ひと目見ただけでは分からない障害に悩む人がいます。
そんな「見えない障害」について知ってほしい…。当事者の思いを伝える1日限りのイベントが開かれました。
■「難しいことができない」障害…新たな居場所作り
神戸市東灘区にある「オッサンズ珈琲KOBE」。
この店のオーナーは、難しいことをするのが人より苦手です。
【友村一紀さん】「基本、私ブレンドは好きじゃないんです。考えることが難しい。1つの豆に対して焙煎するのはいいんですけど、3つ(の豆を)ブレンドしてどんな味になるか考えること自体がしんどいので」
友村一紀(かずのり)さん(52歳)は、2016年に脳梗塞を発症。手術は成功しましたが、後遺症として「高次脳機能障害」が残りました。
手術直後は後遺症に気づかず、なぜかお金の計算ができない、字が書けない、怒りっぽくなったなどの症状が現れ、仕事を続けられなくなりました。
【友村一紀さん】「『あれ?』って、後輩に『これ抜けてます』(と言われた)。『え、なんでやねん』って見たら、最初は分からないけれど、よく見たら抜けてる」
【友村さんの妻・朱美さん】「よくキレてた。怒りっていうのは全て他人に、こちらに向かうんです。全ての感情が全部、2倍から3倍になるって感じです」
2年間、原因も分からず、家族仲も悪化して家庭崩壊寸前に。
そんな中、記憶力が落ちたり、複雑なことが考えられなくなったりする「高次脳機能障害」と診断されたのです。
診断されてからは、新たな居場所を作ろうとコーヒーの勉強をしてカフェをオープンしました。
■人前で話せない少女 “お菓子作り”で社会とつながる
本人も周りも気づかない「見えない障害」。そんな障害への理解を広めようと、友村さんはコラボイベントを開きました。
この日、友村さんが招待したのは別の「見えない障害」と向き合う少女。「みいちゃん」こと、高校生パティシエの杉之原みずきさん(16歳)です。
みいちゃんは場面かん黙症という、特定の人と特定の場所でしか話せなくなる不安障害があります。
また、みいちゃんは話せなくなるだけではなく、動けなくなることもよくあります。
そんなみいちゃんが自分を表現できるのは、大好きなお菓子作り。手作りのケーキの写真をインスタグラムに投稿したところ、たくさんの“いいね”やコメントが来ました。
“お菓子作りを通して社会とつながることができる”。みいちゃんはみんなを笑顔にするパティシエになるという夢を描き、4年前にケーキ店を開きました。
人前では話せないみいちゃん。LINEで会話して作業を進めていきます。
【みいちゃんの母親 杉之原千里さん】「思いがかぶる部分がすごくあるので。(障害が)見えてない人のほうが生きづらいんですよね。お互いに分かっている間柄なので、言葉はいらなくて、目標とか志が同じなのがすごくやりやすいです」
イベント当日の午後2時、続々とお客さんが入ってきました。
みいちゃんが用意したのは、この日のために考えた特製プレート。ケーキにはクマの顔も添えられています。
自分の思いはお母さんを通して伝えてもらいます。
【みいちゃんの母親 杉之原千里さん】「ショートケーキはトレードマークのクマさん。声でコミュニケーション取れないので、顔を描くことが多いんです。あの子のメッセージなのかなと思っています」
【訪れた客】「すごくかわいい」
【訪れた客】「甘さ控えめですごくおいしかったです」
【みいちゃんの母親 杉之原千里さん】「洗練されたプロのパティシエが作ったケーキもあるけど、そこを目指してないから。心に届く、この子はそういうものを作れるので」
■同じ障害を持つ人同士のつながりも
訪れたお客さんの中には、友村さんと同じ高次脳機能障害の女性もいました。
【高次脳機能障害の女性】「一番最初に来た時は自分が分かっていない、自分探しで。人に勧めていただいて(ここに)来て、ここでいろんな方と情報交換すると『私だけじゃないんだ』とか」
また別の高次脳機能障害を持つ女性は、障害の特徴について友村さんと話していました。
【高次脳機能障害の女性】「帰ってきたら忘れたりしてません?これやってて、これやってて。もしこれが終わってたらいいけど、中途半端に終わって、でもこっち(別のことが)終わったら、中途半端やったっていうのをもう忘れて」
【友村一紀さん】「そうそう、これ持って飲んでると、ふっとすると、もう忘れてる。えっと何してたかな、みたいな感じで」
【高次脳機能障害の夫を持つ女性】「当事者じゃなかったら分からないから。もともとこういう性格なのか、病気のせいでこうなってるのか、いつも考える」
【高次脳機能障害の女性】「病気のせいです」
【高次脳機能障害の夫を持つ女性】「全部が全部、病気のせいなのかな」
みいちゃんと同じ「場面かん黙症」の中学生、りのあさん(12歳)もカフェに訪れていました。
【りのあさんの母親】「今日はがんばってしゃべってるんですけど。物を作ることで表現している子なので。みいちゃんはケーキですけど、(娘は)絵を描いたり、こういうのを作って自己表現を」
【みいちゃんの母親 杉之原千里さん】「それでいいのよ。声が必要な時がまた来るかもしれないけど、みいちゃんもまだそこは、今じゃない。この先どこかで声が必要な時に声を使ったらいいし、それまではこういう手段でいいと思うし」
りのあさん、手作りの品をみいちゃんに渡します。
【りのあさん】「幸せの『シロフクロウ』です」
がんばって声を出すことができました。
Q.みいちゃんの働きぶりはどうでしたか?
【友村一紀さん】「すごくできてる子。すごく集中力があってすごいなと。私もやりたいけど無理。疲れるから」
Q.いいイベントになりましたか?
【友村一紀さん】「なりましたよ、すごく」
【友村さんの妻・朱美さん】「私はまず、こういうことがある、そういう障害がある。“見えないけど障害者”であるっていうのは知っていただけたらなと。だから、電車で乗り合わせた隣の人がそうかもしれないっていう想像力はいつも持ってほしいなっていうのは思います」
イベントに訪れた高次脳機能障害の女性に、握手を求められたみいちゃん。
【高次脳機能障害の女性】「握手していただいてもいいですか。また、おいしいの楽しみにしてるね!」
いつも無口。難しいことができない。そんな「見えない障害」。
当事者ではない人たちが想像力を働かせるだけで、誰もが生きやすい社会につながるのではないでしょうか。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年4月22日放送)