珠洲から避難の2人が結婚式 つらい時期に…悩んだ末の決断 「皆さまが温かい言葉で背中を押してくれた」 ふるさとに必ず戻ると心に決めて【能登半島地震】 2024年02月24日
2月10日、大阪市内の結婚式場。
この日行われたのは、地震で変わってしまった、大好きな「ふるさと」を想う結婚式でした。
■2人の夢を支えてくれた珠洲の街の温かさ
2023年8月に入籍した、大阪市出身の秋房大介さん(27)と、石川県・珠洲市出身の和佳奈さん(23)は能登半島地震を受けて、大介さんの実家に避難しています。
料理人の2人の出会いは、兵庫県芦屋市のレストランでした。
「いつか自分たちだけの店を持ちたい」という夢をもって、2023年2月、珠洲市に移住し、美しい海をのぞむ観光地の一角で、地元の素材をいかした弁当店「TORITO-N(トリトン)」をオープンしました。
手探りで夢へと向かっていく2人を支えてくれたのは、珠洲の街の「温かさ」だったといいます。
【秋房和佳奈さん】「『買いに来たよ』ってイベント出展しても、わざわざ来てくれる方もいるし」
【秋房大介さん】「本当の第一印象は、星がきれい。その次に、大阪じゃ考えられないほどの人の付き合い。人が優しい。ご近所の付き合いが家族みたいな濃い付き合いで、そこはすごいなって思っている」
■地震で変わってしまった大好きなふるさと
そんな中。2024年1月、能登半島地震が発生。
大好きだった珠洲の街は、大きく変わってしまいました。
【和佳奈さん】「ここに自分がおったんやって思います。地震の揺れているときの映像みたら。実感がだんだん薄れてきていたけど、ここにおったって考えたら怖いなって」
珠洲には、長年レストランを営んできた、和佳奈さんの両親がいます。
お弁当の仕込みなどでサポートしてくれていた両親の店でも、自慢のピザを焼く窯が壊れ、営業再開のめどはたっていません。
【和佳奈さんの母・兼盛美和さん】「『こなピザ(ノリのピザ)』・・・、海が隆起したから海苔が取れなくなってしまって。多分ことし分はもうないね」
【和佳奈さんの父・兼盛康寛さん】「不安だらけですよね。どれだけ珠洲の人が残るのか、観光客がどれだけ来てくれるか、復興してもそこがやっぱり、どうなるんかなって」
街の復興のきざしは、まだ見えません。
知人の中には、亡くなった人もいます。
大阪に避難した娘の和佳奈さんたちとは、しばらく、離れ離れの生活です。
そんな中、2月10日に大阪で行われる、2人の結婚式が迫っていました。
このタイミングでの結婚式について聞くと、母の美和さんは「タイミング悪かったなと思ったり、つらい中でお祝いがあるしうれしいけど。今はここにおるだけで精一杯」と話しました。
■改めて感じる珠洲の街の温かさ ふるさとに思いをはせ笑顔の結婚式を
厳しい現実と向き合いながら行われる、結婚式。
2人は今だからこそ、テーマを「大阪からでも、珠洲を感じられる結婚式」に決めました。
ウェディングアイテムは珠洲にゆかりのあるものを使って手作りしました。
【大介さん】「珠洲の海で拾ったもので。1人1人、来る人の名前が書いてて。好きなシーグラスとか貝殻をはめてもらって」
【和佳奈さん】「桜貝とかすごくきれいなんですよ。割れやすいけど」
【大介さん】「この流木も珠洲にいる人が、拾ってきたものを、自分で組み立てて作りました」
地震がおきて、改めて感じた珠洲の街の温かさ。
【和佳奈さん】「食料ある?とか声かけもあったり。湧き水が出る人は『生活水としてしか使えないけどもってくるよ』って言ってくれて」
大好きな「ふるさと」に思いをはせ、笑顔になってもらえる結婚式にしようと、準備を進めました。
【和佳奈さん】「そのときだけでも、集まるきっかけになったらうれしい。みんな心配もしてくれてるので、親族も」
■笑顔があふれる結婚式に「周りを明るくしてくれる2人らしい」
結婚式当日を迎えました。
【大介さん】「もう心臓バクバクですね。しゃべる機会は挨拶と、手紙と、挨拶…。笑いあり、涙ありの結婚式にしたいですね」
【和佳奈さん】「楽しんで帰ってもらえたらなって。今だけ忘れて、楽しい思い出で」
2人が思いを込めて準備したウェルカムアイテムも好評で写真を撮る人も。
いよいよ結婚式が始まりました。大きな拍手の中、2人が入場します。
新郎の大介さんは緊張した面持ちで「皆様のテーブルにある貝殻や流木、シーグラスで作った置物は、全部、僕たち2人で作ったものです。2人のスタート地点が石川県の珠洲です。皆さまにも珠洲のことを、ちょっとでも感じてもらえたらなと」とあいさつをしました。
この日、会場には笑顔があふれていました。
ゲストの中には珠洲の友人もいて、「気持ちも沈む時期だったので『2人が結婚式します』って聞いて、それでちょっと幸せな気持ちをもらったり。周りを明るくしてくれる存在なので、2人らしいなって思いました。すごいうれしかったです」と話しました。
結婚式中の和佳奈さんの両親に話を聞きました。
【母・美和さん】「ちょっとあれやったけど楽しい、うれしいです。そんな気分になれんと思ったけど、お祝いすれば、気分も晴れてきて、来てよかったなって思います」
【父・康寛さん】「えー?よかったです」
【母・美和さん】「泣いちゃいました、号泣してました」
【父・康寛さん】「いや、和佳奈がなくもんー」
2人とも結婚式を楽しんでくれています。
■珠洲に戻って恩返し、楽しい記憶に戻したい
そして、結婚式の終盤。
和佳奈さんは、「奥能登の地震で結婚式するかどうか悩みましたが、大介さんと一緒に結婚式は絶対しようって決めました。出席できなかった友人もいます。看護師の友人、自衛隊の友人、警察官の親戚は今も頑張ってくれています。皆さまが温かい言葉で私たちの背中を押してくれたおかげで、無事きょうという日を迎えることができ、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございます」と今回の結婚式への、正直な思いを打ち明けました。
多くの人に祝福を受けた2人は、「また必ず、大好きなふるさとに戻る」と、心に決めています。
【大介さん】「珠洲に戻って復興活動、恩返しをして、これからの自分たちにつなげていきたい」
【和佳奈さん】「前のように、みんなが『久しぶり』とか、かけ声が増えるような。楽しいところだなっていう記憶に戻したいですね」
まだまだ道半ばの復興。
街を愛する人たちの想いが、被災地を支えていきます。
(関西テレビ「newsランナー」2024年2月19日放送)