14日、宝塚歌劇団の宙組・娘役の女性が死亡したことについて、宝塚歌劇団による会見が開かれました。調査チームによる調査結果の報告を行ったものです。 この会見について、元大阪地検の検事で、弁護士としても多数の民事・刑事裁判を担当している亀井正貴弁護士の意見を聞きました。
■過重労働は認めているが…本質について報告書では触れず
まずは女性が亡くなったことについて、遺族側の主張を見ていきます。 今年8月16日から、女性が亡くなった9月30日までの間、女性の1日の睡眠時間は約3時間の状態が続いていて、休日は実質なかったということです。そして8月31日から、宙組の本公演が行われた9月29日までの間、時間外労働は合計で277時間超。 さらに業務内容は、演出家の補佐や役柄配置の決定、慣れない新人男役への指導など、多岐にわたっていたということです。
劇団員の1日のスケジュールは、稽古は約15時間行われ、午前0時に終わって帰宅し、そこから自宅での作業もあり、寝るのは午前3時。睡眠時間はおよそ3時間だったということです。
対して宝塚歌劇団側は、本公演と新人公演の稽古・準備では「十分な睡眠時間は確保できなかった」、そして「労働時間管理」を行っていなかったことについては「公式稽古のみ業務時間として記録していた」、健康面での配慮「安全配慮義務」を十分に果たせていなかったとしています。
こういった労働環境の実態について、亀井正貴弁護士の見解です。
【亀井正貴弁護士】
「安全配慮義務は抽象的には認めている。過重労働したことを一応認めているんですが、なぜそういう事態に至ったのか。知っていたのか、知っていたのであればどういう処置をするべきだったのか、あるいはしなかったのか。という本質の部分については、この(宝塚歌劇団側の)報告書では触れられていないんです。安全配慮義務を認めたということは、抽象的な認め方ですけども、一定の評価をすべきだと思います。けれども、なぜ安全配慮義務を尽くさなかったのか、ということには触れられていません。安全配慮義務というのは、一般的に労使関係で使われるのですが、労働者の健康や安全を確保する義務を使用者側が負っています」
■上級生からのパワハラ…劇団は「不当とは言えない」
もう1点、女性が亡くなった原因として遺族側が主張しているのが、パワハラです。 2021年8月14日に、上級生が亡くなった女性に「前髪を巻いてあげる」と言い、額にヘアアイロンを当て、女性はやけどを負ったということです。さらに複数人の上級生から「下級生の失敗は全てあんたのせいや」「マインドが足りない。マインドがないのか」「嘘つき野郎」といった、過度な暴言があったとしています。 それに対して宝塚歌劇団側は、10月7日、「いじめはない」と否定していました。 そして14日の会見では「ヘアアイロンでやけどをすることは劇団内では日常的にあること。上級生が故人をいじめていたとは認定できなかった」と発言。さらに、暴言については「指導内容・方法については社会通念に照らして不当とは言えない」と発言しています。
【亀井弁護士】
「どこまでしっかりした調査ができているかということに疑問があります。例えば被害者だけではなく、他の先輩や後輩のメールやラインを徴求して(調査を)やるかとかですね」
また、内部の情報を外部に漏らさないという戒律がある中で、劇団員らがどこまで正直に話せるのかということも疑問です。
【亀井弁護士】
「私の考えでいうと、ずっとこの組織(宝塚歌劇団側)の中で生きていくわけですから、組織に不利になるようなことは言えないだろうと思います。(調査)委員会は、いわゆる“第三者委員会”ではないんです。外部の弁護士に頼んではいますけど、私の感覚では基本的に内部調査じゃないかと思います」
■遺族側の主張を認めると抜本的に今の体制を変えざるを得なくなる
歌劇団は次のことを再発防止策として挙げました。
年間9興行だった公演を来年からは年間8興行へ見直し、さらに週10回公演だったものを9回に。稽古については、スケジュールの見直し、時間の短縮を検討。そして、阪急阪神ホールディングスと阪急電鉄の監査部門との連携の上で、業務監査を行う体制を整備することなどです。
【亀井弁護士】
「劇団員一人一人との契約をどうするか。厳しい守秘義務などの制約がある中でどうするか。また、劇団員の意識を変えていくという措置も必要じゃないかと思います。総論としては正しいですが、具体論がまだ出ていないですね」
遺族側が納得していない中、再発防止に向けてどこまで本気で取り組むのか…。今後の宝塚歌劇団の動向を注意して見ていきたいところです。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年11月14日放送)