解体直前の「大阪マルビル」活用 消防隊が“超実践的”救助訓練 コンクリートに穴開け エンジンカッターでドア破り 煙立ち込める高層フロアで「49(要救助者)発見!」 緊迫の訓練に臨む隊員たちを密着取材 2023年07月08日
2023年5月に閉館を迎えた、かつての梅田のシンボル「大阪マルビル」。
この、閉館したビルを使って、大阪市消防局が大規模な火災訓練を行いました。緊張が走る火災現場、火花を散らすエンジンカッター、一刻を争う人命救助… 高層ビルで起きる火災特有の状況が、隊員たちに瞬時の判断を迫ります。市民の命を守るための“異例の訓練”を取材しました。
1976年に開業した「大阪マルビル」。当時はJR大阪駅周辺で唯一の高層ビルで、地上30階、高さ120m。その特徴的な形から長年、大阪・梅田のシンボルとして多くの人に親しまれてきました。マルビルは全国初の回る電光掲示板を設置して、27年間にわたりニュースや天気予報などの情報を伝えていました。
設備の老朽化などの問題から、今年5月に閉館。そんな中、解体前に大阪市消防局が「マルビルで訓練をさせてほしい」と依頼し、マルビルを最後の最後まで有効活用しようということで今回の訓練が実現しました。
【大阪マルビル 大阪第一ホテル 白石聡支配人】
「近隣のビルも非常に高層化していますので、今後災害が起きたときに救助とか大変だと思いますので、(マルビルは)30階建てとちょっと低いですけども、そういった面では活用していただけるかなと思いますので、大いに訓練していただければと思います」
■「コンクリート破壊訓練」
訓練の目玉の一つ、それは「コンクリート破壊訓練」です。
想定するのは震度7の大地震。今年2月にトルコ南部で発生したマグニチュード7.4の地震では、ビルなどが倒壊。市民が下敷きになったり、閉じ込められたりして、5万6000人以上が命を落としました。
今回訓練を行うのはマルビルの地下3階の駐車場。倒壊した建物の中に閉じ込められた人を救出するため、コンクリートのがれきに見立てて、穴を開けていきます。
「現在時刻10時30分、始め!」
号令と共に“打突”作業が始まりました。
“穴を開ける”と聞くと、なんだか簡単そうな気がしますが、鉄筋が複雑に入り組むビルのコンクリートですので、穴を開けるだけでも一苦労です。
【大阪市北消防署 特別救助隊 藤村直輝 消防司令補】
「ひたすら穴開けて、どんどん打突していく単純作業なんですけど、それをずっとやり続ける」
作業を始めてから約40分、ようやく人が通れるほどの穴を開けることができました。
【大阪市大正消防署 安心院有一 特別救助隊長】
「こういうコンクリートの材質を準備することが、なかなかできないので、今回マルビルさんにご提供いただいて、訓練させてもらえているのはすごく有意義な訓練だったと思います」
■「高層ビル火災 救助訓練」
続いての訓練は、マルビルだからこそできる、高層ビルの火災を想定した救助訓練です。高さ120メートルと開業当時、梅田周辺では最も高いビルだったマルビルですが、現在では他のビルで見えなくなるほどになっています。大阪府内では高さ100メートル以上のビルが、200を超えています。
2020年には韓国のウルサン市にある住居や店舗が入った33階建ての高層ビルで火災が発生。90人以上が病院に運ばれる大規模な火災となりました。高層ビルは煙が抜けにくいのが特徴で、「排煙装置」など備えられている設備を適切に使用できるかが重要なポイントです。
大規模ビル火災の経験が少ないからこそ、今回の訓練は非常に貴重だと、大阪市消防局の藤村消防司令補は話します。
【大阪市北消防署 特別救助隊 藤村直輝 消防司令補】
「すごい大きな建物がたくさん立っています。このような建物で災害が発生した場合、我々知識は持っているんですけども、実際に活動した経験が乏しく…同じような火災が発生したときに、今回勉強した知識とか技術を思い出して、来るべき災害に備えてほしいと思っています」
■水の確保、エレベーターの使い方、排煙設備の操作 高層ビル火災ならではの手順を確認
火災訓練を前に、まずは水の確保の仕方を確認します。実際に若手隊員がやってみると…
【先輩隊員】
「山田君、これ開けてみて。実際に採水口に部署(水源の確保)するとき、どこ開ける?」
【藤村消防司令補】
「間違えてもいいで、そのための研修や。てきぱきやっていけ」
【先輩隊員】
「それな引っ張り出せんねん、そうそう」
【若手隊員】
「結合よし」
次は、救助活動の生命線となる「非常用エレベーター」の使い方です。救助を想定し、実際に使ってみます。
【先輩隊員】
「25階出火。じゃあ山田やってみましょう」
若手隊員が押したのは火元の25階のボタンですが…
【先輩隊員】
「山田君、25階を押しました。これ何が危ないか分かります?25階着いて、開けたときに煙バーっと入ってきて、そこの熱でこれが変形して、次使えなくなったりしたら、めちゃくちゃ危ないですね。なので非常用エレベーター使う際は、直下階使うように、絶対お願いします」
実際に火の出ている25階に行くと、扉が開いた瞬間、瞬く間にエレベーターの中に煙が入ってきます。救助に行ったはずの消防隊員がかえって被害にあってしまう恐れもあるのです。
■いよいよマルビルを使った火災訓練開始
いよいよ、マルビルの高層階を使った全体訓練の当日がやってきました。想定は26階のホテルの客室から火が出て、逃げ遅れがいるというもの。消防隊員の安全を確保したうえで、いかに早く助け出せるかがポイントです。
【救助隊長】
「26階が火点室ですね。直下の25階で止まって、上のフロア確認しに行きましょうか」
事前の訓練通り、1つ下の階から火の出ている階へ向かいます。
【救助隊長】
「ちょっと中、確認するぞ。煙気ありやな。ほんなら中で熱気あるか確認。現在時刻28分な」
実際の火災現場ではこのように煙が充満し、視界を遮ります。
【若手隊員】
「今から排煙します」
煙を屋外に出す排煙設備をすぐに起動させ、火災が起きているフロアで活動できる状況を作ります。すぐさま火元となっている場所へ、逃げ遅れた人を捜しに行きます。
【隊員】
「誰かいませんか?」
【隊員】
「49(要救助者)発見」
「もっと大きい声出せ」
「49(要救助者)発見!!」
火元の部屋から逃げ遅れた人を救出しましたが…
【救助隊長】
「情報更改行くぞ。49(要救助者)合計2名おるらしいぞ」
さらに。別の部屋にも閉じ込められた人がいることが判明。
もう1人の要救助者がいると思われる部屋を力づくでこじ開けることに。エンジンカッターを使ってドアを開けます。
【隊員】
「49発見」「頑張れ」
事前の訓練の成果もあり、逃げ遅れた人たちを救出することができました。
さらに放水をしながらの救助訓練も行います。
【隊員】 「水行こう。中継隊も水出せ」「大丈夫か」
【大阪市北消防署 特別救助隊 藤村直輝 消防司令補】
「みんな設備を使ったことはほとんどないんで、今回こうやって実際に煙をためて、設備をふんだんに使わせていただいて、その経験が体験した人だけじゃなくて、大阪市消防局全職員レベルアップできたらと思います」
今後起きるかもしれない高層ビルでの大規模火災。1人でも多くの人を救うため、消防隊員たちの訓練は続きます。
(関西テレビ「newsランナー」2023年7月5日放送)