子育て世代が直面する“小1の壁” 「小学校があと30分早く始業だったらな…」 朝も夕方も親は時間との戦い 一方で"勤務は午後4時まで"子育てに優しい会社も 2023年04月21日
この春からピカピカの小学1年生になった子どもたち。その一方で、働く親たちを悩ませているのが…“小1の壁”。
国もこのことを重く受け止めています。
【岸田文雄首相 3月13日衆院予算委】
「共働き家庭等が直面するいわゆる“小1の壁”。これを打破することが喫緊の課題」
最新の調査では共働き世帯は、日本全体で7割を超え(妻が64歳以下の世帯のうち 内閣府調べ)、学童保育に通う児童は去年、およそ140万人となりました。数は右肩上がりで増加していて、それに対応するように学童保育の数も増え、受け皿は充実してきているようにみえます。
しかし…令和のいま、子育てをする家庭で何が起きているのか?取材しました。
■子育て世代が直面「小1の壁」 朝はバタバタ 時間との戦い
大阪府門真市に住む、野本健太さん(32)、睦さん(32)夫妻。夫の健太さんは会社員、妻の睦さんは調理師として働き3人の子どもを育てています。
野本さん夫婦は毎朝6時に起床。3人の子どもたちの朝の準備を済ませ、合間にお弁当の用意と目が回るような忙しさです。
睦さんはこれまで、毎朝7時半から蓮大郎くんと次男の2人を保育園に預け、電車で40分かけ通勤していました。
しかし、4月から小学1年生になった蓮大郎くんの登校時間は1時間遅い8時半。睦さんは職場に掛け合い、小学校にいく蓮大郎くんを見送ってからでも9時の始業時間に間に合うよう、家から自転車で通える場所に勤務地を変えてもらいました。
【野本睦さん】
「一人で鍵を締めさせて出させることもできないし。仕事時間ぎりぎりやし、どうしようって感じ。(登校時間が)8時とか、30分だけでも早かったら、だいぶ働きやすいな」
保育園では午前7時ごろから預かってくれる早朝保育や、夜も延長保育などがありますが、小学校になると登校時間は午前8時過ぎ、学童保育も午後6時半までに閉まるところがおよそ4割です。
このような預かり時間の違いによって、仕事と子育ての両立が難しくなる、いわゆる“小1の壁”が共働き世帯などに高く立ちはだかっているのです。
実は睦さんは、1歳の長女の出産に伴い育休中でしたが、この日から職場復帰です。
新しい職場なので、9時始業の15分前には到着を目指して、子どもたちの送り出しスタートです。
8時15分に小学校に行く長男を見送り、8時20分には、下の子2人を自転車に乗せ保育園へ! 8時30分には、子どもたちを保育園に預けて、職場へ向かいます。8時45分、何とか無事、始業前に職場に到着しました。
しかしこんな綱渡りの日々を過ごすのは、野本さんだけではありません。これは大阪市内の小学校に通う子どもを持つ保護者へのアンケートの結果です。
【アンケート結果】
「日々ドキドキしながら時間との戦い」(40歳代・子ども3人)
「出勤ギリギリになるので職場にも迷惑をかけることが増えました」(40歳代・子ども2人)
「正社員からパートに変更。子どもが学校に行ってから出勤し、子どもが帰ってくるころには家にいるようにした。もう少し収入が欲しい」(40歳代・子ども3人)
“小1の壁”に直面した保護者から切実な声が寄せられました。
■帰宅時間が親よりも早い“鍵っ子” 子どもだけの留守番に不安も
さらに小学生になった子どもの帰宅時間が、親の帰宅時間より早いという“小1の壁”も…
新1年生の田中マオちゃん(仮名)、学童保育を終え、夕方5時過ぎに、小学5年生のお姉ちゃんが待つ家に帰ります。
姉のメイちゃん(仮名)は、少し前から鍵を持つようになり、お母さんが仕事を終え帰ってくるまでの1時間ほど、小学生になったばかりの妹の面倒を見ています。
お母さんの田中ヨシノさん(仮名・38歳)は、管理栄養士として平日朝8時半から夕方5時半までフルタイムで働いています。
仕方ないとはいえ、子どもだけの留守番にはやはり不安があると話します。
【田中ヨシノさん(仮名・38歳)】
「基本的に子どもが学童から5時に集団登校で帰っちゃうので、そこを(家で)出迎えられないっていうのが一番不安な点。『ちゃんと家に着いているかな?』っていうところがあるので」
(–Q:1年生から“鍵っ子”をさせるのは?)
「それはできないですね。何かあった時に対処がまだ多分できないと思うので、外で誰かに声かけられたとか。どうしたらいいかっていうのはまだ1年生じゃ分からないと思うので」
ヨシノさん(仮名)の職場では正社員で時短勤務をすることが難しく、時短勤務が可能なパートタイムに切り替えると給料が下がってしまいます。
【田中ヨシノさん(仮名・38歳)】
(–Q: 時短でお給料が変わらないならそうしたい?)
「お給料が変わらないんであればね、それがいいと思うんですけどね」
保護者へのアンケートでも、1年生ぐらいの子どもだけで留守番させることには否定的な声が集まりました。
【アンケート結果】
「今は地域で子どもを見守る意識が低い、親が守るしかない」(30歳代・子ども2人)
「子どもだけの家の中で何かあると怖い」(40歳代・子ども2人)
こうした不安が、令和の“小1の壁”が解決しない原因のひとつとなっているのです。
■終業は全社員“午後4時”子育てに優しい会社 離職率低下で売上はキープのまま
そんな中、フルタイムなのに子どもの時間に合わせた働き方ができる会社が、大阪市にありました。
【ゼスト・新井庸能社長(46)】
「もう何年も前から“全員時短”にしようということで取り組んでいまして。ちょっとずつ早めていって、今(午後)4時終了となっております」
ネット通販で、オリジナルの名前シールを販売するゼスト。この会社では、なんと定時の終業時間が午後4時の“全員時短”を実現しています。
社員22人の平均年齢は30代前半で、育休中を含め現在およそ半数の社員が子育て中です。
社長の新井さんが“全員時短”に取り組んだきっかけは自身の子育ての経験からでした。
【ゼスト・新井庸能社長】
「僕も毎朝保育園に連れて行っていたんです。これから社員たちが結婚しだして、子どもできたら、お迎え行くの大変やなと思って。普通なら(終業時間)午後6時までだったんで、(育休から)復帰した子は時短勤務っていう形になっていたと思うんですけど。ただ、そうなると早く帰るのもめちゃめちゃ気を遣うし、残った社員たちもその人の分の仕事をせなあかんってなったら。だからもうね、『全員時短にしよう』っていう発想で、こうなりましたね」
それから7年ほどかけて、業務の効率化を図り、終業時刻を午後6時から4時に短縮することができました。
現在、夫婦共働きで5歳と1歳の2人の子どもを育てている社員の小渕さん。
【小渕征紘さん】
「(2時間の時短は)最初はやはり試行錯誤しながらという形だったんですけど、結果的に効率化できたんじゃないかなと」
(–Q:奥さんから午後4時に帰ることについては?)
「そこはすごいうれしいっていう声ですね。本当にありがたい感じでした」
入社して10年、現在2人の子どもを育てている酒井さんは…
【酒井岬さん】
「私はもう残業代とかもいらないので、できるだけ早く子どもを迎えに行って、絵本を読んであげたりとか、おもちゃで遊んだりとかお話ししたりとかしてあげたいので、そういう時間も取れるので。今、結構理想ですね」
子育てしやすい環境を整えることは、会社にとっても大きなメリットが…
【ゼスト・新井庸能社長】
「やっぱり一番は離職率がすごく低い。誰かやめると仕事も回らなくなって大変なんですけども、僕自身がもう誰もやめてほしくないんですね。誰かやめると寂しいじゃないですか」
2018年までの離職率は35パーセントでしたが、過去5年間の離職率は5パーセントになり、大幅に減りました。“全員時短”に取り組み、社員の労働時間は減りましたが、会社の売り上げはキープできています。
終業時間の午後4時を知らせるチャイムが鳴り、社員全員が帰宅しました。
【小渕征紘さん(2人子育て中)】
「この後、あの幼稚園のお迎えに行きまして」
(–Q: 十分間に合う?)
「間に合う感じです」
(–Q: お迎えの後は?)
「料理します」
「子どもと向き合う時間が欲しい」
「子どもが心配で見てあげたい」
令和の“小1の壁”には、親のこんな気持ちに寄り添った対策が必要なのかもしれません。
(2023年4月19日放送)