寝る時に使う枕、みなさん、それぞれ好みの高さがあると思いますが…最新の研究で、枕の高さが高いと、脳卒中のリスクが上がることが分かりました。
■12センチ…高すぎる枕は脳卒中リスクがある?
1日最低9時間は眠るという大谷翔平選手は、イメージキャラクターを務める寝具メーカーの動画で、好みの枕について、「柔らかいのが良くなってきました、最近」と語っています。
大谷選手もこだわる枕…その枕を巡って、国立循環器病研究センターのチームが、「殿様枕症候群/Shogun pillow syndrome」に注意してほしいと、1月、警鐘を鳴らしました。
令和のいま、「殿様枕」で寝る人はあまりいないように思いますが、研究チームによると、影響するのは枕の高さです。
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「12センチぐらい、高すぎるのは使うのやめた方が、もしかしたら、脳卒中の1つの椎骨動脈解離は減らせるかもしれない」
研究によると高い枕で寝る人ほど、「特発性椎骨動脈解離」という、首の後ろの血管が裂ける病気の発症リスクが上がるといいます。
■「特発性椎骨動脈解離」の患者の34%が高い枕を使用していた
研究チームが「特発性椎骨動脈解離」の患者53人が、使っていた枕の高さを調べたところ…
12センチ以上、15センチ未満の高い枕を使っていた人が9人、15センチ以上の極端に高い枕を使っていた人が9人いて、合わせて全体の約34%を占めました。
他の対照群とも比較を行った結果、高い枕を使っている人ほど、発症リスクが上がることが示唆されたのです。
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「流通している枕の中で、一番高い部類なのは12センチで、さらに僕らが見つけた患者さんとかは、『枕二段重ね』とかにしていた」
高い枕を使ったときに首が曲がることで、骨の中にある血管に大きな負荷がかかるということです。
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「あんまり、きつい体勢を取ると、椎骨動脈ってすぐつぶれちゃうんで、血流が脳に行かなくなって、すごいめまいとか、吐き気とかを起こしたりする」
■オーダー枕店を取材、理想の枕の高さは「寝たときの視線が真上か、真上よりすこし下」
オーダー枕の店「じぶんまくら」を取材しました。
【店長】「人間って上向きだけじゃなく、横向きもするんで、1日平均20回くらい寝返りするんですね」
【女性客】「きょうはいつもの枕のメンテナンスに来た」
この店では姿勢や骨格から、自分に合う枕の高さを測定するなど、”じぶん”だけの枕を作ることができ、オーダー枕の売り上げでギネス世界記録に認定されています。
【じぶんまくらイオンモール堺北花田店 花谷圭司店長】「昔は、高い枕か低い枕しか、なかったというのもあり、どの枕がいいんだろうということで、お客さまからすると迷われる方がいる」
理想的な枕の高さは、寝たときの視線が真上になるか、真上よりすこし下あたりになるのが目安だということで、高すぎる枕は推奨していません。
【じぶんまくらイオンモール堺北花田店 花谷圭司店長】「枕って身近にあるものなんですけど、1番ちょっと難しいものかなとは、やってても思いますね。(Q.ご自身の枕は「殿様枕」ですか?)昔はそうだったんですけど…。昔は肩こりとか、いろんな症状ありましたけど、低くなりましたね」
■若い世代でも見られる「特発性椎骨動脈解離」
理想の枕とはどんな枕なのか…国立循環器病研究センターの脳神経内科医師で 『殿様枕症候群』による脳卒中リスクを提唱された江頭柊平医師に聞きます。
ちなみに江頭医師の枕の高さはどれぐらいですか?
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「私は低いのが好きで、通気性の良いペラペラのやつ使っています」
枕の高さには好みがあると思い、事前に視聴者の皆さんにLINEアンケートを取りました。
寝る時の枕の高さは高いが40%、低いが56%、使わないが4%という結果でした。
江頭医師によると「高くて硬い枕は要注意」ということで、「殿様枕症候群」と名付けて、脳卒中の発症リスクへの警鐘を鳴らしています。
研究のポイントは脳卒中の一因とされる、「特発性椎骨動脈解離」という、首の後ろの椎骨動脈が裂けるという症状の病気です。若い世代にも見られ、原因不明であることも多いそうです。
特発性椎骨動脈解離で首の後ろの椎骨動脈が裂けると、どのような影響があるのでしょうか?
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「血管が避けると、もろくなってしまうので、もろくなったところが膨らんで、脳の中で出血を起こしてしまったり、あるいはその破れた所に血の塊がついて、それが脳の方に飛んで脳梗塞を起こしたりします。大体18%ぐらいの人が後遺症が残ると言われていて、ただ根本的な治療がないので、その予防のための原因解明が研究の目的でした」
■12センチは高い、高い枕は血管への負担が大きくなる
江頭医師らはこの「特発性椎骨動脈解離」の入院患者を診ていたところ、枕の高さが高いことがわかり、研究を始めたということです。
枕の高さに注目し、12cm以上の枕を「高い」、15cm以上の枕を「極端に高い」と分類し研究・分析を行いました。
・枕が高いと首が大きく曲がり、血管への負担が大きくなる。
・寝返りで首が回るときなどに血管が傷つく可能性がある。
ということが分かりました。
枕が高いことで血管への負担が相当大きくなるということですか?
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「もちろん全員ではないですけど、患者さんの中で調べたときに、枕が高ければ高いほど、この病気の発症リスクが高くなるということを今回示しました。追加で、過去の研究からは、椎骨動脈、首の後ろの動脈は、首を前に曲げた姿勢のまま、左右に廻旋する方向に力が加わった時に、負担が大きくなると言われています。そのため、僕らは高い枕を使用中に寝返りで廻旋したときに、発症するのではないかと考えています」
■江戸時代の文献には「寿命三寸楽四寸」と枕について言及が
江頭医師らの研究チームが「殿様枕症候群」と提唱していますが、この名前の由来は江戸時代のある文献からきているそうです。
そもそも殿様枕というのは、時代劇などで見たことがあるかもしれませんが、まげを結っていたり、日本髪をしていたり、髪形が崩れないため便利で庶民でも流通していました。
驚くべきことは、江戸時代に枕の高さに対して言及がなされていて、江戸時代の文献には「寿命三寸楽四寸」と表現されています。これは「12センチ(四寸)程度の高い枕は髪型が崩れず楽だが、9センチ(三寸)程度の枕が早死にしなくて済む」という意味だそうです。
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「今回、われわれも驚きました。こういう研究をする上で、今まで言われてきたことも、たくさん調べます。その中で江戸時代の1800年代の複数の文献で、この『寿命三寸楽四寸』という言葉がいっぱい出てきました。もちろん脳卒中や椎骨動脈解離は、当時診断できませんでしたが、突然発症して、突然若くして亡くなってしまう病気でもあります。もしかしたら、150年前の江戸時代の人たちが、高い枕を使っている人の間で、突然若くして亡くなる人が多いということを、感覚的に認識していたのではないかと考えています」
■理想の枕とは…高すぎないもの 高くても柔らかく首への負担が少ないものを
枕の高さがどれぐらいがいいのかというのは、実感は持っているのかもしれないけど、好みがあるものです。
【関西テレビ 加藤報道デスク】「ちょっと気になるアンケートがあります。枕に満足してますかというアンケートに、6割がやや不満・不満と訴えていて、あまり皆さんわかってない。私自身も、何が正しいのかわからないまま使ってるので、どれがいいのかというのは、本当に聞きたいです」
ではどんな枕が具体的にいいのか教えてもらいます。
首の負担軽減が大切なので、どうしても高い枕がいい人は…
・せめて柔らかい素材の枕を
・肩にタオルを入れる
・肩、首を支える専用枕
などを使うといいそうです。
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「最初にお伝えしたいことが、われわれが示したのは、極端に高い枕を使うのが良くないということで、頭ごなしに高い枕が絶対ダメだと言っているわけではないということです。もちろん好みは、人それぞれですし、低いとどうしても睡眠時無呼吸といって苦しくなってしまったり、首が痛くなってしまう人が、いっぱいるということも今回、調べて分かりました。ただ極端に高すぎる枕はよくないから止めてほしいということと、もし色んな事情で、高い枕を使いたい時は柔らかくすると、その効果がいくらか緩和されるとことも、今回データで示されました。あとは首の屈曲が良くなさそうだということも示せたので、高くしたいときは、肩に何か入れて、緩やかなスローブみたいにして、首の負担軽減をしていただくのがいいと考えています。人間は人生の3分の1の期間寝ているので、ベストの自分に合う枕をしっかりこれを機に探してもらえたらというのが、今回の私たちのメッセージです」
肩と首を支える専用の枕は、売り出されているのでしょうか?
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「今いろんな企業が、肩から首までフィットするような形で作られています。僕らの示した観点から言うと、そんなに悪くないんだろうと思っていて、というのも、首が曲がって廻旋するのがきっと良くないので、フィットしていたら、あんまり首が動かないのではないかと。首への負担も少なからず絶対減っているはずなので、あれはいいのではないかと個人的な感想としては思います」
■こたつでのうたた寝は要注意 無理な体勢を続けない
視聴者からLINE質問が来ています。
‐Q:横向きや、あお向けなど、どの体勢に合わせて枕を選べばいい?
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「体制の問題もすごく重要で、完全に好みなので、いろんな体制で寝てらっしゃる方多いです。特に横向き寝は多くて、大体、今回の解析でも5%~10%ぐらいは横向きでした。今回、廻旋が悪いと考えているので、横向きに寝るにもしても、首だけ横向きに寝るのではなく、体から肩から横向きに寝てもらって、それに合うような形の枕にするといいのではないかと考えています」
‐Q:こたつに入って、座椅子に座った状態でうたた寝は、体に良くないですか?
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「これは僕も実家でよくやっちゃうんですけど…一番よくないと思っています。こたつでスマホとか見るときは首を大きく前に曲げた姿勢を取ってしまいがちで、起きている間はいいんです。そういう体勢をしていると首が痛くなってくるし、血管がつぶれた時に、めまいとか吐き気とかが出てくることもあるので、意識があるときはいいんです。寝落ちしてしまった時が、一番、無理な体勢を長時間取ったままになることになるので、これはちょっと避けたほうがいいと今回の研究で考えました。この病気の中で、朝起きた時に発症している患者さんが一定数いて、理由が謎だったんです。ですが、その一端がこれなんじゃないかなと私たちは考えています」
■美容室のシャンプー台の姿勢で椎骨動脈解離を発症する可能性も
‐Q:枕の中身は何がいいですか?いい枕の硬さはどんな感じですか?
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「今いろんな枕がありますよね。今回、患者さんたちを診てて、そば殻などのすごい硬い枕を二段重ねにしていて、発症した人が多いです。そば殻自体を否定するのではなく、そば殻でも、低くければ多分いいという話なので、だからもし高い枕が使いたい人だったら、いくらか低反発にしたりとか、首への負担が緩和される素材がいいのではないかと思います」
‐Q:うつぶせ寝はどうですか?
【殿様枕症候群を提唱 江頭柊平医師】「うつぶせ寝は、実は結構珍しくて、これは今回の研究とは外れますけど、この椎骨動脈解離はいろんなタイミングで起きると言われています。ゴルフのスイングなど、その中で一番有名なものは、美容室でシャンプーする時、顎を上げて、首が伸展する動作でも発症することがあります。ここから先は推測ですけど、あんまり枕が高いくて、うつぶせ寝をすると、シャンプー台と同じような姿勢になるので、それは良くないのではないかと考えます」
高すぎる枕を使うと、リスクが高くなる可能性があるということを知っていただきたいです。
(関西テレビ「newsランナー」2024年2月21日放送)