ゼレンスキー来日で世界はどう動く? ウクライナ研究の第一人者が3つのポイントを解説 “訪日決定のタイミング・インド首相との関係・F16戦闘機供与” 2023年05月22日
今回のG7広島サミット、ゼレンスキー大統領が来日したことによって「歴史的 G7」と言われるようになりました。G7の舞台裏、そして世界はどう変わるのか?ウクライナ研究の第一人者、神戸学院大学の岡部芳彦教授に、3枚の写真をもとに解説してもらいました。
岡部先生はこれまでに2度、ゼレンスキー大統領と会ったことがあるそうです。まず今回の電撃来日をどうご覧になりましたか?
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「まさに『広島に始まり、広島に終わる』だったなと思いました。3月下旬に、岸田首相がウクライナを訪れて、物議もあったんですけども、しゃもじを持って行ったということがありました。広島の名産品のしゃもじで、広島をかなり印象付けけられたと思います。仮にこのサミットが東京であるサミットだったなら、ここまでの強い印象を残しただろうか。まさにこの平和の地・広島で、戦時下にあるゼレンスキー大統領がやって来て、協議をするということが、日本そして世界に非常に強いインパクトを与えたんじゃないかなと思います」
岡部先生は、ゼレンスキー大統領の来日を知っていたのですか?
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「もちろん全く知りませんでしたし、逆に来ないんじゃないかと思っていました。1つには、韓国にゼレンスキー大統領の奥様であるオレーナ・ゼレンシカ夫人がちょうど来韓していました。イギリス国王の戴冠式にもオレーナ夫人が出られたので、サミットにも夫人が来ることはありうると考えていたんですけど、本人は来ないんじゃないかと正直思っていました」
「(どういう理由で来ないと予測していたかというと、)東部バフムトの戦況がかなり厳しかったんです。ロシア側は陥落した発表しています。日本のメディアでちょっと情報が出たのは、アメリカのサリバン大統領補佐官が『オンライン』と言わなかったので、日本のメディアが今回もゼレンスキー大統領に同行したウクライナ大統領府のジョウクワ副長官に聞いたら、『戦況次第』って言ったんですね。その時には戦況がかなり厳しいというのがありました。もう1つには、具体的な軍事支援について、4カ国の首脳と既に話し合っていたので、具体的な話っていうのは大体終わっているのかなというのも、遠い日本まで来る必要ないかと思った理由です」
■注目シーン① 松田駐ウクライナ大使が日本で待っていた
ここからは、3枚の写真からG7広島サミットを振り返りたいと思います。
まず1枚目の写真は、ゼレンスキー大統領を出迎えている写真です。松田邦紀駐ウクライナ大使が日本で待っていたということですが、これはどういうことなのでしょうか?
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「各国の首脳が来日する時は、現地に赴任している日本大使がお出迎えするというのが慣例となっています。今、戒厳令も出ていてウクライナから飛行機が飛んいませんので、列車で10時間かかってポーランドまで出て、飛行機に乗るというかなり時間のかかる複雑なルートとなっているんです。急に日本に戻ることは松田大使もできないのですけれども、ここにいるという事は、ある程度予想していたのかなと思われます」
松田大使がここにいるということは、水面下で調整をして、来日が分かっていたのではないかということですが、じゃあそもそもゼレンスキー大統領を招いたのは誰なのでしょうか?ここまでの経緯として、3月に岸田首相がウクライナ訪問、5月にゼレンスキー大統領がフランスを訪問しています。どのタイミングで日本に来ることが決まったと考えられますか?
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「3月の時点ではオープンになっていまして、『形式は問わないので、ぜひ来てください』と岸田首相が提案しました。オンラインあるいは対面どちらでも。ただ以後、戦況がなかなか難しいという状況の中、いろんなオプションが、いろんな時期に検討されたはずです。フランス軍機に乗ってきましたので、マクロン大統領との会談が最終的な判断の1つになったのは間違いないかと思います」
5月のフランス訪問である程度動きがあったとみられるということですが、具体的に来ることはギリギリまで分からなかったのでしょうか?
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「そうですね。2つ考えられるんですが、実は世界中のフライトが見られるサイトがありまして、世界中に飛んでる飛行機がどの位置にいるか確認できるんですけれども、例えばエアフォースワンとか、アメリカ大統領が乗ったものはフィルタがかかって出ないようになっています。ただ今回ゼレンスキー大統領が乗った飛行機はずっと追いかけることができたので、もしかすると急に決まったから、フィルタがかからなかったかもしれない。あるいは、実は中国の上空を飛んで来ていまして、もしかするとロシアからすると、中国上空の通過を許したってことは、中国がウクライナ寄りというアピールなんかもできるんじゃないか。いろんなことが訪日には絡んでいたと思います」
■注目シーン② 「“近さ”を演出、インドに釘を刺す」
2枚目の写真は、21日に行われたG7の首脳らとゼレンスキー大統領の対面での会談の写真です。インドのモディ首相とゼレンスキー大統領が隣に座っていて、岡部先生が指摘するポイントは「“近さ”を演出、インドに釘を刺す」ことだということです。インドはロシアに経済制裁を行っていませんでして、ロシアとの貿易額が増えています。ウクライナ侵攻後も、中立的なスタンスを取り続けていました。
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「すごく考えられた席順だと思います。1つはモディ首相とゼレンスキー大統領が握手をしたということだけでもすごいことです。ゼレンスキー大統領のインスタグラムに、音声を消して音楽をかぶせた、かっこいい映像が公開されているんですが、握手をしているゼレンスキー大統領とモディ首相を見たら、プーチン大統領とかロシア政府関係者は大げさにいうと腰を抜かすぐらい驚いてるんじゃないかと思います。そして並びも絶妙で、モディ首相、ゼレンスキー大統領、隣には韓国の尹大統領が座っています。岸田首相がウクライナに行った後、尹大統領には『どうして行かないんだ』という韓国内の世論があったわけです。ここでゼレンスキー大統領の隣に尹大統領を座らせることで、岸田首相は尹大統領に“貸し”を作るような形になっています。尹大統領からしてもウクライナに行くプレッシャーもかからず、ゼレンスキー大統領に会うことができたといえます」
■注目シーン③ アメリカがF16戦闘機の供与を容認
3枚目の写真です。ゼレンスキー大統領に寄り添うアメリカのバイデン大統領が写っています。F16戦闘機の供与を容認したということで、戦争終結は近いのでしょうか。F16戦闘機は地上への攻撃などで威力を発揮すると言われています。バイデン大統領は、パイロットの訓練を支援すると言っています。ただロシア領内では使わない約束をしたということです。
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「アメリカが直接F16を供与するとは、バイデン大統領は一言も言っていません。他国に輸出されているF16が供与されるのであれば、再輸出に関することに関しては、異を唱えないという間接的な形で言ったわけなんです。ただウクライナはずっと航空戦力あるいは戦闘機が非常に不足しています。ウクライナの反攻作戦があると言われる中で、地上部隊がいくら強くても、空から攻撃されるとやはり元も子もありませんので、求めていたものの確約が取れたというのは、対面でサミットに来た大きな成果じゃないかと思います。ゼレンスキー大統領としては、やはり来て成果が上がった、良かったということになるんじゃないかと思います」
「ロシアの反応については、以前から『戦闘機の供与はロシアにとってレッドゾーンだ』とプーチン政権が言っていますので、リアクションはしばらくしないと分からないというのが正直なところだと思います」
ここで、関西テレビ「newsランナー」視聴者から質問です。
「Q.休戦、さらには停戦に向けて、日本ができることは?」どんなことがありますでしょうか。
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「ゼレンスキー大統領は、去年各国で国会演説をしていた時、アメリカとかヨーロッパではかなりインパクトのある、強いメッセージを出していましたが、日本では結構ソフトだったんです。今回、日本でのサミットでも記者会見で日本に対するメッセージというのは、やはり平和ですとか復興というのがテーマでした。それは彼らもよく分かっていて、日本はそこが役割だと思っていて、休戦後に力を入れてほしいと思っているんだと思います」
今回のゼレンスキー大統領来日を受けて、広島ではどう受け止められているのでしょうか?
【関西テレビ 加藤さゆり報道デスク】
「広島平和記念資料館の館長の話などを聞いてるとですね、もちろんしっかり見ていただいたとは思いますし、広島を訪問してもらった意義はあると思いますが、これをアピールのような形とか、パフォーマンスで終わってほしくないという気持ちで見ている広島の方もいらっしゃることは忘れちゃいけないと思います」
世界の注目を集めたサミットとなりましたが、真価はこれから問われていくことになりそうです。
(関西テレビ「newsランナー」2023年5月22日放送)