旧ジャニーズ事務所の新会社が本格的に始動しました。 ジャニー喜多川氏による性加害を多くの人が訴えてから約1年。被害者への対応はどこまで進んだのでしょうか。
10日、午後6時から、旧ジャニーズ事務所から新たに設立された会社「スタートエンターテインメント」に所属するタレントたちが初めての大型ライブを行います。また、人気アイドルグループの「嵐」は10日朝、新しい会社の設立を発表しました。
まさに、「再始動」を切る中、約1年前、旧ジャニーズ事務所のジャニー喜多川元社長による性加害を、先駆けて報道したイギリスの公共放送が、続編となるドキュメンタリーを制作し、スマイルアップの東山紀之社長の単独インタビューを公開しました。
■東山社長の元マネージャーが性加虐待 BBC記者は「スマイルアップが責任逃れをしている」と指摘
BBCの単独インタビューに応じた、スマイルアップ=旧ジャニーズ事務所の東山紀之社長。
【東山紀之社長】「なぜこんなことをしてきたのかな。たくさんの人たちを傷つけて…非常に罪な人だなと思っています」
取材したモビ―ン・アザー記者に話を聞きました。
【モビーン・アザー記者】「東京の事務所で感じたのは、会社全体がパニック状態にあるということ。それもそうで、この会社は何十年もこの問題から目を背けてきたのですから」
インタビューの中で性加害に及んでいたのは、ジャニー喜多川氏だけでなく、複数人いたことが初めて明らかになりました。
【モビーン・アザー記者】「私たちは元Jr.の方と話をしました。この方は別のスタッフによる性的虐待があったと承知していると話しています。そう指摘されていることはご存じですか」
【東山紀之社長】「僕がいま聞いているのは2人と聞いています」
FNNのその後の取材で、加害者の1人は、東山社長の元マネージャーだったことがわかりました。
大阪府に住む二本樹顕理さんは、ジャニーズJr.だった13歳の時に、ジャニー氏から性被害を受けました。
【元ジャニーズJr.二本樹顕理さん】「私が在所していた当時から、マネージャーも性加害を行っているという噂はありまして、どこか2人っきりになるような場所に連れて行かれたりとか」
マネージャーは当時、事務所に所属していたジャニーズJr.全員のスケジュール管理などを行い、ジャニー氏とともに、「子どもたち」と密接に関わる立場にありました。
【元ジャニーズJr.二本樹顕理さん】「やはり組織の環境の中に、そうしたものが許容されてしまう、そういう空気があったのではないかなと思います。とてもじゃないですけれども、子どもたちに安全な環境であったとは言えないと思います」
BBCのアザー記者は、2人の加害者への対応を東山社長に追及しますが…。
【モビーン・アザー記者】「その人たちによる、虐待の疑いと、社内調査の結果は、刑事手続きの対象になりますか」
【東山紀之社長】「私たちの方では考えておりません」
【モビーン・アザー記者】「ただ常識としてその情報は、警察に提供する必要がありませんか」
【東山紀之社長】「法的なことを考えると、僕らには権限がないと思いますので、その当事者の人たちがそれに対して刑事告訴をしたら、僕らとしては全面的に協力するということになるとは思います」
性犯罪については2017年の法改正で、被害者が告訴しなくても、提訴ができるようになりました。
アザー記者は、警察に情報提供をしないのは責任逃れだと指摘します。
【モビーン・アザー記者】「十分な対応とは言えないでしょう。被害者が家族や友人に被害を打ち明けることは難しいことです。ましてやそれを警察に話し、捜査を促すことは大変困難です。(スマイルアップは)もっと積極的な対応を取るべきですし、加害者は捜査を受け、その結果を受け入れるべきです」
■ネット上の誹謗中傷は「言論の自由」と東山社長 「被害者に向き合えていない」現状
また、ネット上で相次ぐ誹謗中傷も深刻な問題です。
2023年10月には、性被害を告発した男性が大阪府箕面市の山の中で発見され、死亡が確認されました。性被害のトラウマに、誹謗中傷が加わり、二重の苦しみで自殺したとみられています。
【モビーン・アザー記者】「虐待のサバイバーに向かって、『お前はうそつき』などとオンラインで書き込むような人たちに、あなたからいま直接呼びかけてもらえますか」
【東山紀之社長】「言論の自由もあると思うんですね。僕は別に誹謗中傷を推奨しているわけでもなく、多分その人にとってはそれが正義の意見なんだろうなと思うときもあります」
約30分にわたり行われた単独インタビュー。
被害者支援を最優先に取り組んでいるという東山社長と直接話すことで、どのような実態が見えたのでしょうか。
(Q.性加害という歴史を抱える会社として、被害者に対する償いを果たせているのでしょうか?)
【モビーン・アザー記者】「ジャニーズ事務所が解体したことについては進歩だと思います。ジャニー喜多川の顔が日本文化から消えようとしている。しかし、被害者に対しての償いができているとはいえないと思います。スマイルアップは、広報活動やイメージアップを優先しています。会社として、引き起こしてしまったことの重大さや、どれだけの人に影響を与えたかということに、向き合えていないことが明白です」
■被害者に取材を提案 被害者は「いま被害を訴えている人たちは、うそをついている」
新会社も本格始動していますが、被害者に寄り添う姿勢について…
【関西テレビ・加藤さゆりデスク】「スマイルアップはもともと補償のみを行うための会社です。補償が終わったら速やかになくすと言っていたので、そこが最優先されるべき。BBCのインタビューにあったように警察に情報提供をしない、誹謗中傷をしている人のことを正義と言ってしまうところを見ると、本当に被害者の立場に立って補償をしようとしているのか、かなり疑問が生じる」
アザー記者は、「スマイルアップがイメージアップを優先している」と、指摘していましたが取材の中で、こんな場面があったそうです。
今回の取材の中で、スマイルアップがBBCに対して、被害者取材を提案してきたそうです。
その内容というのが、アザー記者は3人の被害者に話を聞くことになりましたが、実はスマイルアップ側が連れてきた被害者3人ということでした。
さらに同じ場に広報担当と弁護士もいて、アザー記者が広報担当と弁護士に退出してほしいと願い出ましたが、「それはできない」と断られてしまいました。
取材を進める中で、3人の被害者からは「いま被害を訴えている人たちは、うそをついている」という発言があったそうです。発言に対して、アザー記者が「スマイルアップの広報戦略では?」と尋ねると、回答を拒否されたということです。
スマイルアップの対応を見ていると、疑問に感じる部分が多いですね。
ジャーナリストの鈴木哲夫さんは「最大のイメージアップは全てを正直に語ること、隠さずにやること、全てを補償すること。誹謗中傷については『やめろ』ということ。他にも加害者がいたのであれば社として調べて告発する。つまり全てをさらけ出すことが一番イメージを変えていくことになる。危機管理そのものの失敗」と話します。
スマイルアップは、誠心誠意、補償に取り組むとしていますが、被害者は不信感をあらわにしています。
(関西テレビ「newsランナー」2024年4月10日放送)