11月のアメリカ大統領選挙を前に、野党・共和党の候補者選びの初戦で、トランプ前大統領が圧勝しました。背景には、根強い支持者たちの存在があり、大統領への「返り咲き」が現実味を帯びてきています。なぜトランプ前大統領は強いのか?早くも日本の大物政治家が接触しているとの情報もあります。アメリカ大統領選を取材している、キヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司さんに聞きました。
■党員投票で圧勝のトランプ氏 強さの秘密は「独特のカリスマ性と有言実行」
先日の党員投票では、トランプ前大統領の強さが際立っていました。 11月のアメリカ大統領選に向けた共和党の候補者レースの初戦となる、アイオワ州の党員投票が1月15日に行われ、トランプ前大統領が、フロリダ州のデサンティス知事、ヘイリー元国連大使を抑えて圧勝しました。 得票率を見てみると、デサンティス知事は21.2パーセント、ヘイリー元国連大使は19.1パーセント、トランプ前大統領は51.0パーセントだったということで、他の2人のダブルスコアを超えるような圧勝でした。
なぜこんなにトランプ前大統領は強いのか? 峯村さんは「独特のカリスマ性と有言実行」だとみています。
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「私も2016年の選挙ではトランプさんにずっとくっついていたんですけども、演説を聞いている人が感極まって泣いたり、本当になんだか感動している人が、すごく多かったです。やっぱり演説がうまい、ある意味人を引き付けるカリスマがあることが1つ。
あと、有権者に『なんでトランプさん支持するんですか?』と聞くと、公約をしっかり実行してくれると。他のそれまでの大統領って、ほとんど公約は何もしなかったのに、トランプさんはちゃんと守ってくれると。この2つが強いのだと思います」
■訴訟も「バイデンの罠」で求心力につながる状況
トランプ氏は数々の裁判を抱えているのですが、それでもなぜこんなに強いのでしょうか。
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「トランプさんは、『これはバイデンの罠だ』と言ってるわけです。なので、どんどん起訴されればされるほど、トランプさんの支持がどんどん上がっていくという状況なんです。『バイデンさんにはめられてるんだ』と言っていますので、そういう意味でどんどん求心力を得てるという状況です」
ワシントンでも取材をしたということですが、現地ではどのような状況だったのでしょうか。
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「『もしトラ』っていう言葉、『もしもトランプが当選したら』っていう、最近、日本の政府の方とかが言い始めているんですけど、私はもう、『もしトラ』じゃなくてもう、『多分トラ』っていう感じですね。もう多分どころじゃないというぐらい強いです。
さっきのカリスマの話で言うと、デサンティスさんが有力な対抗馬と言われていたのですが、トランプさんとは対照的に、演説がつまらないんですよね。やっぱり人を引き付ける能力がないから、今どんどん落ちてしまっているという状況で、トランプさんの独走が続いている状況です」
■早くも日本政府はトランプ氏との接触を調整
そんな中、日本の大物政治家がバイデン大統領の宿敵ともいえるトランプ前大統領に会うために訪米したそうです。 自民党の麻生副総裁が、1月9日から13日までの5日間の日程でアメリカ訪問。その理由は、岸田総理がトランプ氏の再選を想定して、パイプ役として麻生副総裁に期待をしているということです。
水面下でトランプ氏との面会を調整し、トランプ氏の拠点があるニューヨークまで足を運んだのですが、実現しませんでした。しかし、ワシントンでトランプ氏に近い関係者と会って、トランプ氏と直接面会することができるか相談したということです。
岸田総理はバイデン政権と上手くやらないといけないのに、なぜ麻生副総裁がトランプ氏に接触する必要があったのでしょう?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「2016年にトランプさんが初めて当選した時の出来事が影響していると私は思います。この時にトランプさんが当選した直後に、当時の安倍晋三首相がニューヨークに行って、トランプさんと会って、そこでものすごく信頼を勝ち得たということがありました。そこからトランプさんをうまくグリップできたので、おそらく今回それを麻生さんはやろうとしたのだろうと思います」
安倍元総理とトランプ氏は蜜月関係と言われましたが、麻生氏がそういう関係を築いていくことはできるのでしょうか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「安倍さんの代わりになるほど性格が合うかというと、ちょっと難しいかもしれないですね。本当に、トランプさんはなかなか難しい人ですし、やっぱり1期目の時には彼に自信がなかったんですね。自分が大統領で大丈夫なのかなって。特に国際会議とかできるかなという不安は、安倍さんが『俺が教えてやるから』という形で、信頼を勝ち得たんですけども、彼はもう自信がありますから、『もう誰の言うことも聞かないよ』となる可能性があります」
■麻生氏派遣ならバイデン大統領へも「言い訳」できる
バイデン氏にとっては面白くない話だと思うのですが、そのあたりはどうでしょうか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「それが今回、麻生さんを派遣したというのは、非常にうまいやり方で、麻生さんは政府の幹部ではなく、自民党の副総裁をやっているだけです。『あ、これ別に政府じゃないですよ』という言い訳ができるという意味では、バイデンさんにもなんとなく言い訳ができるというやり方ですね」
【菊地幸夫弁護士】「ロシア、北朝鮮、中国と地域的に非常に近い関係にある日本にとって、やっぱりアメリカとの関係を維持することは、安全保障にとって決定的に重要なことだと思います。ですから、そういう意味で早めに、その布石を打っておくというようなことを岸田さんが考えたのでしょうね」
■トランプ氏「台湾は半導体を奪っていった」 有事に参戦しない可能性
もしトランプ氏が大統領選に勝ったら、世界の構図が変わるといいます。
●1つ目、台湾問題は有事の際にアメリカは参戦しない可能性が高い
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「実はあまりトランプさんは台湾について発言していません。唯一発言しているのが、『台湾は我々の非常に素晴らしい半導体を奪っていった』ということだけです。という事を考えると、やっぱり台湾をバイデンさんみたいに『助けるよ』というのではなく、むしろその反対で、俺たちの半導体を奪って行きやがってというところで、賛成しないのではないかと考えています」
もしトランプ氏が大統領になったとしたら、台湾はどのように受け止めているのでしょうか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「先ほど頼成徳次期政権の幹部たちとお昼ごはんを食べたのですが、やっぱりほとんど話題が『もしトラ』なんですね。やはり気になる様子で、根掘り葉掘り聞かれて、本当に心配している様子で、私は先ほどのように『助けないんじゃないか』と言うと、みんなシーンと下向いてしまうという感じでしたね」
■ノーベル平和賞が取りたい…その思惑
●2つ目、ウクライナ情勢ではアメリカはウクライナへの支援を中止し、和解へ動く
●3つ目、イスラエルに対しては、ハマスとの和解へ導き、ウクライナ情勢と合わせてノーベル平和賞を狙う
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「本当にノーベル平和賞が欲しいんですよ、トランプさん。誰かが話を入れ込んだのらしいのですが、ノーベル平和賞をとったら、捕まらない、逮捕されないというのがあるらしくて。これだけ訴追されているので、何とかノーベル平和賞を取りたいと思っています。
だからこの間、トランプさんの側近に聞いたら、ウクライナ戦争もできれば俺が就任する2025年の1月までは続いてくれと、そうして『私が仲裁して平和をもたらしたぞ』とアピールすることにより、ノーベル平和賞が取れるのではないかと思っているのではないかと思います」
●4つ目、日本に対しては、バイデン大統領ほど重視しない可能性
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「1期目のときは、安倍さんとの関係があったから、重視したんですけれども、今はとにかくトランプさんは『バイデン憎し』なんです。なので、バイデン政権と反対のことをやるのではないかという風に考えると、バイデンさんは日米同盟を重視していましたけど、その反対であまり日本を重視しないのではないかと思います」
日本の安全保障の面では、トランプ氏がどのようなスタンスを取るのかという点に注意していかなくてはいけません。
■91の罪もなかったことに?トランプ氏が大統領になる未来
民主党のバイデン大統領と戦う共和党候補はトランプ氏になる勢いなのですが、戦いのリングに上がる前に、大きな穴に落ちてしまうかもしれません。 現在、トランプ氏は91の罪に問われています。具体的には、連邦議会への乱入事件や大統領選挙の結果を覆そうと工作した罪など。特に議会への乱入に関与した罪をめぐっては、大統領選への出馬資格の有無が近く連邦最高裁が判断するとみられます。
トランプ氏は大統領選に出馬できるのでしょうか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「日本の常識だと、91の罪に問われている人が国のトップになるのことはあり得ないですが、できない可能性もありますが、私は出馬できる可能性が大きいと思います。というのは、最高裁がポイントです。最高裁には今トランプさんが推薦した人が3人います。いわゆる共和党に近い人が過半数を取っているので、おそらく却下されるのではないかと思います」
【関西テレビ 神崎報道デスク】「91の罪に問われていて、おそらく選挙期間中にいくつかの評決は出ると思うのですが、全部は終わらないと思います。実際に評決が全部出る前にトランプ氏が大統領になってしまうと、例えばですけど、自分で裁判を止めたりとか、起訴を取りやめさせたりとか、もしかしたら大統領恩赦という、有罪判決を受けても、それをなかったことにする事もできたりするので、そういう意味においては、先に大統領になってしまうと、何でもありになってしまう恐れがあります」
■大統領は自分が辞めると言わなければ辞めさせられない
視聴者から質問です。
‐Q:トランプ前大統領が再選する可能性は何パーセントですか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「こういうのやりたくないんですけど…私、あえて70パーセント。70というのも、普通に選挙できたらほとんど100に近いと思います。ただ残りの30というのは、まだ起訴されていたりという、リスクがいろいろあるというところで70と、あえて控えめに言いましたが、強いです」
‐Q.大統領候補に若い人が出てこないのはなぜですか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「民主党の幹部がみんな『バイデンさん、ちょっとまずいよね、もう歳だし』と言っていたので、『じゃあもう辞めさせればいいじゃん』と聞いてみた所、日本の首相よりも大統領って強いんですよ。だから大統領自身が辞めるって言わないと辞めさせられないらしいです。バイデンさんがどうかというと、めちゃくちゃ戦う気満々らしいです。トランプさんに対するライバル心があるので、『俺しかトランプをやっつけられない』と思っているということで、2人のおじいちゃんが頑張っている」
果たして11月にはどのような結果になるのか。アメリカ大統領選から目が離せません。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月18日放送)