話し言葉が滑らかに出ない「吃音(きつおん)」への理解を、教育現場で深めてもらいたい。
吃音を持つ教員志望の若者たちと、現役の教員たちが交流するイベントが、大阪府八尾市で開かれました。
■同じ境遇の子どもたちに安心して学校生活を送ってもらいたい
「起立…気をつけ…礼、着席」
5月30日、八尾市内の小学校で開かれた「号令に時間がかかる教室」。
「将来の目標なんですけども、えっと…、学校の先生になって…、子供たちにとって…過ごしやすい学校の環境を作るきっかけになることを目指しています」
現役の先生たちが見守る中、教師役として教壇で話すのは、大学4年生の藤原実緒さん(21)。「吃音」を抱えながら、教師になることを目指しています。
吃音は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害のことで、日本には、100万人以上いると言われています。
【藤原実緒さん(21)】「私は、音読や発表がうまくできないってことを先生方と相談していたんですけど、その際に、やっぱり…『場数を踏んだらいけるよ』とか、『慣れは必要だよ』とか、『ゆっくり話したら大丈夫』と言われたんですけど、これはもちろん私のことを思って、アドバイスしていただいていたと思うんですけれども、私はその言葉によって、自分の症状があんまり分かっていただけてないのかなと思って、すごくつらかったなと感じています」
「吃音がある人の中には、先生やクラスメイトから、心無い言葉をかけられたことがある人も少なくはありません。もちろん、全、全部の学校という訳ではない…、ないんですけど、やっぱり今の…今の学校であったりとか、教員を育成する場においても、吃音に対する理解が広がっていない場合がまだまだあるんじゃないかなと私は感じています」
大学で、担当教員から「教師を目指すのは考え直した方がいい」と言われたこともあるという藤原さん。つらい経験があったからこそ、同じ境遇の子どもたちに安心して学校生活を送ってもらいたいと考えています。
■「ゆっくりでいい」はプレッシャーになるときも、安心するときも 「相手に聞くことが大事」
この日は、吃音のある教員志望の若者たちと、現役の先生たちによるグループワークも行われました。
【現役の先生】「『ゆっくりでいい』っていうのは嫌?」
【吃音のある教員志望の人】「嫌じゃないと思うんですけど、本人は落ち着いてる…んですよ。焦ってることなくて…落ち着いてて、めっちゃ、落ち着いてるんですけど、言葉が出ないから、ゆっくりでいいよ”っていうのはちょっと違うのかなと」
【現役の先生】「状況が違うから、『気持ちを分かってもらえへん』になるんやね」
「ゆっくりでいい」という言葉が、反対にプレッシャーを与えてしまうのではという意見もあれば…。
【藤原実緒さん(21)】「商品の受け取りに行ったんですけど、注文番号の藤原ですって言いたかったんですけど、全然言えなくて、ずっと黙ってしまったので、店員さんが『ゆっくりで大丈夫です』って言ってくださって、店員さんも全然イライラしてないって思って、私自身すごくうれしかった」
【現役の先生】「『ゆっくりで大丈夫』って言われるのも、時と場合によるっていう感じなんですね」
接し方は、人それぞれのようです。
【参加した教員】「自分が配慮してると思ってたことが、実際は違ったりとか、気を遣っているつもりで、傷つけてたということもある。これから一層、聞いてあげることが大事」
自身も子どものころに吃音の症状があったという八尾市の教育長は…。
【八尾市 浦上弘明教育長】「人の人権を尊重する、そういう気持ちをしっかり子供たちに学んでもらう。そういう気持ちをしっかり持つような先生に、あの子らはなれると思う。なんでかと言ったら、自分がそういうハンデを持ってるから。だから、そういう方ほど先生になってほしい」
■プレゼンを終えて…「ずっと教師を目指します」
「ありがとうございました」
今回、現役の先生たちの前で初めてプレゼンをした藤原さん。
緊張のあまり、いつもより症状が強く出てしまったことを悔しがっていました。
【藤原実緒さん(21)】「本当に教師になれるのかっていう思いが、全くないというわけではないんですけど、当事者である自分が教師になることで、当事者にしか見えないものであったりとか、持てない視点とかもあるかなと思うので、当事者である自分が教師になることが意味があるということを信じて、ずっと教師を目指しています」
(関西テレビ「newsランナー」2024年6月5日放送)