吉原キャスターが1月7日、8日の2日間、現地で被災者へ取材を行いました。 被災された方は、地震にあった心の傷を抱え、「これがいつまで続くのか」「本当に終わりがあるのか」と不安を感じながら、いま避難生活をされています。 これから必要なものとして「心のケア」の重要性を感じました。 そこで阪神大震災や東日本大震災の際に、現地で遺族の心のケアをした神戸赤十字病院の村上典子医師に聞きます。
■時間の経過とともに心配される被災者の精神面
地震から9日がたち、亡くなった方が200人を超えました。安否不明者の方も102人いらっしゃいます。 避難されている方も2万6158人いらっしゃいます。被災者にとっては過酷な状況が続いています。
個別の事案に対して、最初は食糧や水から始まり、高齢者で持病を抱えている方については薬が足りないなど、時間の経過とともにさまざまな問題が出てきています。被災者の精神面は、今、どのような状態なのでしょうか?
【神戸赤十字病院 村上典子医師】「地震直後の茫然自失と呼ばれる時期から、そろそろハネムーン期と言われる困難を乗り越えて、結束して前向きになろうというような、ちょっと元気が出てくる時期であるかもしれません。けれども、まだそこから少しずつ、幻滅期と呼ばれるような気持ちが落ちていくという時期に入っていく可能性があります。
さらに今、診ていると、揺れや恐怖や災害、地震そのもののトラウマ的なものだけではなくて、生活面・環境面のストレスですね。水や電気、それからいろいろな食糧の問題などの避難所生活で、しかもそれがいつまで続くかわからないという、生活面・環境面でのストレスが、これからどんどん大きくなるというつらい状況だと思います」
■被災した時の精神的な反応「トラウマ」「ストレス」「悲嘆」
災害から起こる主な精神的な反応を見ていきます。 被災者の精神面でどのようなことが起こるのかというと
1.災害直後の恐怖や悲惨な光景などから起こるトラウマ反応
2.被災前とは違う生活上の困難などから起こるストレス反応
3.強い喪失の悲しみから怒りや罪悪感が表れる悲嘆反応 これらにより不眠や食欲不振、うつ状態などになる可能性もあるということです。
災害時は、これらが複合的に重なるということですが、トラウマ反応やストレス反応に加えて、悲嘆反応というのも大きな影響があるということです。
【神戸赤十字病院 村上典子医師】「悲嘆というのは喪失で、一番大きい喪失は大切な人を失った、死別っていうことだと思うのですけれども、それ以外でも、災害では家を失う、自分自身がけがしたり、病気になって健康を失う、それからコミュニティを失うです。ずっと今まで家が建っていた場所が、輪島などでは火災が起こり、そのような街並みを失うという、そういう喪失が同時に、しかも多発的に起こってくるという状態です。だから家族を失ったご遺族以外でも、この喪失による悲嘆反応はすごく大きな問題としてあると思います。
悲嘆の反応としてもちろん一番大きいのは、悲しみですけれども、結構悲しみだけではなくて、怒り、それから罪悪感や現実を認めたくない否認など、さまざまな精神的な反応も表れると思われます。怒りは救援してくれる方や、行政の方、そういう方に八つ当たり的に向かってしまう可能性もあり注意が必要です」
■被災者の心を励ますのではなく、寄り添うことが大事
被災地の取材の中で、「今後、住む場所はあるのか」「どうやって生活していけばいいのか」という不安を感じている方や、そのような不安を今は直視しないで、「もう今は生きることに精いっぱいで、先のことは、今は考えない。あえてそうしているんです」という話をする方と出会いました。被災者の過酷な生活の中では日ごとに精神面の状態が変わり、心の糸が切れてしまわないか、そういう所が不安だなと感じたということです。
本当にギリギリの状態の中で生きている被災者に、どう向き合えばいいのでしょうか?
・励まさない
・他者と比べない
【神戸赤十字病院 村上典子医師】「あまり頑張れとか、励ますのは良くないよというのは、最近よく言われてきていることなのでお分かりかと思いますが、つい頑張れとか言ってしまいますが、とても頑張れないと、これ以上頑張れないという状態だと思います。
それと良かれと思って、『これこれだから、よかったじゃない』というような、ちょっと励まさないと似ているのですけども、本人が自分で思って自分を勇気づける場合はいいのですが、周りが言うと、苦しみを分かってもらえてないと感じますので、その方の今現在の状態を、ありのままを受け止めて寄り添うという姿勢が大事だと思います」
避難所を取りまとめている方が、そういった避難者の不安というのを一身に受け止めてらっしゃって、話を聞く方も疲弊しているという状況でしたので、そういった方たちの心のケアというのも必要だと感じました。
■被災地の子供の心のケアも求められている
そして、大人同様に避難している子供の心のケアも大事になってくると痛感しました。 地震の2日後から、石川県珠洲市の小学校で、子供たちの心のケアをされているNPO法人「カタリバ」の石井丈士さんに話を聞きます。現在は、どのような活動を行っているのでしょうか?
【認定NPO法人「カタリバ」 石井丈士さん】「今僕たちは、地元のNPOと協力して、避難所になっている小学校の図工室を借りて、ブロックやカードゲーム、ボードゲームを用意して、子供が子供らしくいられる、自由に遊べる空間を作って運営しています」
本来なら、1月9日から3学期が始まる学校が多いのですが、子供たちの様子はいかがでしょうか?
【認定NPO法人「カタリバ」 石井丈士さん】「みんなの子供部屋という名前でやっているのですけど、ここをオープンしたときにすごく印象的だったのが、子供がワーって、声をあげてよろこびながら、玩具に走って行って声を上げて、みんなで楽しそうに遊んでいる姿を見て、子供たちは本当にこういう時間を求めていたのだなと、学校がないですけれども、日常を取り戻して行く、すごくそういうものが重要だなと感じました。また同時に、その中で子供がふとした時に、『また地震来ないといいな』とかそういったことをボソッとつぶやく子もいて、なかなか自分の苦しい思いを話せない現状もあるというふうに感じています」
そのように声に出せる子もいるけど、過酷な状況も分かっているし、大人の顔も見たりして、なかなか不安な気持ちを言えない子たちもいるのですね?
【認定NPO法人「カタリバ」 石井丈士さん】「そうですね。やっぱり避難所の生活はみなさんいろいろ忙しかったり、大人の方たちもいろんなストレスを感じている中で、子供がそれに対して、自分の気持ちを発するというのがなかなか難しい状況にあると感じています」
スタッフの人数は足りているんでしょうか?
【認定NPO法人「カタリバ」 石井丈士さん】「こちらの運営に関しては、珠洲市は多く方が被災されていて、忙しい状況や大変な状況の中で、地元の高校生が今そんなにやることもないし、自分たちができることがあればやりたいっていうことで手を上げてくれたり、あとは保育士さんが今、保育所が閉まっているので、自分たちが子供が見れる場所があればということで、協力してもらってなんとか運営しています」
今後の活動において、心配なのはどのようなことでしょうか?
【認定NPO法人「カタリバ」 石井丈士さん】「まだやっぱり先が見えない状況で、1週間たって避難所の生活が少しずつ、ある程度できるようになってきたんですけれども、この後、金沢に行くのか、あるいはこの避難生活を続けるのかと、先が見えないので、どうしたらいいかわからないという不安をみなさん抱えてると思います。この辺りがこれから大事になってくるのかなというふうに思います」
■被災をしていなくても精神的な影響がある「共感疲れ」
ここまでは、被災者の方の心のケアについてでしたが、実は、今回の震災で、関西にいる方々も精神的な影響を受ける場合があるということです。 それが、「共感疲れ」というものです。テレビやSNSを通じて被災地の建物の倒壊現場や悲惨な話を、見続けることによって、精神的に疲れてしまうことをさします。どのような症状が出たら、「共感疲れ」の可能性があるのでしょうか?
【神戸赤十字病院 村上典子医師】「被災者の気持ちに寄り添うという意味では、共感を持つのは大事ですが、例えば映像を観ていない時でも、常に災害のことばっかり考えてしまうというようなことがあるのであれば、ひどくなると、すごく不安になったり、動悸がしたり、眠れない、食欲がないとなるようであれば、やはり共感疲れということで、やはりそういうところから一度離れるということも、大事になってくると思います」
今の時代は情報をとれるものが多くなった分「共感疲れ」になる方というのは多くなりますよね。
【関西テレビ 加藤報道デスク】「特にお正月のタイミングであったので、みなさん時間がある中で、例えばテレビやSNSに触れる機会も多かったと思います。なので、頭に残っているみたいな方もたくさんいらっしゃるだろうし、私が気になるのは、時期が1月ということで、阪神淡路大震災を経験された方がたくさん関西もいらっしゃると思います。フラッシュバックというか、そういった所が影響しないかなと思うのですが、関西にいらっしゃる方で気をつけたほうがいいことってありますか?」
【神戸赤十字病院 村上典子医師】「おっしゃる通り、年始まって診察は数日しかしてないのですけれども、やはり阪神淡路大震災で非常につらい体験をされた方は、本当に気持ちがすごい呼び戻されてつらいということをおっしゃっています。関西の方でも、例えば東日本大震災を経験されて、いま関西にいらっしゃる方もいると思いますが、やはり経験者というのは本当に気持ちが呼び戻されるということで、注意が必要だと思います」
■「共感疲れ」を感じた場合はニュースから離れて
「共感疲れ」を感じた場合、どう対応すればいいのでしょうか?
「気になるけど一度離れる」
【神戸赤十字病院 村上典子医師】「例えばテレビでもニュースから離れて、ドラマや物語を見るとか、動画だったらペットの映像やきれいな風景のように、癒やされる動画とかを意識的に見て気を紛らわすというのとか、あるいは周りの人に、ちょっと自分しんどいんだということを、言えそうな人には話すということは必要だと思います」
視聴者から質問です。
‐Q:心の緊張を少しでも緩める方法はありませんか?
【神戸赤十字病院 村上典子医師】「緊張を緩める時にはやっぱり体もすごく強張っていると思うのですけれども、例えばそういう時にリラックスしましょうと言っても、なかなかどうやってリラックスしていいか、分からないという方もいます。そのような時によくされてる方法は筋弛緩法というのですが、あえてずっと力を入れて、そこからパッと力を抜くみたいなことをして、あえて緊張を緩めるとか、あとは音楽とか、きれいな映像を見るとかそういうことがよいと思います」
(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月9日放送)