【独自】 山上被告の「父親代わり」 弁護士資格を持つ伯父が語る 「梅雨のころ接見に行ければ…」 安倍元首相銃撃事件 「次の天命は暴力ではないやり方で探しなさい」と言いたい 2023年04月08日
安倍晋三元首相銃撃事件で、殺人や銃刀法違反、武器等製造法違反などの罪で起訴された山上徹也被告。今は裁判の開始を待っています。4歳の時に父親をなくした山上被告を、父親代わりにみてきた親族がいます。弁護士の資格を持つ伯父です。特に、事件があった2022年7月8日以降は、さまざまな形で山上被告や家族に関わってきました。「近く勾留されている徹也に会いに行こうと思う」。そう話す伯父は、思いをつづった5枚のメモをもとに、記者に現在の心境を語りました。
関西のとある閑静な住宅街。暖かな春の日差しの下で咲くソメイヨシノにはたくさんの鳥が集まっています。「ウチの庭にはたくさんの野鳥が来ますよ。四季を感じられるようにサザンカや寒ツバキ、桜などを植えて50年近く手入れを続けています。自然はとても面白いですよ…」。山上被告も幼い頃に見ていた庭を眺めながら、伯父はこう事件について振り返ります。
「荷物まとめて、すぐに母親と一緒にタクシー乗ってうちに来なさい…」。事件当日、ニュースで事件を知った伯父は、すぐに被告の妹に、こう電話をしました。それ以来、伯父はメディア取材のために自宅に帰れなかった被告の母親に、約1カ月間にわたり自宅の部屋を提供したり、事件でショックを受けた被告の妹と連絡を取り合ったりしました。
伯父は、逮捕された山上被告に、彼が好きな日本史の書籍やマンガの他、英検など資格取得のための参考書などの差し入れを始めました。伯父が直接被告と接見したり手紙をやり取りしたりすることはなかったといいますが、被告と連絡を取り合う妹を通じて要望を聞き、時には百貨店で購入した衣類を差し入れすることもあったといいます。
記者が伯父の家を訪れると、そこには大阪拘置所から大量の段ボールが届いていました。「徹也の元には全国から大量の差し入れが届けられました。100万円を超える現金の差し入れもあったと聞いています。余った洋服や食品はうちに送られてきて、お菓子などは食べきれないので老人会で配ったり、徹也の意向で児童施設に送ったりしましたよ」と伯父は語ります。全国から被告の元に届いた大量の差し入れのうち、本人が受け取り切れないものが送られてきたのです。記者がのぞいた段ボールの中には、大量の靴下やシャツが入っていました。
また捜査を行う検察官を家に呼び、事件の背景について説明することもあったといいます。被告の母親がかつて旧統一教会に1億円以上の献金をしたこと、被告が2005年に自殺未遂を図ったこと、その後、2014年までに伯父自身が教会から5000万円を取り戻したこと。山上家と旧統一教会の間で起きたさまざまな事柄について、検察官に説明や資料提供を行いました。伯父は「法曹にいた者としての責務ですよ」と話します。
伯父は、事件捜査や世間の反応について、特に弁護士として思うところもあったと話しました。例えば銃撃事件からおよそ2週間がたった7月25日、裁判所は犯行時の山上被告の精神状態を調べるための約4カ月間の鑑定留置を認めました。その後、奈良地検が二度にわたって延長を請求し、それに対して弁護団が不服を申し立てるなどの経緯があり、結局、鑑定留置は約5カ月半にわたって実施されました。「責任能力なんて問えるに決まっているのに、鑑定留置が果たして本当に必要だったのか。その必要性について具体的理由を公表すべきではなかったか…」。伯父はこのように、鑑定留置についての疑問をあらわにしました。1948年11月の判例を引き合いに「この鑑定留置は法律が必要としている疎明ができているとは思えない。違法ですよ。つまるところ、加熱した世間の沈静化を待つためのものだったのでしょうよ」と話します。
また伯父は、旧統一教会の解散命令請求をめぐる問題についても「質問権は行使されているが、最終的に解散命令請求は出されないと思っていますよ。それは解散する際の法的手続きに理由があるんです」と話します。「宗教法人が解散すれば“清算法人”になるんです。すると清算手続きによって旧統一教会と政治家との結びつきが丸裸になるわけですよ。どの政治家にどれくらいお金が動いたのかがわかってしまう。それはもう政治家にとったら“オウンゴール”ですよ。だから政府は、解散命令は請求したくないんじゃないかな」。伯父はそのようにみているといいます。
山上被告の量刑に関して、一部の弁護士がテレビなどで“無期懲役”などと意見していることについて「公判が行われておらず、弁護人の主張や立証が行われていない段階でそのような安易な主張は弁護士としての職務を放棄する行為ですよ」と話します。それでは量刑について伯父は弁護士としてどのような主張をするのか。記者の問いに伯父は「日本の法律は“目には目を”といったハンムラビ法典のような単純なものではない」と指摘します。「刑法には“緊急避難”や“正当防衛”といった、結果が重大であっても罪が問われない、あるいは情状により刑が減軽される考えが存在します。また裁判は時の人々の価値観を基準に行われますが、今回も被告に対する同情・共感・エールなどが考慮されるはずです。私ならそう言った考えを軸に主張を行いますね」と持論を展開しました。
伯父はこれまで半年以上の取材の中で、事件に対する受け止めや、山上被告に会いに行くかどうかといった質問に対し「事件について思う事は、天命である、ただそれだけです。また今行っても話すことがありませんから、徹也に会いに行く気はないですよ」と話してきました。妹は、山上被告に接見していますが、伯父は一度もしていません。しかし今回の取材で伯父は「近く勾留されている徹也に会いに行こうと思う」と話しました。伯父として、被告に対する“準備”が整ったことが理由だと話しました。
「徹也が服役したり、その後出所したりすると、生活環境について誰かが面倒をみないといけない。また事件で傷ついた妹の心の支援も必要です。さらに徹也にとってはどこまでいっても母親は母親ですから、彼女の生活は心配事になります。これらは全て私がやるべきことで、そのために動いていますよ。めどが立てば徹也に接見して“何も心配はいらない”と伝えてやるつもりです。徹也は弟の子どもですから、徹也のためなら私は何でもやりますよ。やっぱり血は水よりも濃いんです」。
また伯父は「すべて天命」という自身の事件の受け止め方についても、被告に伝えると話します。伯父によると、和歌山県にある先祖ゆかりの寺に伝わる「世の事はすべて人知の及ばない天命」との教えだといいます。「徹也には、次の天命は暴力ではないやり方で探しなさいと言いたい。そのために勉強しなさいと伝えたい」。弁護士として生きてきた自分だからこそ、強くそのように思うとも話しました。
山上被告への接見はいつになりそうか、そう尋ねるとこのように答えました。「6月になると亡くなった家内が昔植えた藤の花が咲くんですよ。梅雨の頃ですね。そのころまでに準備を終えて接見に行けたら良いですね」
山上被告に対する心情を語った伯父。「血は水よりも濃い」と話すように、その言葉からは親族としての思いが伝わってきました。また、法的な知識に裏付けされた指摘もありました。しかし被害者側から見れば、事件は凶悪で、許されるものではありません。社会に大きな衝撃を与えた今回の事件。裁判の審理で全容が明らかにされ、公正な判断が示されることを待ちたいと思います。
(取材 関西テレビ記者 森孝郎)