いについて「私は元気で、毎日幸せに仕事もしている、趣味もやって生きている。でもそんな人って珍しい。無罪を勝ち取ったとしても、その時点で人生終わっちゃう。だから冤罪ってだめなんですよ。私みたいな立場の人しかこんな活動はできないんではないかと思っています」と語った。
2度と冤罪を生まないために、検察はどうこの問題に向き合うのか。 その姿勢が試されている。
(関西テレビ記者 赤穂雄大)