まもなく“岸田・尹”日韓首脳会談 「関係改善して良かった」という世論になれば…もう『反日』カード使えなくなるか “おもてなし”と“お土産”にも注目 朝鮮半島情勢に詳しい鴨下ひろみさん解説 2023年05月04日
日韓関係の前進に向け、岸田首相が5月7日から韓国を訪れ、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との首脳会談を予定しています。そのさなか、韓国の野党の国会議員が、島根県の竹島に上陸し、物議をかもしています。
一方、岸田首相は、“外遊ウィーク”でアフリカなどを歴訪中。その総仕上げとして、7日に韓国を訪れます。シャトル外交での韓国訪問は、12年ぶりのことです。今回の岸田首相訪韓にあたり、日本は韓国に“何を持っていく”ことになるのでしょうか。
このニュースについて、朝鮮半島情勢に詳しい、甲南女子大学・鴨下ひろみ准教授にお話を聞きました。
■議員の“竹島上陸” 韓国内で大きな反応なし 1年生野党議員のパフォーマンスか
まず、韓国の国会議員が竹島に上陸したことについてみていきます。2日、韓国の最大野党「共に民主党」の田溶冀(チョン・ヨンギ)議員らが、竹島に上陸しました。これに対し日本政府は、韓国側に強く抗議しました。
なぜ今このタイミングで竹島に上陸したのか。「岸田首相の訪韓を前に、反日ムードを高めたいから」ではないかと、鴨下さんはみています。親日の立場をとる尹大統領に対して反発し、反日感情をあおる、韓国国民に向けたメッセージなのでしょうか。
【甲南女子大学 鴨下ひろみ准教授】
「野党にとって、尹政権を攻撃するためのカードが『反日』なんです。反日をアピールすることによって、歴史認識問題や領土問題で、日本を批判すれば世論の支持を得やすい、ということがあります。今回竹島に上陸した議員は、野党の中でもかなり厳しい対日強硬派で、政治的なパフォーマンスといった意味合いが大きかったと思います」
「この議員が竹島に上陸したことに対して、韓国内でそれほど大きな反応はないです。まだ1年生議員ですし、野党側の議員ですので、それほど大きな話題にはなっていないと思います」
■尹大統領は強い“信念の人” 親日路線は簡単に“ぶれない”のでは
次に、尹大統領の支持率についてみていきます。韓国世論調査会社のリアルメーターによると、尹大統領の支持率は、3月に日韓首脳会談が行われたときから、わずかにではありますが、下がり始めました。一方、4月に米韓首脳会談が行われたタイミングで、少し上がりました。不支持率は上昇していて、現在60%を超えています。
この状況を尹大統領が危機的だと捉え、日本への姿勢を変えてくることも懸念されますが、鴨下さんは「親日路線は変えない」とみています。数字を見ると、支持率は低いと言えるでしょうが、それでも国民の声に応じて態度を変える動きにはなってこないのでしょうか。
【甲南女子大学 鴨下ひろみ准教授】
「そうですね。尹大統領は、検事出身で、政治経験が全くないまま大統領になった人です。検事時代は、かなり時の政権にたてつく形で、自分の信念を貫いてきたということがあります。そして就任直後から、日韓関係の改善に強い意欲を持っていますので、そう簡単には“ぶれない”とみています」
■岸田首相訪韓の“おもてなし”と“お土産”は?
ぶれずに親日派でいくとみられる尹大統領と岸田首相は、7日に首脳会談を行います。人と会う時に気になる“おもてなし”と“お土産”についてみていきます。
3月の日韓首脳会談で、尹大統領が訪日した際に、日本側は“異例の2次会待遇”でおもてなししました。すきやきとオムライスをはしごして、日本のビールと韓国の焼酎を混ぜた「爆弾酒」で杯を交わして、親交を深めました。
今回、岸田首相が訪問する際に何をお土産に持っていくのか。過去を振り返ってみますと、2011年に野田元首相が韓国を訪問した際は、李明博大統領に、「朝鮮王朝儀軌」などといった書物を引き渡しました。これは植民地時代に朝鮮半島から日本に持ち込まれ、韓国側が返還を求めていたもので、これを渡すことで友好ムードをアピールしたということです。先のウクライナ訪問では、岸田首相が「必勝しゃもじ」を持って行ったということがありました。
【甲南女子大学 鴨下ひろみ准教授】
「韓国側は、日韓のシャトル外交の復活と、日韓関係の改善を強くアピールしたいと考えていると思いますので、何らかのサプライズを検討しているのだと思います。具体的にはまだ分かりませんが、やはり日本と韓国の象徴になるような形のおもてなしを、検討すると思います」
「韓国側は、3月の尹大統領訪日直後から、日本の“誠意ある対応”“誠意ある呼応”をずっと求めてきています。その流れの中で、何らか韓国にとってメリットになる措置を、日本から引き出したいと考えているのではないかと思います」
ここであらためて、日韓首脳会談のポイントをまとめます。
・北朝鮮の軍事偵察衛星に対して連携
・徴用工や慰安婦など歴史問題への“謝罪”継承
これらを韓国側は日本に求めてくると、鴨下さんはみています。
【甲南女子大学 鴨下ひろみ准教授】
「尹大統領は4月の訪米前のインタビューの中で、『100年前の問題について、日本に再び謝れということはできない』と明言しています。ただ、3月に訪日した際に、韓国ばかりが譲歩して、得るものがなかったではないかと、韓国国内からの批判がありました。野党など中心に『屈辱外交』と言われました。ですのでおわびではないのですけれど、過去に歴代政権が表明した『おわびと反省の気持ちを継承する』と言ってほしいのだと思います」
日韓の関係の先に、日米韓の安全保障問題があると考えられます。4月の米韓首脳会談では、核の共有について踏み込んだ発言がありました。日米韓となると、核問題も含めたいろいろな問題が、日本に突き付けられてくる難しさがあるのではないでしょうか。
【甲南女子大学 鴨下ひろみ准教授】
「核の共有の問題については、米韓でも食い違いがあり、4月の米韓首脳会談の際に、韓国側は『共有する』と発表しましたが、アメリカ側は『共有ではない』と否定する場面がありました。ただ北朝鮮をけん制するためには、アメリカの“核の傘”のもとで、日米韓がしっかり連携して対応していく姿勢を示す必要があると思いますので、核共有の問題はさておいて、日米韓の連携の強化ということを改めて確認されると思います」
■「関係改善して良かった」という世論になれば、「反日」カードは使えなくなる
「newsランナー」の視聴者から、「大統領が変われば、日韓関係はまた悪くなるのでは?」と質問がきています。
【甲南女子大学 鴨下ひろみ准教授】
「ご指摘の通りで、今の尹政権の間に、できる限り日韓関係の強化・改善を図って、『日韓関係改善して良かった』という方向に、韓国国民の世論が進めば、いいのではないかと思います」
「『日韓関係は良くした方がいい』という意見が、韓国でも実は大勢を占めます。ただ、歴史問題や領土問題はどちらの国も譲れない立場がありますので、その点をうまくマネージしながら、国民同士が『日韓は関係改善した方がいいよね』というのがコンセンサスとして広がっていけば、韓国の野党が反日カードを使えなくなる。そうすれば政権交代を心配せずに、日韓関係を維持・継続していくことが可能になっていくとみています」
5月7日から行われる日韓首脳会談、どういった形になっていくのか、注目されます。
(関西テレビ「newsランナー」2023年5月3日放送)