大阪地検特捜部に逮捕・起訴され、その後の裁判で無罪になった大手不動産会社の元社長が3年前に国を訴えた裁判。
検察の起訴が違法だったのかどうか、21日大阪地裁が判断を示しました。
■国の責任を訴えた裁判は思わぬ結果に 「想定外でちょっと困惑している」
【山岸忍さん】「こういう判決になるとは全く思っていませんでしたので、想定外でちょっと困惑している」
判決のあと、そう心境を語った山岸忍さん。自らを冤罪に追い込んだ国の責任を訴えた裁判は思わぬ結果となりました。
【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「なんで嘘ついたの」
【山岸さんの元部下 Kさん】「嘘っていうか同僚…」
【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「嘘だろ。嘘をついて、まだ言い訳するなんて!ひどいだろ!」
これは大阪地検特捜部の取り調べの実際の様子です。なぜ、このような取り調べが行われたのか、ことの発端は6年前にさかのぼります。
■無罪判決が確定した後 山岸さんは国家賠償請求訴訟を起こす
不動産会社プレサンスコーポレーションの社長だった山岸さんは、マンション用地として魅力的だった学校法人の土地を取得するため、学校が移転するための費用として必要だった18億円を、法人に貸したつもりでした。
しかし、特捜部は山岸さんを学校法人の理事長らと共に横領事件を企てた共犯者と見ていました。
【山岸忍さん】「普通、横領されるのをわかってて(金を)貸す人いないですよね。例えばお金に困ってて、何かに困ってて、というのなら分かりますけど。私、当時会社の業績も、うなぎ上りですし」
逮捕された山岸さんは一貫して関与を否定し続け、大阪地裁で下された判決は「無罪」。
無罪判決が確定した後、山岸さんは”冤罪を生んだ捜査の実態”を明らかにするため国家賠償請求訴訟を起こしました。
その裁判の過程で裁判所は次々と異例の判断をします。そして、冤罪を生んだ検察の実態が明らかになっていくのです。
■山岸さんの元部下から「山岸さんは横領に関わっていた」と供述を引き出そうとする検事
異例の判断1.
現役検察官の証人尋問 今回の冤罪事件において最も大きな問題とされたのが、山岸さんの元部下から「山岸さんは横領に関わっていた」との供述を引き出そうとしたことでした。
この取り調べは検事が机を叩き、大声で怒鳴るなどしたものでした。それを行った検事が法廷で追及を受けました。
【原告代理人弁護士】「K氏が真剣に向き合っていないから、そういう取り調べ(机をたたく、大声で怒鳴る)をしたんですか?」
【田渕検事】「言葉だけでは進まないと思い、挙動も混ぜたほうが誠実に向き合っていることが伝わると思ったので」
さらにこんな発言も。
【田渕検事】「そんな怖い顔で聞かれても…」
【原告代理人弁護士】「怖い顔してないし、私とは距離もあるし、机もたたきませんよ」
ただ、この時点では検事の問題の取り調べの映像はまだ公にはなっていませんでしたが…。
■検察の取調べ映像公開 「なめんじゃないよ!いい加減なこと言っちゃダメだろ!」声荒げる検事
異例の判断2.
検察の取調べ映像公開 検察は裁判で取り調べ映像の開示をかたくなに拒んできましたが、去年10月、最高裁が初めて映像の開示を命令。特捜検事の取り調べの実態が初めて国民の目に触れることになったのです。
【田渕検事】「どんな功績があるんだよ。どこにあるんですか」
【山岸さんの元部下 Kさん】「その時…ちょっと今、勘違いしました」
【田渕検事】「なめんじゃないよ!いい加減なこと言っちゃダメだろ!なんでそんないい加減な説明するんですか!」
【山岸さんの元部下 Kさん】「そこは勘違いしました」
【田渕検事】「勘違い?違うでしょ?場当たり的な弁解をしているだけじゃないか!」
このような取り調べの結果、Kさんは検察側の見立てに沿った山岸さんの関与を認める供述をしました。
これについて検察は、「取り調べは違法ではなく説得の範囲にとどまる」と主張していました。
■大阪地裁は国に賠償責任はないという判断 「原告の請求を棄却する」
異例づくめの展開を経て迎えた21日の判決。
【大阪地裁・小田真治裁判長】「原告の請求を棄却する」
大阪地裁は、国に賠償責任はないという判断を下しました。理由として「元部下Kさんが、取り調べ検事に精神的に支配されていたわけではなく、検事の威迫により虚偽供述をしたことが明らかとまでは言えない」と指摘。
「山岸さんに対する起訴が、批判を受ける部分があることは確かだが、国家賠償法上違法ではない」と結論付けました。
■山岸さん「裁判所は検察官の違法行為を擁護 また第二、第三のプレサンス事件が起こる」
【プレサンスコーポレーション元社長山岸忍さん】「私はこの裁判を、検察庁に自浄作用が全くないものですから、裁判所に検証してほしいなと(思って起こした)」
「だけど、きょうの結果を見ると裁判所は検察官の違法行為を擁護している。こういう状態であれば、この国から冤罪というものはなくならないと思います。また第二、第三のプレサンス事件が起こると思います」
山岸さんは控訴する方針です。
(関西テレビ「newsランナー」2025年3月21日放送)