ロシアが「ザポリージャ原発」に攻撃を検討か 従業員らの退避期限は7月5日 ウクライナとロシアで食い違う主張 専門家は「ロシア側が退去の際に何かをする可能性はある」 2023年07月06日
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、ヨーロッパ最大規模の原子力発電所「ザポリージャ原発」にロシア軍が攻撃を仕掛ける可能性があると話しました。
ウクライナ国防相によると、原子力会社は従業員らに施設から退避するよう通告したということですが、その期限とされるのが7月5日でした。
ザポリージャ原発へのテロ行為は現実となってしまうのか。ウクライナ情勢に詳しい、防衛研究所の高橋杉雄さんに話を聞きました。
■ 両国で食い違う見解 専門家「危険な状況は間違いない」
ウクライナはロシア側が占拠しているザポリージャ原発について、ロシア軍が原発から撤退し、原発職員を5日までに撤退させる勧告をしたことなどを発表しています。
ゼレンスキー大統領は、「ロシアは原発を爆発させる技術的な準備ができている深刻な状況」だと述べています。
一方で、ロシアのラブロフ外相は、「ウクライナ側の主張は全くのウソだ」と否定。
ザポリージャ原発を管理するロシアの会社は、「ウクライナ軍が放射性廃棄物を積んだミサイルで原発を攻撃しようとしている」として両国の主張が食い違っている状況です。
-Q:どちらが正しいことを言っているのでしょうか?
【防衛研究所・高橋杉雄さん】
「現時点では、どちらの情報が正しいのかは分かりません。国際原子力機関『IAEA』によると、6月30日時点では爆発物は確認できていないということです。一方で、5日朝の情報で、2本ある外部電源のうち1本が切断されたという情報があり、危険な状況であるのは間違いありません。反転攻勢中のウクライナ側が、自国領土内の原発を攻撃する理由はありません。一方、戦況で言えば、ロシア側が退去せざるを得ない状況はあり得ます。その時に何らかの爆発物を仕掛けるなど、状況的にはロシア側が何かをする可能性はあると考えることができます」
「今、反転攻勢でロシア側が少しずつ押されている状況にあり、ザポリージャ原発から退去しなければならない理由があるのであれば、ある種の『置き土産』のように爆発物を設置して、ウクライナ軍の足を止めるという意図は考えられます。例えば原発の冷却機能が麻痺すれば、まずは冷却系統を復活させなければならない。その間、ウクライナ軍は前に進めないので。ウクライナを足止めするために事故を作り出すことはあり得ると思います」
-Q:ロシアにとっては、侵攻して自国領土化しよとしている場所なのに、そこの原発に手を付けると、復興なども大変になるのではと思いますが、もしロシアが原発を攻撃するのだとすれば、どういう考えなのでしょう。
「今ロシアは守りに入っていて、押し戻すということをあまり考えていないように見えますね」
-Q:原発に手を付けるということは、大きな世界的影響があるように思いますが、どう考えますか。
「侵略自体もやってはいけないので、すでにロシアに対する批判はありますが、原発事故は一線を越えていく問題だと思います。ダムの爆破をやったと考えられる以上は、もはや『原発に手を出さない』という風に楽観できない状況にあります」
■ ザポリージャ原発がテロ攻撃を受けたらどうなる?
去年の8月29日時点の風向きに基づいた、ザポリージャ原発が攻撃された場合の放射性物質の飛散予想図です。 予想図からは放射性物質の及ぶ範囲がかなり広いことが分かります。ウクライナの南部だけでなく、ロシアの南西部にも広がる恐れがあります。 当時は原発6基中2基が稼働していましたが、現在は全て停まっているので、ここまでの被害にはならないかもしれません。
しかし原発が破壊されたことを考えると、人的被害や戦況の変化も考えられます。さらにウクライナは小麦の生産などが盛んで「世界の食糧庫」とも呼ばれています。ウクライナの農作物への被害が懸念されています。
【防衛研究所・高橋杉雄さん】
「原発自体は停止中なので、チェルノブイリ(チョルノービリ)原発事故のように稼働中の事故ではなく、福島第一原発のような事故になるのではないかと言われています。福島県の事故では半径30キロの退避となったので、それが一つの目安になるのではないかと思います」
-Q:30キロの退避というのはどの程度の影響がある?
「30キロで収まれば被害はごく一部ですが、福島第一原発事故の時は被害が広がらないように抑え込みましたが、今は戦場なのでどのように抑え込めるのかわからないので、危険であることは変わりません」
-Q:実際にどのような方法で、原発を攻撃する可能性があるのでしょうか?
「周辺にロシア軍がいるので、その状況で攻撃や爆破するとは考えられません。攻撃があるとすれば『ロシア軍が引き上げた後』だと考えると、外部電源を全部切断した上で撤収するなどのシナリオが想定されると思っています」
-Q:ロシア側にも影響ありそうですが、それでも攻撃するのでしょうか
「普通にプラスマイナスを考えると(本来ロシア軍は)攻撃などしないと思います。ただ、ダムを爆破したらしいということから、計算できないことをやるのではないかと警戒されています」
■視聴者から質問「原発が攻撃されるとどんな影響が残る?」
番組公式LINEに視聴者から質問が届きました。
【番組公式LINEに届いた視聴者の質問】
「原発が攻撃された場合、その後どのような影響が残るのでしょうか?」
【防衛研究所・高橋杉雄さん】
「間違いなく風評被害が出ると思いますし、退避勧告内での農作物も作れなくなりますし、人も住めなくなりますね」
【番組公式LINEに届いた視聴者の質問】
「原発を人質にするのは許せない。IAEAか国連が阻止するべきでは?」
【防衛研究所・高橋杉雄さん】
「多くの国ができるだけ大きな声を上げて、ロシアがやらないようにしていくことは必要だと思いますね」
-Q:年内に停戦交渉に動き出すという報道もあるが?
「ウクライナの考えとしては、反転攻勢で領土を奪回した後で停戦協議をする。その際にクリミア半島が交渉の材料になり得る…というようなことだと思います。反転攻勢の成功が前提になると思います」
世界中の国々が危機感を高めているザポリージャ原発への攻撃。早ければ5日夜にも動きがある可能性もあり、予断を許さない状況が続きそうです。
(関西テレビ「newsランナー」2023年7月5日放送)