政府が進めているのは新型コロナの法律上の位置付けを、重症化リスクや感染力が高いとされる「2類相当」からインフルエンザと同等の「5類」に引き下げる議論。
「5類」になると、原則感染者や濃厚接触者の自宅待機といった行動制限がなくなり、診療や入院の受け入れも一般の医療機関で可能となります。
気になる医療費についてはこれまで全額公費負担だったところ、「5類」になると自己負担が生じるおそれがありましたが、当面の間は公費負担が継続される見通しです。
また、厚生労働省の会合では、3月で終了する新型コロナワクチンの無料接種期間について、4月以降も全額公費負担を続ける方針が示されました。
一方、岸田首相はこれまで屋内での着用を推奨してきたマスクについて、発熱している人などを除き、「原則不要」とする方向で調整しています。
新型コロナの5類への引き下げについて医療の現場はどう感じているのでしょうか?
【富永クリニック・稲岡祥治医師】
「(引き下げは)賛成の方ですね。ワクチン接種の対応をした上で生活に影響が出ないように持っていかないとね」
大阪市の「富永クリニック」では患者は基礎疾患を持った高齢者が多いためこれまで新規のコロナ患者の受け入れは行っていませんでした。
【富永クリニック・稲岡医師】
「(新規患者は)現状ではまだお断りしていますただ、今後5類に変わって一般患者も受け入れてほしいという要望があれば対応していかないといけないですね」
今後の診察について前向きな考えですが、課題は感染者との区分けといいます。
【富永クリニック・稲岡医師】「コロナは5類といってもインフルエンザと同列には扱えない。非常にうつりやすい。患者さんの待機場所や一般患者と感染の疑いある患者をどう分けるかということですね」
現在、かかりつけの患者が発熱した場合に屋外に専用の診察スペースを設けていますが、患者数が増えれば対応は難しいといいます。
–Q患者が大勢来たら対応は?
【富永クリニック・稲岡医師】
「今のところはできませんが、今後何らかの方法を考えないといけませんね」
■「5類」で生活はどう変わる?
27日にも政府が対策本部会議を開催し、新型コロナの感染症法上の位置付けを原則として、この春に現在の「2類相当」から「5類」に引き下げる方針を決定する方向で現在調整しています。
法律上、5類になった場合に変わることについて、関西医科大学附属病院の宮下修行教授に聞きました。
▼行動制限
現在、コロナ陽性者は最大7日間、濃厚接触者は最大5日間となっているのですが、感染症法上5類に引き下げられた春からは行動制限がなくなります。
【新実彰平キャスター】
「陽性者や濃厚接触者が自由に動くことになりますね?」
【関西医科大学附属病院・宮下修行教授】
「(一般的に)だいたい若い人は数日で元気になります。5類になると、感染の恐れがあっても外に出てしまう可能性があります。無症状で感染を広げてしまうので、行動制限をやめると感染者が増えるのは間違いないかと思います」
【新実彰平キャスター】
「5類引き下げの目的としては重症化する人が少なくなってきたので、行動制限で社会を止めるのは色々な弊害があるということですよね。バランスが重要なのでしょうか」
【関西医科大学附属病院・宮下教授】
「重症化率や致死率は限られた人に絞られてきました。行動が活発な人は軽症で済んでいるので、その人たちを止めるのは、私は反対ですね」
▼ワクチン・入院・検査
現在、ワクチン接種も医療費も全額公費負担で無料ですが、春以降も無料のワクチン接種を続けるかどうかは、2022年度中に結論を出すとしています。入院と検査は当面無料にする方針です。
【関西医科大学附属病院・宮下教授】
「第8波で診察していても、ワクチンを受けている人と受けていない人で症状が異なります。打っていない人の方が重症化や亡くなる方がとても多いです。ワクチンを有料化するとさらに接種控えが出るのは困る。また、若い方でもコロナがインフルエンザと違うのは、コロナは後遺症が残る人がいるということです。ワクチンを打っている人の方が後遺症になっていない人が多いのです。ワクチンが有効であるのは間違いないですね」
【新実彰平キャスター】
「検査についても有料になるとPCR検査だと1万円近くなるといいます。今は有料にするには早いのでしょうか」
【関西医科大学附属病院・宮下教授】
「有料になると受診控えも出てきますし、入院患者に使用するベクルリーという薬は1日6万円、最大10日間使います。薬代だけで60万円の3割負担でも約20万円。高いですね」
▼診察
医療機関の診察については、現在、感染対策ができている医療機関の発熱外来が中心ですが(※入院は指定医療機関)、春からは原則、一般の医療機関でも診察が行われるようになります。
【新実彰平キャスター】
「法律では医師法19条に『診察治療の求めがあった場合は、正当な理由がなければ、これを拒んではならない』とあります。すべての医療機関が新型コロナ患者を受け入れるということなのでしょうか」
【関西医科大学附属病院・宮下教授】
「問題は『正当な理由』というところです。5類はインフルエンザとなっていますが、ほかにもHIVや急性脳炎などの重篤な病気も含まれています。それは専門性がないという理由で診察を拒むことができます。また、コロナは感染力が強いので医療機関でゾーニング(区分け)が出来ないという理由は『正当な理由』となってきます」
【新実彰平キャスター】
「新型コロナの致死率を見ますと、高齢者の致死率はオミクロン株と季節性インフルエンザはほとんど同じです。ただ、コロナはインフルより感染力は最大6倍強いため、コロナの方が多くの方が入院して多くの方が亡くなるということになります。病院での院内感染も起こりやすいんですね」
【関西医科大学附属病院・宮下教授】
「私たちの病院でも病床がひっ迫しました。5類になって困るのは、保健所が患者の入院先を差配していたのですが、診察したことがない病院が院内感染が起こるような患者を診察するのは難しい」
【新実彰平キャスター】
「宮下教授の提言は次の通りです。これまで通り、感染対策の補助金を継続し、ゾーニングなど感染対策の指導もすべての医療機関に行うということです。そうしないと、5類にすることでコロナを診察する医療機関が減ってしまう恐れがあるんですね?」
【関西医科大学附属病院・宮下教授】
「患者を診るたびに部屋をクリーニングしたりとお金がかかります。継続されないと、病院は経営があるのでお金がかかることに手を出したくないということになりますし。どうしても感染対策をきちんとできていない病院があったために、手を挙げてこないところがあった。そういう病院に指導しないとならないのは間違いないですね」
「病気の種類では5類相当だと思います。ただ一定の方が亡くなっていて、弱者の方が亡くなっています。それを防ぐために、ワクチンを打っている人と打っていない人では大きな違いがあります。ワクチンの重要性を認識していただきたいです」
(関西テレビ「報道ランナー」2023年1月26日放送)