「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)=虐待」を疑われた父親に「無罪」 逮捕から5年、長くつらい“家族分離” 「平穏な日常取り戻すこと願う」 判決後に裁判長も異例の発言 2023年03月17日
生後2カ月の長男を、激しく揺さぶって傷害罪に問われた父親の裁判で、17日、大阪地方裁判所は無罪判決を言い渡しました。逮捕から5年。家族は、離れ離れの暮らしを余儀なくされました。
【裁判長】
「今日を区切りに家族との穏やかな日常を取り戻されることを切に願っています」
判決を言い渡した後、裁判長が父親に語りかける異例の場面がありました。
■家族4人で過ごす幸せな日々が一変 父親に“虐待疑い”
赤阪友昭さん。プロカメラマンとして国内外を飛び回る生活でしたが、自宅にいるときは、家族4人の時間を大切にしていました。4人で過ごす幸せな日々。それが一変したのは6年前。
育児で疲れていた妻を休ませるため、赤阪さんが泣き出した生後2カ月の長男をあやしていた時のことでした。
【赤阪友昭さん】
「長男を抱いていたら、泣いてる声が高くなった。おかしいなと。強い泣き方している。顔真っ赤っか。なぜそんなに泣くのかと思っていたら、その泣き声が止まった。呼吸が止まっている状態だったと思うんですけど。何かのどに詰まって呼吸が出来ないのかもしれない。それで、僕は背中をたたいた」
すぐに救急車を呼び長男は病院に運ばれました。長男の体にケガの痕はありませんでしたが、脳の検査結果から医師が疑ったのが…
「揺さぶられっ子症候群(通称SBS)」
赤阪さんが長男を暴力的に揺さぶった結果、頭や目の中で出血が起きたのではないか、という診断でした。
赤阪さんは疑いを否定しましたが、長男はその後まもなく児童相談所に一時保護されました。
【妻の亜樹さん】
「『そんなことするような主人じゃないです』と児相に話をしても、(児相は)鑑定医の結果をもとに、主人を疑っていたので、そんな主人を信じているご家族のもとに(長男は)返せないと」
家族4人は離れ離れになりました。そして、2018年10月、赤阪さんは大阪府警に逮捕され、その後、傷害罪で起訴されました。
赤阪さんは逮捕から5カ月後、ようやく保釈が認められました。しかし、裁判所や児童相談所は、赤阪さんが長男や妻と会うことを厳しく制限しました。
【赤阪友昭さん】
「家族といられないのが一番つらい。…子供のことが心配ですよね」
【妻の亜樹さん】
「(児相や司法は)意味のない家族分離の時間が続くことをどう考えているのかなと…こんな目に遭う家族がもう出ないほうがいいです。つらすぎて…」
2020年4月、逮捕からおよそ1年半が経ったころ、長女は保育園の卒園式を迎えました。赤阪さんはこの日に限り、家族で集まることが裁判所から許されました。赤阪さんは久しぶりに会う妻と固く抱き合いました。
そして長く会えなかった長男とも対面…妻や長女も見守る中…長男は父親の赤阪さんを見て“笑顔”です!
【赤阪友昭さん・妻の亜樹さん】 「あ!笑ってる」
【妻の亜樹さん】 「パパって言えるもんな」
【長男】 「パパ」
【妻の亜樹さん】 「いつも写真で練習してるから」
赤阪さん…長男にうずくまり涙を流しました。この日が終われば、また離れ離れの暮らしが待っていました。妻の亜樹さんのスマートフォンで家族みんなの写真を撮りました。
■2022年裁判始まる 弁護側は医学的な検査結果を根拠に無罪を主張
2022年6月、ようやく裁判が始まりました。裁判で、検察側は「頭蓋内や眼の出血の状態は激しい揺さぶりでしか生じない」などとして懲役5年を求刑。
一方、弁護側は長男の出血の原因について医学的な検査を何度も実施しました。そして明らかになったのが…
【川上博之弁護士】
「分かったことは、糖鎖の異常という先天性の病気があることによって、救護目的で『大丈夫か』と(背中を)たたいたときの揺れですら、普通の子では起きないかもしれないが、この子に限っては、出血が起きたり、広がってしまった可能性を高める」
弁護側は、検査結果を根拠に「長男には先天性の疾患があり、軽い衝撃で出血しうる状態だった」として無罪を主張しました。
そして、3月17日の判決。大阪地方裁判所は、「長男は先天性の疾患などにより、軽い外力で出血した可能性があり、動機も認められない」として「無罪」を言い渡しました。
判決の後、末弘陽一裁判長は、「5年あまりの家族の苦悩は言葉では言い尽くせない。きょうを区切りに家族との穏やかな日常を取り戻されることを切に願っています」と赤阪さんに語りかけました。
【赤阪友昭さん】
「(裁判長から)『家族との穏やかな日々を』と言っていただいて、本当にそういう日が送れる時が来たんだなと思いました」
【妻の亜樹さん】
「今まですごく緊張の糸が張りつめていた時間だったのかなって…ことし迎えられた春を家族と一緒に楽しめたらいいなと思います」
赤阪さんは「今後同じつらい思いをする家族が出てほしくない」と話しています。
■取材を続けてきた“弁護士資格を持つ記者”が伝えたいこと
この裁判を取材してきた上田記者とお伝えします。17日の裁判では、どう感じましたか?
【上田記者】
「弁護側の主張を認める判決でした。驚いたのが、裁判長が最後に『家族との平穏な日常を取り戻されることを切に願っています』と、非常に気持ちのこもった言葉で語りかけられたことです。それは非常に異例の言及で、裁判が長くかかってしまった、家族が犠牲になってしまったことに対して、気持ちを込められたのかなと思いました。またこれは、裁判長から検察への『これ以上、家族の時間を犠牲にしてはいけない』というメッセージだったのではないかと感じました」
裁判を通じて一番言いたいことはどういったことでしょうか。
【上田記者】
「『検察は引き返す勇気を!』持ってほしかった」
「弁護側が医学的な検査をした結果、長男に“先天性疾患”があったことが分かりました。出血の原因になりうるということが分かっていきました。それが証拠として出されたときに、検察側は初めて聞いた事実であったはずです。検察はそのような調査はしていなかった。『真相を解明する』というのが検察の大きな役割なのですから、その時点でもう一度、赤阪さんが暴力的な揺さぶりをしたのかどうか、ゼロベースで見直すべきだったのではないか。引き返す判断をできるタイミングがあったのではないかと思えてなりませんでした」
【神崎報道デスク】
「5年前という時期が一つポイントです。2018年にこの事案が発生した当時、虐待事案で検察が起訴してほぼ有罪になる状況でした。その後“揺さぶられっ子症候群”で、いくつか無罪判決が出るようになり、医師の診断が大丈夫なのかと疑念が生じるような判決も出てきました。そういった流れがありました」
「また、この件では弁護側が新しい医学的な根拠、新証拠を出しましたので、本来であればその時点で検察側は立ち止まって、起訴を取り下げることもできたと思います。起訴を取り下げるというのは、検察にとってかなりハードルが高いことなので、結果的に裁判は進んでいって、家族にとって5年の時が失われることになったんですね」
【上田記者】
「起訴を取り下げることは、検察の中で、かなり重い手続きが必要だとされているようです。そういったことで簡単には引き返せない。ただ『真相解明』が検察の役割なのですから、裁判の途中で分かったことがあれば、調べ直したり、修正することは恥ずかしいことではないと思います。今回の裁判では引き返すタイミングがありました。今後、捜査の在り方について大きなヒントを与える判決になったのではないかと、私は思いました」
(関西テレビ「報道ランナー」2023年3月17日放送)