大阪湾を海の森に 30年前「環境にやさしい空港を」目指した関空の“藻場”の今 24年前に潜った記者が再び… 関空の海藻を阪南市の海に移植 一大プロジェクト始動 2023年06月07日
年々深刻化する地球温暖化への対策として、いま注目されているのが「海藻」です。関西空港で長年行われてきた「海藻」を守り育てる取り組みの新たな挑戦に密着しました。
■かっては豊かな海だったのに…高度経済成長期に“水質悪化”
大阪湾に浮かぶ、空の玄関口、関西空港。5月、その護岸で関西エアポートの職員たちが大きな海藻を引き揚げていました。豊かな大阪湾にするため、関空で育てられた海藻を対岸に移植するプロジェクトがスタートしたのです。
さかのぼることおよそ60年。大阪湾は、海水浴や干潟遊びでにぎわい、海の幸にも恵まれていました。
しかし、高度経済成長期になると、大阪湾の埋め立てが進み工場排水などで水質が悪化。かつての姿は失われてしまいました。
■大阪湾に関西国際空港建設 「環境にやさしい空港」目指し“藻場”を作る
そんな中決まった、大阪湾での関西空港建設。「環境にやさしい空港」を目指そうと、埋め立て時に“ある工夫”をしました。
護岸を作る時に、太陽の光が当たりやすいようなだらかな傾斜をつけ、そこに海藻を植え付けて、群れになって育つ「藻場」を作りました。
【豊島学恵記者リポート】(1999年3月当時)
「関西空港の南側の護岸になります。水深は7~8メートルで、海の下にはたくさんの海藻が茂っていて魚の種類も豊富だということです」
24年前の映像には、護岸には海藻が定着している様子が映っています。
関西空港周辺は自然保護の観点から漁が禁止されていることもあり、海藻の隙間には、20種類を超える魚が確認され「魚のすみか」となっていたのです。
■今に生きる30年前の計画 現在の藻場の様子は? 24年前に潜った記者が再び…
海藻を移植するプロジェクトのリーダー・大谷優里さん。関西エアポートに入社して13年目です。関空周辺の藻場の保全を担当しています。
【関西エアポート 大谷優里さん】
「最初(藻場を)担当した時は、『何々の海藻がない』と言われたら、『やばい!どうしよう、守りに行かないとなくなっちゃう』って思っていました。ふと調査結果を見ると(減っていた海藻が)3年後にはまた復活していたりするんですよね。短期的に一喜一憂していたけれど、長期的に守り育てていく視点が大事です」
開港からおよそ30年、現在の「藻場」はどのように変化しているのでしょうか。
そこで24年前、藻場の様子を取材した記者が再び海へ潜ります。
【豊島記者リポート】
「岩肌が見えないくらいたくさんの海藻が茂っています。24年前より茂り具合が非常に豊かになっていると感じます」
たくさんの海藻が生い茂る現在の「藻場」はまさに「海の森」。見渡す限り海藻で埋め尽くされています。これらの海藻が成長する際、大量の二酸化炭素を吸収してくれることから2022年、関西空港の藻場は「ブルーカーボン」にも認証され地球温暖化対策として注目されています。
■大阪湾を“海の森”に 関空で育てた海藻を移植 一大プロジェクト始動
5月、関西空港近くの漁港に大谷さんの姿が。
【関西エアポート 大谷優里さん】
「なるべく成熟に近いお母さんになる海藻を採ってきてもらって、なるべくいい海藻をお渡しして阪南市の海で育ってもらえるように」
今回、新たに動き出したのが「海の森 保全・再生プロジェクト」。豊かな藻場を大阪湾全体で増やそうと、関西空港の海藻をまずは阪南市の海岸に移植する“初の試み”です。
藻場が広がる護岸近くに到着。まずはダイバーが海藻の生育状況を確認します。
【ダイバー】
「こっちで(海藻が)採れんことはないけど」
【関西エアポート 大谷優里さん】
「(海藻が)小さいんですね?」
【ダイバー】
「向こう側に行けば(成熟した海藻が)いてるような…」
【関西エアポート 大谷優里さん】
「なるべく(採取する海藻は)成熟に近い方がいいですので」
狙っていた場所には、成熟した海藻がまだ少なかったようです。
【関西エアポート 大谷優里さん】
「難しい。うまく子ども(の海藻)が付いて育ってもらわないといけないので…。結構チャレンジです。うまくいくかどうか分かりません」
場所を移動して再びダイバーが海へ潜ります。採取するのは、大きいものでは全長3メートルを超える“シダモク”という大型の海藻。胞子を放出する「成熟期」を迎えた海藻を見つけなければなりません。
【関西エアポート 大谷優里さん】
「大丈夫かな、育っているかな」
心配そうな大谷さんですが、はたしてたくさん胞子を持つ成長した海藻は見つかるのでしょうか。
【関西エアポート 大谷優里さん】
「立派、立派 大きいです、うれしい!4メートル?大きいなー!」
【調査員】
「真ん中のところ膨らんでいます。白くなっているところと真ん中が少し膨らんでいて。膨らんでいるところから卵(胞子)が放出していて粘液が(出ている)」
およそ2時間で、目標としていた150株の採取に成功しました。
■阪南市の海に海藻移植! 新たな魚のすみかとなるか さらに豊かな大阪湾に
採取から2日後、関西エアポートから阪南市に移植される海藻の「引き渡し式」が行われました。
海藻を触った子どもたちからは「ねばねばして納豆みたい~」と感想が。
【阪南市・水野市長】
「本当にありがとうございます。めっちゃ楽しみです」
そして、いよいよ阪南市の海へ。このあたりには1メートルから2メートルの小型の海藻が多く生息していますが、魚のすみかとなるシダモクなどの大型の海藻が少ないことが課題でした。
ダイバーが一つ一つ、くいを打ち込み、手作業で150株の海藻を海底に固定していきます。
シダモクは胞子を出すと1年で枯れてしまう海藻です。「海の森」ができるには、胞子が海底に根付いて、子どもの海藻が発芽し、成長する必要があります。
【関西エアポート 大谷優里さん】
「ちょっと人の手できっかけを与えることでうまく海藻が育つことも経験として持っていますので、守り育てていくことの重要性は感じているところです。海は一つですし、つながっているところですのでそれぞれのサイト(場所)で努力していることは必ず一つにつながって貢献できていくことだと思うのでさらに発展できたらいいなと」
30年かけて豊かになった大阪湾の海藻。この場所も新たな魚のすみかとなるかもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」2023年6月7日放送)