27日、歌舞伎俳優の市川猿之助容疑者が、母の自殺を手助けした疑いで逮捕されました。警察の調べに対し、容疑を認めているということです。
■なぜ逮捕がこのタイミングなの?
■自殺ほう助とは?
■今後の捜査のポイントは?
…について、「newsランナー きょうの聞きたい」のコーナーで、元埼玉県警捜査一課警部補の佐々木成三さんに聞きました。
5月15日、猿之助容疑者は週刊誌の直撃取材を受けました。パワハラ・セクハラ問題などについて報道されてしまうことが分かり、家族会議を開いて両親と話し合ったということです。5月18日、意識がもうろうとした状態で猿之助容疑者が発見されました。命に別状はありませんでしたが、両親は死亡しました。
そして6月27日、母親への自殺ほう助の容疑で逮捕されました。事件発生から41日目での逮捕でした。
視聴者から「LINE」で寄せられた質問に沿って聞きます。
Q:事件発生は 5月18日でした。6月27日に逮捕に踏み切った理由はなんですか?なぜこのタイミングだったのでしょうか?
【佐々木成三さん】
「捜査が難しかったということだと思います。家族3人の中での、密室の中での犯罪で、容疑者の供述と現場の状況、司法解剖の結果、それを総合的に考えて、これが殺人なのか、同意殺人なのか、自殺ほう助なのか、それらを鑑みて、今回は自殺ほう助罪だと判断したということだと思います。
また、今回は容疑者が入院していたということもあります。留置に耐えられる体力がないと逮捕できないので、健康面について担当医師と相談し、OKが出た、という中で今回逮捕に踏み切ったという形になると思います」
「今後、留置が続くわけですが、自殺を防がなくてはならなりませんので、対面監視を続けるということになると思います。通常ですと、留置場の看守が15分おきに見回ることになるんですが、今回の場合、24時間ずっと、対面監視を続けるというかたちになると思います」
Q:猿之助容疑者は、母親の自殺をほう助した疑いで逮捕されましたが、自殺ほう助というのはどんな罪ですか?
自殺ほう助は、自殺を手助けした罪で6カ月以上7年以下の懲役、または禁錮が科せられます。猿之助容疑者はこれまで、任意の事情聴取を受ける中で「家族で死んで生まれ変わろうと話し合い、両親が睡眠薬を飲んだ。2種類の向精神薬を用意した」と話しています。
【佐々木成三さん】
「自殺ほう助罪の立証で大切なのが、亡くなった方に自殺の意思が明確にあるということです。今のところ、母親に遺書があったという情報はありませんが、向精神薬の中毒死に関しては、大量の薬を飲まないと、こういった死因にはならないんです。私も多くの検死をしてきましたが、大量の向精神薬を無理やりに飲ませることはできません。つまり、自分の意思で飲んだということです。これは自殺の状況証拠になると思います。こうした現場の状況と容疑者の供述から、母親に自殺の意思が明確にあったと立証できるということだと思います」
Q:父親・段四郎さんについてはどうでしょうか
【佐々木成三さん】
「自殺ほう助は、自殺の意思が明確にあるケースです。父親の段四郎さんの健康状態については、寝たきりだったということです。自分が自殺するという意志を明確に伝えていたかどうか。もし、それがない状態で薬を飲む状況があったとすれば、殺人罪になる可能性があるということです。本人の意思で薬を飲むということができたのか、例えば、自殺の意思を確認しないまま、誰かが薬をすりつぶして飲ませたりした場合など、状況によっては、殺人になるということも考えられます」
「これに関しては、担当医師、また要介護者だったということでケースワーカーやケアマネージャーから当時の段四郎さんの健康状態、会話の能力、コミュニケーションの状態について警察は捜査していると思います」
「警察は再逮捕について考えていると思います。母親の自殺ほう助に関する捜査の後に、父親の事件について、どのような事件名で再逮捕するのか、または追送致するのか、ひとつ罪を加算することを考えて捜査していると思います」
「実刑になるかどうかという点については、自殺ほう助罪は7年以下の懲役ということで、殺人に比べると軽い罪になりますが、父親の事件が殺人になったりすると重い量刑になりますし、自殺ほう助でも1人だけだと執行猶予が付くことも考えられますが、2人のほう助になる場合もあり、父親の事件の罪名がどうなるかで大きく変わると思います」
Q:自殺ほう助と自殺教唆(きょうさ)の違いはなんですか?
【佐々木成三さん】
「この二つは自殺関与罪と言われるものです。自殺ほう助は、自殺を手助けする罪です。自殺教唆は、自殺を決意していないものに対してそそのかして決意させる罪です。今回は自殺を決意していたものに対して薬を飲ませたということなので、自殺ほう助になると思います」
Q:家族会議でどんな話し合いがされたのか、そこがポイントになりそうですね?
【佐々木成三さん】
「そうですね、3人の自殺の意思が明確にあったことの1つの解になると思うんですが、それがどういう客観証拠、状況証拠で残っているか、ということだと思います。ただ、薬を無理やり飲ませるということは、できないと思います。今回、母親の自殺ほう助罪で取り調べをするんですが、ここで実態解明をすることが、父親の事件の解明についても重要になってくると思います」
Q:大量の睡眠剤がそんなに簡単に手に入りますか?
【佐々木成三さん】
「ここは大きなポイントだと思います。通常の向精神薬であれば、処方通りに飲めば、もちろん亡くなることはありません。警察は自殺ほう助罪での捜査において、猿之助容疑者が大量の向精神薬を持っていたことは裏付けているだろうと思います。長年処方を受けていればストックされている場合もあると思いますし、処方を受けているなら、いつからどのぐらいの処方を受けているのか、といったことについて、逮捕までの間に裏付けを取っていただろうと思います」
悩みや不安を抱えて困っている時には、電話やSNSで相談する方法があります。「こころの健康相談統一ダイヤル」など複数の窓口があり、厚生労働省のホームページにも案内あります。
一人で抱え込まず相談してみてください。
(関西テレビ「newsランナー」6月27日放送)